『ザ・ホエール』解説|どんな映画?あらすじ・キャスト・魅力・レビューまとめ

映画『ザ・ホエール』(2022)を紹介&解説。


映画『ザ・ホエール』概要

映画『ザ・ホエール』は、ダーレン・アロノフスキー監督(『ブラック・スワン』『レスラー』)が、サミュエル・D・ハンターの同名戯曲を映画化したヒューマンドラマ。体重272キロとなり、自宅のソファを中心に暮らす英語教師チャーリーが、長年疎遠だった娘との関係を取り戻そうとする最期の数日間を描く。A24が製作に参加し、主演はブレンダン・フレイザー。共演にセイディー・シンクホン・チャウタイ・シンプキンスサマンサ・モートンら。

作品情報

日本版タイトル 『ザ・ホエール』
原題 The Whale
製作年 2022年
本国公開日 2022年12月9日
日本公開日 2023年4月7日
ジャンル ドラマ
製作国 アメリカ
原作 サミュエル・D・ハンター『The Whale』(戯曲)
上映時間 117分
監督 ダーレン・アロノフスキー
脚本 サミュエル・D・ハンター
製作 ダーレン・アロノフスキー/ジェレミー・ドーソン/アリ・ハンデル
製作総指揮 タイソン・ビドナー/スコット・フランクリン/ジョシュ・スターン
撮影 マシュー・リバティーク
編集 アンドリュー・ワイスブラム
作曲 ロブ・シモンセン
出演 ブレンダン・フレイザーセイディー・シンク/ホン・チャウ/タイ・シンプキンス/サマンサ・モートン
製作 Protozoa Pictures/A24
配給 A24(米国)/キノフィルムズ(日本)

あらすじ

恋人アランを亡くした悲しみから過食を繰り返し、体重272キロとなった英語教師チャーリー。歩行器なしでは移動も難しく、一日中ほとんどを自宅で過ごしながら、大学のオンライン講座で生計を立てていた。

看護師で親友のリズに支えられているものの、病状は悪化し、命の危険が迫っても入院を拒み続ける。自らの死期が近いと悟ったチャーリーは、かつて家庭を離れて以来、長年疎遠となっていた17歳の娘エリーとの関係を修復しようとする。

しかしエリーは、自分を捨てた父への激しい怒りを抱えていた。

主な登場人物(キャスト)

チャーリー(ブレンダン・フレイザー):大学のオンライン講座でエッセイを教える英語教師。恋人を亡くして以来、現実から逃れるように過食を続け、体重272キロとなった。健康状態が深刻になる中、疎遠だった娘エリーとの関係を取り戻そうとする。

エリー(セイディー・シンク):チャーリーの17歳の娘。幼い頃に家庭を離れた父に対して強い怒りと反発心を抱えている。学校や家庭でも問題を抱えながら、久しぶりにチャーリーのもとを訪れる。

リズ(ホン・チャウ):看護師でチャーリーの親友。健康状態を心配しながら身の回りの世話を続けている。亡くなったチャーリーの恋人アランの妹でもあり、チャーリーとは深い悲しみを共有している。

トーマス(タイ・シンプキンス):チャーリーの家を訪れる若い宣教師。チャーリーを宗教的に救おうと試みるが、自身も複雑な事情を抱えている。

メアリー(サマンサ・モートン):チャーリーの元妻でエリーの母親。チャーリーが家庭を離れて以降、ひとりでエリーを育ててきた。

作品の魅力解説・レビュー

善と悪では切り分けられない、傷つけ合いながら生きる人間たち

『ザ・ホエール』で胸に残るのは、登場人物の誰かを単純な善人や悪人として片付けられないことだ。

チャーリーは娘を深く愛している一方、かつて家庭を離れたことでエリーを傷つけた人物でもある。エリーの父に対する言動は容赦がなく、ときには残酷にすら見えるが、その怒りの奥には長年抱え続けてきた傷がある。チャーリーを献身的に支えるリズにもまた、彼をただ肯定するだけではいられない複雑な感情が存在する。

人は嫌な自分を簡単には変えられないし、過去に起こったことをすべて元通りにすることもできない。それでも、許せない部分と愛すべき部分が同じ人間の中に併存している。ダーレン・アロノフスキーは、狭い室内を舞台に人物同士をぶつけ続けることで、そんな割り切れない人間関係を緻密に浮かび上がらせていく。

ブレンダン・フレイザーを中心に、キャスト全員が感情をぶつけ合う

何より圧倒されるのがキャスト陣の演技だ。チャーリー役のブレンダン・フレイザーは、身体的な苦痛だけでなく、後悔、罪悪感、娘への愛情、そして他人の中に善良さを見つけようとするチャーリーの心を細かな表情に宿している。ポスターにも使われたあの表情だけでも、彼が抱えてきた感情が一気に押し寄せてくるような力がある。

リズ役のホン・チャウは、優しさと苛立ち、愛情と悲しみを同時に抱える難しい役を自然に成立させる。エリー役のセイディー・シンクも、ただ反抗的な娘としてではなく、その攻撃性の裏側にある寂しさまで感じさせる。

舞台劇を原作とする作品だからこそ、派手な場所の移動ではなく、人間同士の会話と演技そのものが映画を動かしていく。その中心にこれほど強力な俳優陣を置いたことが、本作の大きな魅力となっている。

チャーリーの“重さ”を観客に体感させる画角とカメラワーク

映像面でも、チャーリーという人物の存在そのものをどう見せるかが徹底されている。

撮影を担当したマシュー・リバティークによるスタンダードサイズの画面は、チャーリーと室内の距離を強く意識させる。巨大な身体が画面を占める圧迫感と、外の世界から隔絶された生活空間の閉塞感が重なり、観客まで同じ部屋に閉じ込められたような感覚になる。

自由に動くことのできないチャーリーに対して、カメラ側が人物の周囲を回り込み、位置や距離を変えることで場面を動かしていくのも印象的だ。単純に巨体を見せ物にするのではなく、その身体にかかる「重さ」を映画の画面そのものに背負わせている。

“鯨”のイメージと光が重ねる、救いを求める物語

タイトルが『The Whale』であるように、本作には“鯨”を連想させる要素が幾重にも配置されている。

劇中で繰り返し重要な意味を持つ『白鯨』についての文章をはじめ、チャーリーの身体的な巨大さや、彼を取り巻く人物たちの視線など、“鯨”という存在をさまざまな角度から考えさせる作りになっている。

さらに印象的なのが光の扱いだ。ほとんどの物語が閉ざされた室内で進行するからこそ、窓や扉から入り込む光、その明暗の変化がチャーリーの感情や人間関係と強く結びついて見えてくる。

後悔した過去を消すことはできない。それでも人は誰かを愛し、誰かの中に善良さを信じようとすることができるのか。A24のもと、アロノフスキーと最高のキャストが描き出した、不完全な人間たちの物語がじわじわと沁みる一本だ。

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