映画『世界一キライなあなたに』(2016)を紹介&解説。
映画『世界一キライなあなたに』概要
映画『世界一キライなあなたに』は、ジョジョ・モイーズのベストセラー小説『ミー・ビフォア・ユー きみと選んだ明日』を映画化したラブストーリー。失業した女性ルーが、事故によって四肢麻痺となった青年ウィルの介助兼話し相手として雇われ、衝突を重ねながらかけがえのない関係を築いていく。主演は「ゲーム・オブ・スローンズ」のエミリア・クラークと、『あと1センチの恋』のサム・クラフリン。舞台演出家として活躍してきたテア・シャーロックの長編映画監督デビュー作である。
作品情報
| 日本版タイトル | 『世界一キライなあなたに』 |
|---|---|
| 原題 | Me Before You |
| 製作年 | 2016年 |
| 本国公開日 | 2016年6月3日(イギリス/アメリカ) |
| 日本公開日 | 2016年10月1日 |
| ジャンル | 恋愛/ドラマ |
| 製作国 | イギリス/アメリカ |
| 原作 | ジョジョ・モイーズ『ミー・ビフォア・ユー きみと選んだ明日』(小説) |
| 上映時間 | 110分 |
| 監督 | テア・シャーロック |
|---|---|
| 脚本 | ジョジョ・モイーズ |
| 製作 | カレン・ローゼンフェルト/アリソン・オーウェン |
| 製作総指揮 | スー・ベイドン=パウエル |
| 撮影 | レミ・アデファラシン |
| 編集 | ジョン・ウィルソン |
| 作曲 | クレイグ・アームストロング |
| 出演 | エミリア・クラーク/サム・クラフリン/ジャネット・マクティア/チャールズ・ダンス/ブレンダン・コイル/マシュー・ルイス/ジェナ・コールマン/スティーヴン・ピーコック/ヴァネッサ・カービー |
| 製作 | ニュー・ライン・シネマ/メトロ・ゴールドウィン・メイヤー/サンスウェプト・エンターテインメント |
| 配給 | ワーナー・ブラザース |
あらすじ
イギリスの田舎町で暮らす26歳のルイーザ・“ルー”・クラークは、長年勤めていたカフェの閉店によって職を失う。家計を支えるために仕事を探したルーは、交通事故で四肢麻痺となった青年ウィル・トレイナーの介助兼話し相手として、半年間の期限付きで雇われる。
かつて仕事やスポーツ、旅行を精力的に楽しんでいたウィルは、事故後の生活に希望を見いだせず、周囲に対して心を閉ざしていた。経験のないルーを当初は冷たくあしらうものの、彼女の型破りな言動や屈託のない明るさに触れ、少しずつ笑顔を取り戻していく。やがてルーは、ウィルが自らの人生について重大な決断を下していることを知り、その考えを変えようとさまざまな計画を立てる。
主な登場人物(キャスト)
ルイーザ・“ルー”・クラーク(エミリア・クラーク):イギリスの田舎町で家族と暮らす26歳の女性。奇抜で色鮮やかなファッションを好み、明るく表情豊かな性格だが、自分の可能性を狭い世界の中に閉じ込めている。失業を機に、介助経験がないままウィルの話し相手として雇われる。
ウィリアム・“ウィル”・トレイナー(サム・クラフリン):かつては銀行家として働き、スポーツや旅行を楽しんでいた行動的な青年。走行中のバイクにはねられた事故で四肢麻痺となり、車椅子で生活している。事故前とは一変した人生に絶望し、家族や周囲に皮肉な態度を取る。
カミーラ・トレイナー(ジャネット・マクティア):ウィルの母親。息子に再び生きる意欲を持ってもらいたいと願い、明るいルーを半年間の期限付きで雇う。冷静で厳格に振る舞う一方、事故前のウィルを取り戻したいという切実な思いを抱えている。
スティーヴン・トレイナー(チャールズ・ダンス):ウィルの父親。息子の決断をめぐって妻カミーラと苦悩を共有しているが、夫婦関係には以前から亀裂が生じている。
ネイサン(スティーヴン・ピーコック):ウィルの身体的なケアを担当する看護師。ウィルの状態や日々の介助に精通しており、ルーに必要な知識を教える。ウィルの皮肉にも動じず接する、数少ない理解者のひとり。
パトリック(マシュー・ルイス):ルーと長年交際している恋人。トライアスロンと体力づくりに熱中しており、自分の予定や目標を優先しがちで、ルーが本当に求めているものには気づけていない。
カトリーナ・“トリーナ”・クラーク(ジェナ・コールマン):ルーの妹。シングルマザーとして息子を育てながら大学進学を目指している。現実的で頭の回転が速く、ウィルをめぐって悩むルーの相談相手となる。
作品の魅力解説
愛しても他人の苦しみを完全には理解できない
本作は、明るい女性が傷ついた男性に生きる希望を取り戻させるという、典型的な恋愛映画の形から始まる。しかし物語の核心にあるのは、誰かを心から愛し、その人のために懸命に歩み寄ったとしても、本人が抱えている苦しみの重さを完全に理解することはできないという厳しい現実だ。
ルーはウィルの人生を変えようと努力し、ウィルもまた、閉ざされたルーの可能性を外の世界へ向けようとする。それでも、愛することと相手の決断を受け入れることは必ずしも一致しない。恋愛によってあらゆる傷が癒やされるという安易な結論を避け、他者の人生にどこまで踏み込めるのかを観客に問いかけている。
呼び方や小道具で表現される心の距離
登場人物の感情は、説明的な台詞だけでなく、呼び方や身の回りの品々によっても表現される。ウィルがルーを「ルー」ではなく「クラーク」や「ルイーザ」と呼ぶ場面には、その時々の距離感や親密さが反映されている。皮肉を込めた呼び方が、ふたりだけに通じる愛称のように変化していく過程も印象深い。
また、カミーラの周囲には、活動的だった事故前の息子を今も忘れられずにいることを示す写真や品々が配置されている。人物が口に出せない未練や願いを、美術や小道具に語らせる細かな演出が作品を支えている。
ルーの個性と変化を物語る約50種類の衣装
ルーの奇抜な衣装は、単なるコメディー要素ではない。衣装デザイナーのジル・テイラーは、ヴィンテージショップなどで集めた服や特徴的な靴を組み合わせ、劇中で約50回に及ぶ衣装替えを用意した。周囲から浮いて見える色彩や柄は、ルー自身がまだ認識していない個性と創造性の表れになっている。
同じアイテムを異なる組み合わせで着回すことで、限られた生活圏と経済状況の中でも装うことを楽しむ人物像に現実味を持たせている点も興味深い。なかでも、幼い頃に気に入っていたという黄色と黒の“ハチ柄タイツ”は、ウィルがルーの話を覚え、彼女の個性を誰よりも肯定していたことを示す重要なモチーフとなる。初めは場違いに見えた衣装が、物語の進行とともにルーの未来を象徴するものへ変わっていく。
障害表象をめぐる重大な批判
一方、本作を無条件に美しい恋愛映画として扱うことには慎重さも必要だ。Rotten Tomatoesの批評家スコアは55%、MetacriticのMetascoreは51点にとどまり、繊細な題材の扱いが不器用だという批判を受けている。
公開当時には障害者の権利を訴える活動家たちから、障害のある人生を耐え難いものとして描き、死によって健常者の恋人を解放する構図になっているとの抗議も起きた。ウィルの選択をひとりの人間の自己決定として捉える見方がある一方、障害を抱えながら充実した人生を送る別の可能性が十分に描かれていないという批判には重い意味がある。
本作の価値は、示された結論にそのまま感動することよりも、ルーの愛情、ウィルの苦しみ、家族の願い、そして障害当事者から寄せられた批判を並べ、誰の人生を誰が決めるのかについて考える契機になる点にある。
作品の内容とは印象の異なる日本版タイトル
原題「Me Before You」は、文脈上「あなたに出会う前の私」といった意味を持つ。ウィルと出会う前後で変化するルーの人生を示す題名であり、原作の日本語版では『ミー・ビフォア・ユー きみと選んだ明日』と訳されている。
これに対して映画の邦題『世界一キライなあなたに』は、反発し合う男女を描いたドタバタ調のラブコメディーを連想させやすい。序盤には確かにふたりの衝突があるものの、「嫌い」という感情が物語の中心ではないため、作品の重い主題や切実さとは少なからず隔たりのある題名といえる。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
