【映画レビュー『VENUS/ヴィーナス』】ヨーロッパホラーの伝統を継承しながらも独自の魅力を放つスペイン発・異色ホラー

『VENUS/ヴィーナス』© 2022 Pokeepsie Films SL – The Fear Collection II A.I.E. REVIEWS
『VENUS/ヴィーナス』© 2022 Pokeepsie Films SL – The Fear Collection II A.I.E.

VENUS/ヴィーナス』が5月9日(金)日本公開となった。ジャウマ・バラゲロ監督が贈る本作は、スペイン発のホラー映画界に新たな血を注ぎ込む一作だ。マドリードの喧騒から郊外の不気味なアパートへ——そこで幕を開ける恐怖の一夜は、ヨーロッパ・ホラーの伝統を継承しながらも、独自の光を放つ異形の作品として私たちの前に姿を現す。ダンサーの女性が運命に翻弄される90分間は、観る者の心に不穏な余韻を残すだろう。

【動画】『VENUS/ヴィーナス』予告編

独特の輝きを放つ1作

「ありそうで意外とない、王道になってきた邪道ホラー」——この矛盾に満ちた表現こそが『VENUS/ヴィーナス』の性質に似合うように思う。『REC/レック』で世界的評価を確立したジャウマ・バラゲロ監督が放つ最新作は、一見すると「程よい緊張感を湛えたB級ホラー」という括りに収まりそうだ。だが、そうした安易なレッテルを貼って終わらせるには、この作品はあまりにも惜しい。ヨーロッパの呪い系・魔女系ホラー映画の洪水に埋もれる運命など到底ふさわしくない、何か特別な輝きがスクリーンから放たれている。

ホラー史の中の『VENUS/ヴィーナス』

ホラー映画史には幾多の偉大な足跡が刻まれている。ダリオ・アルジェントは『サスペリア』において、日常の建物という仮面の下に潜む魔女たちの陰謀と不吉な儀式を鮮烈な色彩で描き出した。一方、挑発的な映像作家ギャスパー・ノエは『エンター・ザ・ヴォイド』や『CLIMAX/クライマックス』で、夜の世界に蠢く人間の狂気をサイケデリックな映像言語で表現した。また『マーターズ』や『屋敷女』に代表されるフレンチ・エクストリーム・シネマは、人間の根源的な悪意や歪んだ精神、そして恐怖と狂乱の連鎖を、汚濁にまみれた空間での容赦ない暴力描写を通じて観客に叩きつけてきた。さらに本作のバラゲロ監督と母国をともにするセルヒオ・G・サンチェスは『永遠の子どもたち』や『マローボーン家の掟』において、ひとつの建物を舞台に子どもたちを取り巻く哀しき物語を紡いできた。

『VENUS/ヴィーナス』は、これら先人たちの遺産とはそれぞれ一線を画しながらも、どこか親近感を覚えさせる不思議な磁力を放っている。「好意的に見れば諸要素の絶妙な融合、批判的に見れば中途半端な折衷」とも言えるが、この異種混合的な特質こそが本作固有の魅力として結実している。ドラッグを巡る命懸けの逃避行と追跡者たちの容赦ない暴力。姉妹の絆と、呪われた建物に宿る世代を超えた悲劇。不穏な空気を醸し出す年配女性たちの存在。画面から漂い出る不快な不浄感。そして突き抜けるような暴力と覚醒の瞬間・・・「スペインのホラー映画と言えば?」という問いに対する答えが、この『VENUS/ヴィーナス』によってまた一つ、確かな存在感を持って加わったのである。

スペイン・ホラーの新章

『VENUS/ヴィーナス』© 2022 Pokeepsie Films SL – The Fear Collection II A.I.E.

『VENUS/ヴィーナス』© 2022 Pokeepsie Films SL – The Fear Collection II A.I.E.

5月9日(金)日本公開となった『VENUS/ヴィーナス』は、犯罪、家族の絆、女性の力、そして超常現象——これらの要素を渾然一体として、独特の不穏な魅力を醸成する。バラゲロ監督はこの作品で、ホラー映画の可能性を再定義するとまではいかないものの、既存の枠組みを巧みに操りながら観客を恐怖の淵へと誘う手腕を見せつけた。スペインのホラー映画史に新たな一章を刻む『VENUS/ヴィーナス』は、ジャンルファンなら見逃せない体験となるだろう。

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