【来日インタビュー/MINALIMA】『ハリー・ポッター』の世界を作ってきたデザイナーデュオ“ミナリマ”に取材!特に苦労したデザインや日本のファンへの感謝など

ミナリマ(左:エデュアルド・リマ/右:ミラフォラ・ミナ)(by courtesy of Warner Bros. Studio Tour Tokyo) INTERVIEWS
ミナリマ(左:エデュアルド・リマ/右:ミラフォラ・ミナ)(by courtesy of Warner Bros. Studio Tour Tokyo)

今年開業2周年を迎える“ハリポタツアー”こと「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京」に、映画『ハリー・ポッター』シリーズの世界観を形作ったグラフィックデザインデュオミナリマが来場-ミラフォラ・ミナとエデュアルド・リマによるこのふたりは、2018年の大阪(梅田阪急)での初来日を皮切りに、日本向けのインタビューにはこれまでも何度か応じてきたが、スタジオツアー東京での公式取材対応は今回が初となる-本記事では、ふたりに伺った貴重なインタビューの模様を紹介する。

グラフィックで物語を形づくる-ミナリマが築いた魔法世界の歩み

ミナリマ(左:エデュアルド・リマ/右:ミラフォラ・ミナ)

ミナリマ(左:エデュアルド・リマ/右:ミラフォラ・ミナ)(by courtesy of Warner Bros. Studio Tour Tokyo)

『ハリー・ポッター』シリーズのグラフィックを担ったミナリマは、映画の世界観を裏側から支える存在である。

ミラフォラ・ミナエデュアルド・リマによるこのデザインデュオは、2001年の映画『ハリー・ポッターと賢者の石』からシリーズに参加し、新聞「日刊予言者新聞(The Daily Prophet)」やホグワーツの手紙、忍びの地図、百味ビーンズのパッケージに至るまで、膨大な数のグラフィックを制作してきた。

2009年にはデザインスタジオ「スタジオ・ミナリマ」を設立。映画『ファンタスティック・ビースト』シリーズにも引き続き参加し、魔法世界のビジュアルの統一性と創造性を担っている。また2016年には、ロンドンにギャラリー兼ショップ「House of MinaLima」を開設。これを皮切りに大阪、東京、ソウル、ニューヨーク、パリなどでもショップ開設やポップアップ展示といった展開を続け、グラフィックで“魔法”を可視化するアートの魅力を発信し続けている。

ミナリマ(左:エデュアルド・リマ/右:ミラフォラ・ミナ)

ミナリマ(左:エデュアルド・リマ/右:ミラフォラ・ミナ)(by courtesy of Warner Bros. Studio Tour Tokyo)

デジタル技術が進化する中でも、彼らはアナログな手描き表現や紙の質感、活版印刷などにこだわり、作品ごとの時代背景やキャラクターの個性をグラフィックで補完する姿勢を貫いてきた。映画において“あって当たり前”とも言える美術デザインに、物語を伝える力を宿す。それがミナリマの役割であり、信条である。

『炎のゴブレット』で挑んだ立体造形-生き続ける“ゴブレット”の存在感

『ハリー・ポッター』シリーズの中でもスケールが大きくなる第4作『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』では、ミナリマが初めて本格的に立体的なプロップデザインに挑んだという。

ミラフォラ・ミナ(以下、ミナ)「この作品では、これまでのグラフィックに加えて、多くの三次元的なプロップ制作を手がけました。リサーチを重ね、ロンドンの博物館を訪れるなど、視覚的な裏付けを得ながらデザインしました」と語る。

特に象徴的なのが、作品タイトルにもなっている“炎のゴブレット”そのものだ。「このゴブレットには、長い歴史を感じさせる建築的なディテールを持たせつつ、同時に“今も生きている木”のような感覚を与えたかったのです。未完成ではなく、常に進化し続ける存在として表現しました」(ミナ)

© cula

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その制作はスタジオ内のプロップチームと密接に連携して行われた。実際の木の幹を用いた彫刻と装飾の融合により、現実と幻想の間にあるような質感を実現したという。

さらに、エデュアルド・リマ(以下、リマ)「ボーバトンやダームストラングが登場し、外国にある他校の校章を初めてデザインしたのもこの作品です」と補足する。これらの新キャラクターや学校に対する視覚的アプローチも、大きな挑戦のひとつだった。

(by courtesy of Warner Bros. Studio Tour Tokyo)

(by courtesy of Warner Bros. Studio Tour Tokyo)

映らないものにこそ命を吹き込む-燃やされてしまったセットデザインの制作秘話

『炎のゴブレット』では、物語の前半に登場するクィディッチ・ワールドカップのシーンにおいて、ミナリマが大規模なグラフィックデザインを手がけた。テント、看板、パンフレット、食べ物の包装紙や屋台の装飾など、まるでフェスのような賑わいを表現するため、膨大な数のデザインを用意したという。

ミナリマ(左:エデュアルド・リマ/右:ミラフォラ・ミナ)

ミナリマ(左:エデュアルド・リマ/右:ミラフォラ・ミナ)(by courtesy of Warner Bros. Studio Tour Tokyo)

「まるで音楽フェスのように、観客が入る前の世界を全部用意したんです。会場の外に広がる屋台や出店、そこに並ぶフルーツ、ストロー、小さなディテールもすべてデザインしました」(ミナ)

しかし、それらの大半は映像に残っていない。「ワールドカップ会場は死喰い人(デス・イーター)たちに襲撃され、セットの多くが燃やされてしまいました。結局、撮影されなかった部分もたくさんあります」とリマは振り返る。

「一部は映っていても、本当に一瞬だけ。中にはまったくカメラに収まっていないものもありました。あれだけの世界を作っても、観客には届かない。でも、それでも作る。そこに意味があるんです」(リマ)

リマのこの言葉は、映画の“見えない部分”にこそ宿るクラフトマンシップの真髄を感じさせる。スクリーンに映らないからこそ、作り手の信念が試されるのだ。

(by courtesy of Warner Bros. Studio Tour Tokyo)

(by courtesy of Warner Bros. Studio Tour Tokyo)

“何秒しか映らないもの”を好きなだけ見られる場所-スタジオツアーの魅力

スタジオツアー東京の魅力については、ミナは「映画では、何かを見られる時間は数秒程度。でもスタジオツアーでは、訪れた人自身が“どれだけ見るか”を選ぶことができます」と語った。

続けて「映画づくり=俳優の演技と思われがちですが、実は背後には職人たちの膨大な作業があります。例えばピエール・ボハナのような小道具のスペシャリストもそのひとり。ツアーを訪れることで、こうした“職人の仕事”に気づいてもらえたら嬉しいです」とスタジオツアーの意義を語った。

「フィルムの中では“見せかけ”でも、ここにあるものはどれも本物で、現実に近いのです」(ミナ)

“三校”を視覚で語る-学校ごとの個性と連動した世界観構築の舞台裏

ミナリマ(左:エデュアルド・リマ/右:ミラフォラ・ミナ)

ミナリマ(左:エデュアルド・リマ/右:ミラフォラ・ミナ)(by courtesy of Warner Bros. Studio Tour Tokyo)

第4作『炎のゴブレット』で登場する三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)は、視覚表現の面でもシリーズを大きく広げた。ミナリマはこの大会にあたって、作品全体に3のモチーフを意識的に組み込んだという。

「“三校の対抗戦”というアイデアを、どう視覚的に落とし込むかをまず考えました」(ミナ)

登場する二つの外国校、それぞれのデザインにも強い個性を持たせている。フランスのボーバトン校については、「とてもクラシカルな印象のあるフランスの学校で、ロココ様式のような華やかなデザインを意識しました。これは『ハリー・ポッター』の世界にこれまでなかったタイプです」とミナは語る。

一方、ダームストラング校について、リマは「赤と緑を基調とした力強い色彩と、イーグルのモチーフ、硬質な襟元など、非常に男性的な印象の学校でした」と振り返る。こうした対比が、視覚的にトーナメントの緊張感と異文化性を引き立てた。

さらに彼らが強調したのは、美術・衣装・造形など各セクションが同時進行で制作していたこと。「たとえばボーバトンの馬車のデザインや衣装と、私たちのグラフィック作業が同じ建物内で同時に進んでいたから、自然と連動できたんです。だからこそ、完成映像には統一感があるんです」(ミナ)

また、試合に付随する舞踏会(ユール・ボール)でも招待状やポスターを制作したという。「いつも簡単には作らない。複雑なものばかり作ってしまうんですよ」とリマは笑った。

(by courtesy of Warner Bros. Studio Tour Tokyo)

(by courtesy of Warner Bros. Studio Tour Tokyo)

“完成”などない-見えない部分も磨き続ける職人のこだわり

シリーズ第4作『炎のゴブレット』の頃になると、ミナリマの仕事にも“再設計”という新たな課題が加わっていた。過去に登場したアイテムの再登場に伴い、微調整や再構築を重ねていく必要があったという。

「第3作を終えた時点では、まだ『ハリー・ポッター』の全巻が出版されていなかったので、先の展開がわからないままデザインしていました。でも、あとから続編に登場する場所やアイテムが戻ってくると、“あれを作り直さなきゃいけないね”ということが何度もありました」(ミナ)

一方で、過去作に登場した日刊予言者新聞忍びの地図などについても、「デザイナーというのは、自分の過去作を見ては“もうちょっとよくできるかも”と思ってしまう性分なんです。呪いみたいなものです」と、苦笑交じりに語ったミナ。その“終わりなきデザイン意識”は、今も変わらない。

「先ほどのツアーでも、“あの時このフォントを使ったのは…”とリマが言っていて(笑)。細部まで記憶しているし、常に改善点を探してしまうんです」(ミナ)

ミナリマ(左:エデュアルド・リマ/右:ミラフォラ・ミナ)

ミナリマ(左:エデュアルド・リマ/右:ミラフォラ・ミナ)(by courtesy of Warner Bros. Studio Tour Tokyo)

ただし、そのこだわりも時に“危うさ”を伴うこともあるという。リマは「一度、ユニバーサル・オーランドで講演したとき、“過去に作ったデザインをひとつだけ変えられるなら何?”と聞かれて、正直に1つ答えたんですが…会場がシーンとなってしまって(笑)。“そのデザイン、ダメだったの?”みたいな空気になってしまったんです」と語った。

また、こだわりが評価されるまでには時間がかかることもあるという。「たとえば、瓶のラベルをひとつ作るとしても、ただ名前を書くだけでは終わらない。材料や製造年、架空の会社名まで全部入れる。映らなくても、そこにある“現実”を構築するんです」(リマ)

一度、プロデューサーのひとりが作業現場を訪れたとき、「ここまでの細部って必要なの?」と驚いたという。「もちろん悪い意味ではなく、ただ単純に“そこまでするの?”と(笑)。でも1年後にはその人が、他の関係者に“ここまで作り込まれてるんだよ”って誇らしげに紹介してたんです」「当時は、あれほどの細部まで手をかけた映画は他にありませんでした。それが『ハリー・ポッター』の特別さだと思います」(リマ)

“物語を伝えるためのデザイン”-ミナリマが未来のクリエイターに伝えたいこと

ミナリマが語るグラフィックデザインの核心は、「見た目の美しさ」ではなく、「物語をどう伝えるか」にある。

「私たちの仕事はまずタイポグラフィ(書体)から始まります。映画で俳優をキャスティングするように、私たちは書体を“キャスティング”するんです。デザインの第一印象を決めるのは文字なんです」(リマ)

ミナリマ(左:エデュアルド・リマ/右:ミラフォラ・ミナ)

ミナリマ(左:エデュアルド・リマ/右:ミラフォラ・ミナ)(by courtesy of Warner Bros. Studio Tour Tokyo)

映画に限らず、商品や新聞、ブランドなど、すべてのビジュアルには“語るべき背景”があるという。

「ウイスキーのラベルを作るとしても、そのブランドが持つ物語をまず想像します。その会社がどこで、どんな価値観を持っていて、何を伝えたいのか。それがグラフィックで伝えられれば、自然と見る人の心に届くのです」(ミナ)

また彼女は、「何より大切なのは、自分自身の“参照ライブラリー”を持つこと」だと語った。

「インターネットだけに頼らないで!本屋、古書店、博物館、アーカイブ…本物の資料を見て、自分の中に蓄積していくことが大事。それが“自分のデザイン”を形づくるのです」(ミナ)

リマはその姿勢を「AIじゃなくてRI(Real Intelligence)なんだ」と表現した。

彼らの作品に影響を受けて、グラフィックデザインの道を目指す若いファンも少なくない。

「『ハリー・ポッター』の中のデザインに触れて、“自分もこんな仕事がしたい”と語ってくれる人たちに出会うことが何よりの報酬です。そのたびに、私たちは本当に泣いてしまうんです。人の心を動かしたいという想い、それがすべてです」(リマ)

スタジオツアーで“観察する力”を育てる-物語は細部に宿る

スタジオツアー東京に訪れる観客の中には、美術やデザインに興味のある人も少なくない。そうした人たちに向けて、ミナリマが語る“見るべきポイント”は、あくまでシンプルで本質的だ。

「大切なのはディテール(細部)を見ること。それは抽象的に聞こえるかもしれませんが、“意味のあるディテール”を重ねることで、初めて物語が層として現れるのです」(ミナ)

ツアーに展示されている本や小道具を見比べてみるだけでも、物語上の時間や感情の流れが浮かび上がってくるという。

「たとえばある本は子どもっぽく、ある本は何百年も前の重要な資料のように見える。なぜそうデザインされているのか? それはそのシーン、その時点のキャラクターや物語にとって必要だったからです」

「何も理由がないものは作っていません。すべてに意図がある。展示物を見ながら、“なぜこの見た目なのか?”を考えてみてください。きっと答えはそこにあります」(ミナ)

ただ“展示を見る”だけでなく、“観察し、考え、気づく”こと。スタジオツアーは、映画美術の奥深さを体験できる“教材”そのものである。

“こんなに遠くても、つながっていた”-日本のファンとの出会いがくれたもの

ミナリマが初めて日本を訪れたのは2018年。大阪・梅田阪急で初の“ハウス・オブ・ミナリマ”出展を行った。

「正直、最初は“日本は遠すぎるから、自分たちのことなんて誰も知らないだろう”と思っていたんです。でも、ファンの方々は『ハリー・ポッター』だけでなく、私たちのこともちゃんと知ってくれていて…本当に驚きました」(ミナ)

イベントではミート&グリートも実施され、多くのファンと直接言葉を交わした。

「“日本のファンは控えめだし、文化的にあまりハグなどはしないので敬意を持って接するようにね”なんて言われていたんです。でも最初に来てくれた女性はとても優しく、“ハグしてもいいですか?”と聞いてくれて。それがきっかけで、そこから来てくれた皆さんが次々にハグしてくれて、涙や笑顔に包まれた時間になりました」(リマ)

彼らは、日本のファンが見せた“細部への情熱”や“物語への共感”が、自分たちの美学と自然にマッチしたことに深く感動したという。

「おそらく、私たちが細部やストーリーテリングに情熱を持っていることと、日本の観客の感性がとてもよく合っていたのだと思います。そうしたつながりに気づけたことは、今でも特別な体験です」(ミナ)

日本のファンは、“ミナリマの仕事そのもの”に対する関心も強いという。

「『ハリー・ポッター』の中の一部としてではなく、“どうやってその紙を選んだのか”“どんなふうに決めたのか”といった制作プロセスについて、深く知ろうとしてくれるんです。それが嬉しいですね」(リマ)

さらには、ファン自身が手作りの贈り物を持ってくることもあるという。

「折り紙で作ったものをいただいたり、ラッピングが信じられないくらい凝っていたり…。日本のクリエイティビティには、いつも本当に驚かされます。他のどこにもないレベルです」(ミナ)

ファンからクリエイターへ、クリエイターからファンへ。物語とデザインを通じた“双方向の創造的なつながり”が、遠く離れた日本とロンドンの間に確かに存在していることを、彼らは何より喜んでいた。

“物語を共に生きた証”-ミナリマにとっての誇りとこれから

最後に「数々の象徴的なアイテムを手がけてきたなかでも、特に最も誇りに思う仕事は?」と尋ねると、二人は迷いながらも、いくつかの名前を挙げてくれた。

「やっぱり忍びの地図と日刊予言者新聞ですね。どちらも、ただの小道具というよりは“キャラクター”のような存在です」(リマ)

「でも、ブラック家の家系図のタペストリーもすごく好きです。あれにはたくさんの物語と、私たちのリサーチの成果が詰まっていて、本当に誇れる仕事だと思っています」

加えてリマは、「ホグワーツの本」も欠かせないと語った。

「7年間学校にいるわけですからね。その間に読まれる本を全部デザインするのは、大変だけど楽しい仕事でした」

ミナリマ(左:エデュアルド・リマ/右:ミラフォラ・ミナ)

ミナリマ(左:エデュアルド・リマ/右:ミラフォラ・ミナ)(by courtesy of Warner Bros. Studio Tour Tokyo)

一方でミナは、「一番誇らしいのは、この体験全体だと思う」と語った。

「私たちは『ハリー・ポッター』を通して出会い、ミナリマが誕生した。そしてワーナー・ブラザースやツアーを通じて、観客や制作チームと長くつながり続けている。それが何よりの喜びなんです」(ミナ)

リマも「今日はスタジオツアー東京2周年、そして来年はミナリマ誕生25周年。それでもまだ、こうして一緒に仕事をしていて、しかもお互いを好きなままだっていうのは…すばらしいことだよね」と笑った。

物語の世界と現実の世界。そのあいだをグラフィックでつなぎながら、ミナリマの“魔法”はこれからも続いていく。

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