【映画レビュー『アダムズ・アップル』】神も悪魔も笑う、壊れた信仰と人間の弱さを映す皮肉なブラックコメディ【マッツ・ミケルセン生誕60周年祭】

『アダムズ・アップル』© 2005 M&M Adams Apples ApS. REVIEWS
『アダムズ・アップル』© 2005 M&M Adams Apples ApS.

「マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」より、『アダムズ・アップル』を紹介&レビュー。

『アダムズ・アップル』概要・あらすじ

11月14日(金)より始まる特集上映「マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」にて上映される『アダムズ・アップル』は、マッツ・ミケルセンと数多くの作品でタッグを組んできたアナス・トマス・イェンセン監督が2005年に手がけた作品だ。信仰と善悪をめぐる寓話性を備えたブラックコメディであり、更生プログラムで田舎の教会に送られたネオナチの男が、牧師から与えられたリンゴの木でパイを作るという課題を通じて、次々と試練に向き合っていく物語である。出演はマッツ・ミケルセンウルリク・トムセンほか。

『アダムズ・アップル』© 2005 M&M Adams Apples ApS.

『アダムズ・アップル』© 2005 M&M Adams Apples ApS.

ネオナチのアダムは、保護観察の更生プログラムによって地方の教会へと送られる。彼を快く迎え入れた牧師イヴァンは、庭の木に実るリンゴでパイを作るよう命じるが、その木は鳥や虫害など、次から次へと試練に見舞われていく。共同生活を送るなかで、アダムは牧師の異様なまでの楽観主義と、降りかかる試練の意味に向き合わざるを得なくなる。そしてやがて、彼自身の計画もまた揺らぎ始めていくのだ。

神、悪魔、諸行無常な人生

人生に絶え間なく降りかかる試練。それは神の采配なのか、悪魔の仕業なのか。そもそも神とは何で、悪魔とは何を意味するのか。結局のところ、そうした概念はすべて幻想にすぎず、人生とは幸運と不運のはざまで移ろいゆく諸行無常そのものではないのか。本作は信仰と現実、宗教と人間の関係性について深く問いかける哲学的作品であると同時に、観る者を戸惑わせるような独特の笑いを生み出すブラックコメディでもある。

『アダムズ・アップル』© 2005 M&M Adams Apples ApS.

『アダムズ・アップル』© 2005 M&M Adams Apples ApS.

シュールな空気に飲まれるコメディ

本作の面白さは、悪人が自分以上の曲者と対峙したときに見せる戸惑いにもある。ネオナチのアダムは、奇妙な牧師イヴァンと接するうちに、いつしか善人寄り、常識人寄りの立ち位置へと追いやられていく。サイコパスめいた言動を繰り返し、人々を救うようなポーズをとりながら共感性の欠片も見せないイヴァン牧師。その存在に周囲が翻弄される様は、観客すらも困惑させずにはおかない。

『アダムズ・アップル』© 2005 M&M Adams Apples ApS.

『アダムズ・アップル』© 2005 M&M Adams Apples ApS.

しかし物語が進むにつれ、イヴァン牧師の過去と、彼がそのような人間になった経緯が明らかになっていく。この展開こそが、先に述べた哲学的な問いを観客に突きつける仕掛けとなっている。

マッツ・ミケルセン×ウルリク・トムセンの化学反応

現実から目を背けたくなる逃避思考と、それにすがる宗教。自分に言い聞かせるように他者へも熱弁し、説き伏せてしまう姿。本作は“弱い人間の強さ、強い人間の弱さ”という逆説を、ブラックコメディの手法で鮮やかに描き出している。マッツ・ミケルセンは、その独特の容貌を活かして怪しげな牧師イヴァンを印象深いキャラクターとして体現。一方、ウルリク・トムセンの演技も秀逸だ。荒くれ者でありながら、牧師に対して「なんだこいつは」と困惑していくアダムの表情は、観客の心情と見事に重なり、思わず笑いを誘う。常にダークな空気を纏いながらも、クスリと笑えるシュールな味わいを持つ本作は、ハマる人には深く突き刺さる一作といえるだろう。

『アダムズ・アップル』© 2005 M&M Adams Apples ApS.

『アダムズ・アップル』© 2005 M&M Adams Apples ApS.

個人的な話をすれば、筆者は2019年の上映時にこの作品に強く心を掴まれ、その後配信やDVDでの発売がないことをずっと残念に思っていた。だからこそ、今回再び日本のスクリーンで鑑賞できることは、この上なく喜ばしい。『アダムズ・アップル』は、11月14日(金)より始まる特集上映「マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」にて上映される。

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