映画『エミリア・ペレス』が2025年3月28日(金)より日本公開。アカデミー賞で12部門13ノミネートを果たした唯一無二の1作がついにスクリーンに訪れる。
『エミリア・ペレス』予告編
『エミリア・ペレス』あらすじ
メキシコシティの弁護士リタは、麻薬カルテルのボスであるマニタスから「女性としての新たな人生を用意してほしい」という極秘の依頼を受ける。リタは完璧な計画を立て、マニタスが性別適合手術を受けるにあたって生じるさまざまな問題をクリアし、マニタスは無事に過去を捨てて姿を消すことに成功する。それから数年後、イギリスで新たな人生を歩んでいたリタの前に、エミリア・ペレスという女性として生きるマニタスが現れる。それをきっかけに、彼女たちの人生が再び動き出す。
独創的な映像美と音楽
今作を観た全員が口を揃えて「傑作!」と言うような作品ではきっとない作風。しかし、むしろだからこそ今作は大傑作なのだと筆者は言いたい。アカデミー賞13ノミネートは伊達ではない。
静と動、双方のシーンで緻密なアングルとピント処理が冴え渡る撮影。シュールでダークな世界観を崩さず、かつエンタメ性を持たせる絶妙な空気感をまとった楽曲の数々。それらの要素を巧みに統合する編集はまさに職人技。そして、人生における所業無常、欲望、罪と罰―これらをどこに向かっているのか読めない展開で紡ぎ出す脚本はあまりに独創的だ。そこに三者三様のキャラクターと演技が化学反応を生むキャスティングの妙も合わさり、本作を唯一無二の作品へと昇華させている。

『エミリア・ペレス』©2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA
印象的な役者陣の演技
『エミリア・ペレス』と名付けられた今作は、その名のとおり、エミリア・ペレスというひとりの人物の生き方と、それを観察することで影響を受ける人々を描く。欲に忠実で、愛に溢れ、手術前だろうと後だろうと並々ならないオーラで注目と畏敬を集める人物ながら、どこか孤独と苦悩を抱え続けているエミリアを、自身もトランスジェンダーのアイデンティティを持つカルラ・ソフィア・ガスコンが演じたことで、役に深い説得力が満ちている。

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COPYRIGHT PHOTO : © Shanna Besson
ゾーイ・サルダナは、混沌とした状況に振り回されながらも自身の人生の手綱をなんとか離すまいとする弁護士リタを見事に体現。冷静な理論派で、てきぱき動く“シゴデキ”な女性に見せながら、内心には燃える野望と煌めく夢を追い続ける純粋で無謀な一面が眠っている、そんなリタの二面性が非常に印象的であった。世間的に『アバター』で青くなったり『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で緑になったりしている印象が強いであろうサルダナだが、彼女はこれまでもどんな風貌になろうと、素の顔を見せようと、常に有無を言わさぬ存在感を放ってきた。今作で改めて彼女の演技にスポットが当たり、アカデミー助演女優賞を受賞したことはまさに至当といえるし、素直に嬉しく思う。
そしてセレーナ・ゴメスがジェシ役を熱演。ディズニー・チャンネル出身のスター歌手で、今もディズニープラスのコメディドラマで活躍中。そんなポップに煌めき続けている彼女が、アウトローを愛しアウトローに愛される、奔放で激情的で予測不能な女性という役で表現力を見せつけたという意味でも、今作は強いインパクトを残した。

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俯瞰的な視点と普遍的なテーマ
タイトルロールでもあるエミリア・ペレスという人物の解像度があまりに高すぎて、ノンフィクションの伝記映画なのではないかとすら思えてくる本作の魅力は、エミリアを含むそれぞれの人物の人生をジャッジなしに観察する、どこか俯瞰的な視点にある。モラルの押し付けはなく、観客それぞれが自由に登場人物との距離感を見出せる。誰に共感してもいいし、誰にも共感しなくていい。その潔いオープンな姿勢が非常に心地良い。極端な悪人でもなければ、善人でもない登場人物たちは、世を生きる我々の多くが自分を重ねられる姿かもしれない。
エミリアの性自認の問題は、人間が持つ苦悩の一例に過ぎない。欲望、過ち、罪、アイデンティティの悩み、そして理由など存在しない不幸や不条理な人生展開。今作はそれらをどこまでも人間臭く描く普遍的な人生譚だからこそ、どこか不思議な空気感をもった作風にもかかわらず我々は思わず身を乗り出してのめり込んでしまうのだろう。
唯一無二の映画体験

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若干シュールな作風が「ハマらない」という観客はきっといる。なんだかんだ身勝手な登場人物たちに「感情移入できない」と言う“正しい”観客もきっといる。しかし、今作が“唯一無二”の存在感を放つ映画であることを否定する人はほぼいないのではないか。そして、逆にこの作風が大いに「ハマる」観客も、自分を重ねて大いに「感情移入できる」観客もいるだろう。それでこそ映画だ。

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作品概要
タイトル:『エミリア・ペレス』
原題:Emilia Perez
制作:サンローラン プロダクション by アンソニー・ヴァカレロ
監督・脚本:ジャック・オーディアール(『君と歩く世界』『ゴールデン・リバー』『パリ13区』)
出演:ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、セレーナ・ゴメス、アドリアーナ・パス
日本公開日:2025年3月28日
2024年|130分|フランス
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配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/emiliaperez/



