映画『ベイビーガール』(2024)を紹介&解説。
映画『ベイビーガール』概要
映画『ベイビーガール』は、ハリナ・ライン監督(『BODIES BODIES BODIES/ボディーズ・ボディーズ・ボディーズ』)が、社会的成功を収めた女性CEOと若い男性インターンの危うい関係を通して、欲望、羞恥、支配と服従を描くエロティック・スリラー。主演のニコール・キッドマンは本作で第81回ヴェネチア国際映画祭の最優秀女優賞に輝いた。共演はハリス・ディキンソン、アントニオ・バンデラス、ソフィー・ワイルドら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『ベイビーガール』 |
|---|---|
| 原題 | Babygirl |
| 製作年 | 2024年 |
| 本国公開日 | 2024年12月25日 |
| 日本公開日 | 2025年3月28日 |
| ジャンル | エロティック・スリラー/ドラマ |
| 製作国 | アメリカ |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 114分 |
| 監督・脚本 | ハリナ・ライン |
|---|---|
| 製作 | デビッド・ヒノホサ/ジュリア・オー/ハリナ・ライン |
| 製作総指揮 | クリスティン・デスーザ・ゲルブ/エリカ・ハンプソン/ザック・ナットマン |
| 撮影 | ヤスパー・ウォルフ |
| 編集 | マシュー・ハンナム |
| 作曲 | クリストバル・タピア・デ・ビール |
| 出演 | ニコール・キッドマン/ハリス・ディキンソン/アントニオ・バンデラス/ソフィー・ワイルド/エスター・マクレガー/ヴォーン・ライリー |
| 製作 | A24/2AM/マン・アップ・フィルム |
| 配給 | A24(アメリカ)/ハピネットファントム・スタジオ(日本) |
あらすじ
ニューヨークでロボット関連企業のCEOを務めるロミーは、舞台演出家の夫ジェイコブや子供たちと暮らし、仕事でも家庭でも恵まれた人生を送っていた。しかし、その内側には誰にも打ち明けられない欲望と満たされない思いを抱えている。
そんなロミーの前に、若いインターンのサミュエルが現れる。彼はロミーが隠してきた本性を見抜いたかのように、際どい言葉と態度で彼女を挑発する。駆け引きをやめさせようとサミュエルに会ったロミーだったが、次第に彼へ主導権を明け渡し、仕事と家庭のすべてを危険にさらす関係へ足を踏み入れていく。
主な登場人物(キャスト)
ロミー(ニコール・キッドマン):ロボットによる物流の自動化を推進する企業のCEO。夫とふたりの娘に囲まれ、社会的にも大きな成功を収めているが、その完璧な生活の裏側に満たされない欲望を隠している。
サミュエル(ハリス・ディキンソン):ロミーの会社で働き始めた若いインターン。自信に満ちた態度と鋭い観察力でロミーの本性を見抜き、CEOとインターンという社会的な立場を覆すような駆け引きを仕掛けていく。
ジェイコブ(アントニオ・バンデラス):ロミーの夫で、舞台演出家。妻と娘たちを愛する穏やかな人物だが、ロミーが隠していた欲望と裏切りに直面し、困惑、衝撃、怒りへと感情を揺さぶられていく。
エスメ(ソフィー・ワイルド):ロミーのもとで働く意欲的な部下。成功した経営者であるロミーに憧れながら、自らのキャリアを切り開こうとしている。ロミーとサミュエルの危うい関係にも影響を及ぼす存在となる。
作品の魅力解説
言葉と小道具だけで反転していく力関係:本作で特に緻密なのが、ロミーとサミュエルの関係を形作る会話だ。ひとつの言葉、一往復の質問、クッキーや牛乳といった小さなアイテムを介して、ロミーが評価され、指示され、隠していた本性を暴かれていく過程が可視化される。職場ではロミーが絶対的な権力を握っている一方、ふたりきりの空間ではサミュエルが心理的な主導権を奪っていく。その反転を、派手な事件ではなく呼吸や視線、言葉の選び方によって成立させる脚本は、心理操作を観察する会話劇としても味わい深い。
理性と欲望の間で揺れるニコール・キッドマン:社会的地位を守ろうとする理性と、すべてを投げ出してでも解放されたい欲望の間で揺れるロミーを、ニコール・キッドマンが大胆に体現している。恥じらいや恐怖、屈服することへの期待が入り交じる複雑な表情は強烈であり、その演技は第81回ヴェネチア国際映画祭の最優秀女優賞にも結びついた。ロミーの反応を注意深く探りながら支配の境界線を動かしていくハリス・ディキンソンも見事で、ふたりの間に生じる緊張が作品を牽引する。
裏切りに直面する夫の感情:アントニオ・バンデラスが演じるジェイコブの存在によって、本作は単なる刺激的な不倫劇には収まらない。妻の告白を受け止めきれない困惑が深いショックへ変わり、やがて怒りとして噴き出していく演技のグラデーションには説得力がある。ロミーの欲望を一方的に断罪せず、それによって傷つけられる家族の感情も丁寧に描くことで、物語に倫理的な奥行きを与えている。
先端技術と人間の原始的な衝動:ロミーは、ロボットによる自動化を取り入れた先進企業を率いる、極めて合理的な経営者として描かれる。しかし、仕事では人や物の動きを効率的に制御できる彼女が、自らの本能と欲望だけは制御できない。この対照には、技術や社会の価値観がどれほど進歩しても、人間は動物的な衝動から完全には逃れられないという皮肉が込められている。
本作は欲望を美化するだけでなく、誰が誰を支配しているのか、同意はどのように確認されるのか、社会的権力と私的な力関係は一致するのかを絶えず問い直す。Rotten Tomatoesの批評家スコアは76%、MetacriticのMetascoreは79を記録。刺激的な題材に依存せず、演技と心理的な駆け引きによって観客を引き込むエロティック・スリラーとなっている。
