『ウリリは黒魔術の夢をみた』が4月5日(金)より日本公開される。火山噴火を引き起こしたと信じるカルト集団、車に命を捧げる母親、そしてNBAスター選手になると予言された少年——この一文を読んだだけでも「どれだけクレイジーな映画なんだ」と思わずにはいられないだろう。しかし本作の真髄は、その奇想天外な設定の奥に潜む普遍的な人間ドラマにある。モノクロームの映像美で描かれるフィリピンのアンダーグラウンド世界で、運命と現実の狭間に揺れる青年の姿は、観る者の心に静かに、そして確実に沈み込んでいく。
『ウリリは黒魔術の夢をみた』あらすじ
ピナツボ火山の大噴火を自分たちの手で起こしたと信じるカルト集団。彼らの黒魔術に導かれ命を日本車ギャランに捧げた狂信的な母カルメンは、アメリカ人男性との間に生まれた赤ん坊にある運命を授ける。それは《プロのバスケ選手となりNBAで活躍する》こと。赤ん坊はスーパースターから名を借りて「マイケル・ジョーダン・ウリリ」と名付けられた。やがて叔母の元で逞しく成長したウリリは伝説の23番を背負い、美しくもビッチな恋人との肉欲とバスケ賭博に明け暮れる青春を過ごしていた。そんな中、アメリカ行きのチャンスが目の前にぶら下がるも頓挫。失意の中、気付けばカルト集団の叔父ルイスや倒錯した大人たちが集うフィリピン・アンダーグラウンドへと踏み込んでゆく。堕ちてゆくウリリに残されたものは、もはやカルメンの化身となった日本車ギャランのみ。果たして彼はバスケの神様に祝福された子どもだったのか、それとも?

衝撃的な設定と予言された運命
映画の冒頭から我々を奇妙な世界へと誘うのは、フィリピンに住み、黒人とフィリピン人の血を引く青年“マイケル・ジョーダン・ウリリ”の衝撃的な過去だ。彼の母は、火山噴火を自らが引き起こしたと妄信するカルト集団の黒魔術によって「車に命を捧げ」、残されたウリリには「NBAで活躍する」という途方もない運命が予言されてしまう。叔母に引き取られたこの青年の設定を聞いただけで、思わず笑ってしまうほどの奇抜さだ。

設定の突飛さには思わず「めちゃくちゃすぎるぞ」とツッコミを入れたくなるが、物語が本格的に展開するにつれ、その奇想天外な設定の下には痛ましく現実的な人間ドラマが横たわっていることが明らかになる。
社会的障壁とアンダーグラウンドへの誘惑
危険なカルト信仰に取り込まれた親族を持つ不条理、そしてフィリピン社会においてマイノリティとして日々直面する人種差別の現実。彼の才能であるはずのバスケットボールさえも、その社会的障壁(いじめや差別的待遇)によって輝きを発揮する場を奪われていく。

モノクロームの映像美の中で描かれるのは、肉欲とアンダーグラウンドの世界への誘惑に次第に屈していくウリリの姿だ。白黒映像のコントラストが彼の内面の葛藤を際立たせ、心に静かに沈み込んでいく。当初は異色の黒魔術ファンタジーと思わせながら、実は極めて普遍的な人間の弱さと社会の冷酷さを描いた作品であることが、一場面ごとに鮮明になっていくのである。
アイデンティティと野望の重さ
この映画が鋭く問いかけるのは、アイデンティティと野望の重さ。現代社会において多くの人々が抱える「何者かになりたい」という承認欲求の普遍性を踏まえれば、幼少期から「NBAスターになる」と予言され、その運命を背負わされた青年の苦悩はなおさら痛切に響く。彼が平凡な日常に適応できず、自己のアイデンティティと成功を追い求めて自滅的な道を進んでいく姿には、胸が締め付けられる思いがする。
ウリリの行く末に観客は固唾を呑む。自分自身では選んでいない運命に翻弄され、それでも自分の居場所を必死に探す彼の姿は、期待と現実の狭間で苦しむ全ての人々の心に深く共鳴するだろう。我々もまた、思いもよらぬ人生の流れに身を任せながら、自分らしさを模索し続けているのではないだろうか。

『ウリリは黒魔術の夢をみた』は一見すると奇抜な設定の物語だが、その本質には普遍的な人間の苦悩と社会の冷酷さが横たわっている。白黒の映像美によって描き出される主人公の内面的葛藤は、誰もが抱える「自分らしさとは何か」という問いへと昇華される。4月5日(金)日本公開のこの作品は、異色のフィリピン映画として、私たち自身の内なる闇と向き合う機会を与えてくれるだろう。
作品情報
監督:ティミー・ハーン
脚本・製作:ティミー・ハーン、マリヤ・ヴィンチェンテ
出演:イヴ・バガディオン、バーバラ・ルアロ、エイドリアン・ヴェルガラ、マーカス・アドロ、カワヤン・デ・ギア、チャールズ・アーロン・サラザール、ジェット・B. ライコ
撮影:アルバート・バンゾン、ジッピー・パスクア
製作総指揮:ジュレス・カタニャグ・ダンゼン・サントス
美術監督:マイキー・レッド
編集:ジョン・トレス
字幕:津留崎麻子
タガログ語監修:永井愛子
協力:テレザ
宣伝・配給:SOMEONESGARDEN
