映画『インポッシブル』(2012)を紹介&解説。
映画『インポッシブル』概要
映画『インポッシブル』は、J・A・バヨナ監督(『永遠のこどもたち』)が、2004年のスマトラ島沖地震によって発生したインド洋大津波に遭遇した実在の一家の体験をもとに、自然災害の脅威と離れ離れになった家族の生還を描くヒューマンドラマ。タイのリゾート地でクリスマス休暇を過ごしていたマリアとヘンリー、3人の息子たちを巨大津波が襲い、家族は異なる場所へ流されてしまう。主演はナオミ・ワッツとユアン・マクレガー。共演にトム・ホランド、サミュエル・ジョスリン、オークリー・ペンダーガスト、ジェラルディン・チャップリンら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『インポッシブル』 |
|---|---|
| 原題 | Lo imposible |
| 英題 | The Impossible |
| 製作年 | 2012年 |
| 本国公開日 | 2012年10月11日(スペイン) |
| 日本公開日 | 2013年6月14日 |
| ジャンル | ドラマ/スリラー |
| 製作国 | スペイン/アメリカ |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 114分 |
| 監督 | J・A・バヨナ |
|---|---|
| 脚本 | セルヒオ・G・サンチェス |
| 原案 | マリア・ベロン |
| 製作 | ベレン・アティエンサ/アルバロ・アウグスティン/エンリケ・ロペス・ラビニュ/ギスラン・バロウ |
| 製作総指揮 | サンドラ・ヘルミダ/ハビエル・ウガルテ |
| 撮影 | オスカル・ファウラ |
| 編集 | エレナ・ルイス/ベルナ・ビラプラーナ |
| 作曲 | フェルナンド・ベラスケス |
| 出演 | ナオミ・ワッツ/ユアン・マクレガー/トム・ホランド/サミュエル・ジョスリン/オークリー・ペンダーガスト/ジェラルディン・チャップリンほか |
| 製作 | Apaches Entertainment/Telecinco Cinema |
| 配給 | サミット・エンタテインメント(米国)/プレシディオ(日本) |
あらすじ
2004年12月。マリアとヘンリー夫妻は、3人の息子ルーカス、トマス、サイモンとともにタイのリゾート地を訪れ、クリスマス休暇を過ごしていた。しかし12月26日、スマトラ島沖で発生した巨大地震に伴う津波がリゾートを直撃する。
猛烈な濁流に飲み込まれた一家は離れ離れになり、重傷を負ったマリアは長男ルーカスとともに辛うじて生き延びる。一方、ヘンリーも幼いトマスとサイモンを守りながら、消息の分からない妻と長男を捜し始める。
病院も避難所も混乱を極める中、それぞれが家族の生存を信じ、再会を目指して進んでいく。
主な登場人物(キャスト)
マリア(ナオミ・ワッツ):ヘンリーの妻で、3人の息子を持つ母親。津波によってルーカスとともに流され、全身に重傷を負いながらも息子と助け合って生き延びようとする。
ヘンリー(ユアン・マクレガー):マリアの夫。津波発生後はトマス、サイモンとともに生還するが、マリアとルーカスの消息が分からないまま、壊滅した地域を捜し回る。
ルーカス(トム・ホランド):マリアとヘンリーの長男。重傷を負った母を支えながら病院へたどり着き、混乱の中でほかの被災者の家族捜しにも力を貸していく。
トマス(サミュエル・ジョスリン):一家の次男。津波の後は父ヘンリー、弟サイモンと行動し、安全な場所へ避難する。
サイモン(オークリー・ペンダーガスト):一家の末っ子。幼いながら大災害に巻き込まれ、兄トマスとともに父と離れて避難することになる。
作品の魅力解説・レビュー
穏やかな家族旅行を一瞬で破壊する圧倒的な津波描写
本作の第一幕は意外なほど短い。マリアとヘンリー、3人の息子たちが休暇を楽しむ姿を通じて、5人家族の関係性やそれぞれの性格を簡潔に示すと、映画は一気に巨大津波へ突入する。
そこで描かれるのは、人間の意思や努力などまったく通用しない自然災害の圧倒的な暴力だ。建物も木々も人間も濁流に飲み込まれ、それまで豊かだったリゾートの風景がわずかな時間で別世界へ変貌していく。
津波の再現にはデジタル技術だけでなく実際の水やミニチュアなども用いられており、水中で身体が何度も物体へ叩きつけられる感覚まで伝わってくるような凄まじい臨場感がある。実際の2004年の災害を経験した一家の体験が物語の基礎にあることも重なり、その光景を単純なスペクタクルとして消費することが難しいほど恐ろしい。
災害映画から家族のドラマへと切り替わる構成
津波発生後、本作の中心となるのは巨大な災害そのものではなく、離れ離れになった家族の物語だ。
大ケガを負い徐々に衰弱していくマリアと、頼れる家族が目の前の母しかいない状況で気丈に彼女を支えるルーカス。一方では、ヘンリーが幼い息子たちを守りながら、消息不明の妻と長男を捜し続ける。
ディザスター映画として始まった作品が、その後は「生きているかどうかさえ分からない家族を探し続ける」という極めてシンプルな人間ドラマへ変化する。それでも後半には津波の体験を再び身体感覚として突きつける強烈な場面があり、この物語のすべてが巨大災害から始まったのだという恐怖を改めて思い出させる。
ナオミ・ワッツと若きトム・ホランドの壮絶な演技
マリアを演じたナオミ・ワッツの演技は、本作の痛々しさを決定づけている。
まともに歩くことさえできないほど傷つき、体力を失いながら、それでも息子を守ろうとする母親。身体的な苦痛と死への恐怖がほとんど画面越しに伝わるほど切実で、本作で第85回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされたことにも納得させられる。
そして長男ルーカスを演じるのが、後に『スパイダーマン』シリーズで世界的スターとなるトム・ホランド。大人に守られる側だった少年が、重傷の母親を前に自分がしっかりしなければならない状況へ突然放り込まれる。その不安、恐怖、使命感を若くして極めて自然に表現しており、本作をきっかけに注目を集めたことにも頷ける。
ユアン・マクレガーが見せる「父親である前にひとりの人間」の弱さ
ヘンリー役のユアン・マクレガーも強烈な印象を残す。特に電話を借り、離れた場所にいる家族へ状況を伝えようとする場面では、それまで息子たちを守るために何とか踏ん張っていた父親が、声を聞いた瞬間に感情を抑えられなくなる。
大災害に直面しても冷静に家族を導く完璧な父親ではない。妻と息子が死んでいるかもしれないという恐怖に耐え続け、ほんの一瞬で泣き崩れてしまうひとりの人間として演じられているからこそ、その絶望が直接胸に迫ってくる。
「奇跡」だけでなく、その周囲にいた無数の人々まで映す
一家の生還という実話を軸にしているものの、本作は主人公たちだけが特別な被災者だったかのようには描かない。
病院には負傷者があふれ、避難場所では誰もが家族を探している。言葉も国籍も違う人々が互いを助ける一方で、誰かが家族と再会するすぐ近くでは、別の誰かが大切な人を失っている。
家族5人の物語に深く感情移入させながら、その背後に同じような体験をした膨大な数の人々がいたことも画面から消さない。その視点が、『インポッシブル』を単なる「奇跡の生還物語」では終わらせない大きな要素となっている。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
