映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(2023)を紹介&解説。
映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』概要
映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は、1920年代のオクラホマ州で実際に起きたオセージ族連続殺人事件を、マーティン・スコセッシ監督が描いた歴史犯罪大作。石油によって莫大な富を得たオセージ族と、その財産を奪おうとする白人たちの犯罪を、アーネスト・バークハートとモリー・カイルの結婚生活を軸に描く。デヴィッド・グランのノンフィクションを原作に、レオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロ、リリー・グラッドストーンらが出演。第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演女優賞など10部門にノミネートされた。
作品情報
| 日本版タイトル | 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』 |
|---|---|
| 原題 | Killers of the Flower Moon |
| 製作年 | 2023年 |
| 本国公開日 | 2023年10月20日 |
| 日本公開日 | 2023年10月20日 |
| ジャンル | ドラマ/クライム/歴史/西部劇 |
| 製作国 | アメリカ |
| 原作 | デイヴィッド・グラン『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン―オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生―』(ノンフィクション) |
| 上映時間 | 206分 |
| 監督 | マーティン・スコセッシ |
|---|---|
| 脚本 | エリック・ロス/マーティン・スコセッシ |
| 製作 | ダン・フリードキン/ブラッドリー・トーマス/マーティン・スコセッシ/ダニエル・ルピ |
| 製作総指揮 | レオナルド・ディカプリオ/リック・ヨーン/アダム・ソムナー/マリアンヌ・バウアー/リサ・フレシェット/ジョン・アトウッド/シェイ・カマー/ニールス・ジュール |
| 撮影 | ロドリゴ・プリエト |
| 編集 | セルマ・スクーンメイカー |
| 作曲 | ロビー・ロバートソン |
| 出演 | レオナルド・ディカプリオ/ロバート・デ・ニーロ/リリー・グラッドストーン/ジェシー・プレモンス/タントゥー・カーディナル/ジョン・リスゴー/ブレンダン・フレイザー |
| 製作会社 | Apple Studios/Imperative Entertainment/Sikelia Productions/Appian Way Productions |
| 配給 | パラマウント・ピクチャーズ(米国)/東和ピクチャーズ(日本) |
あらすじ
1920年代、オクラホマ州オセージ郡。先住民であるオセージ族は、土地から採掘された石油の権益によって莫大な富を築いていた。第一次世界大戦から帰還したアーネスト・バークハートは、地域の有力者である叔父ウィリアム・ヘイルを頼り、運転手として働き始める。
アーネストは仕事を通じて出会ったオセージ族の女性モリー・カイルに惹かれ、やがて彼女と結婚する。しかし、モリーと距離を縮めるアーネストの背後では、オセージ族が所有する石油利権を狙った恐るべき計画が進められていた。モリーの家族を含むオセージ族の人々が相次いで不審な死を遂げる中、彼女は真相を突き止めるため、連邦政府に助けを求める。
主な登場人物(キャスト)
アーネスト・バークハート(レオナルド・ディカプリオ):第一次世界大戦から帰還し、叔父のウィリアム・ヘイルを頼ってオクラホマ州へやってきた白人男性。運転手として働く中でモリーと出会い、結婚する。彼女への愛情と叔父への服従、財産への欲望の間で揺れながら、取り返しのつかない犯罪へと加担していく。
ウィリアム・“キング”・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ):オセージ郡一帯に大きな影響力を持つ牧場主で、アーネストの叔父。表向きはオセージ族の言葉や文化を尊重する理解者として振る舞っているが、その裏では彼らの石油利権と財産を奪う計画を進めている。
モリー・カイル(リリー・グラッドストーン):石油利権を所有するオセージ族の女性。寡黙ながら誇り高く、運転手を務めるアーネストと惹かれ合って結婚する。家族が相次いで不審な死を遂げ、自身の体調も悪化していく中、事件の真相を求めて行動する。
トム・ホワイト(ジェシー・プレモンス):オセージ族連続殺人事件の捜査を任された、捜査局の特別捜査官。のちにFBIへ発展する組織の捜査チームを率い、地域社会に張り巡らされた犯罪の構造を探っていく。
リジー・Q(タントゥー・カーディナル):モリー、アンナ、リタ、ミニー姉妹の母親。伝統的なオセージ族の文化を大切にしている。娘たちが次々と命を落とす中、病に伏しながら一族の行く末を見つめる。
作品の魅力解説
それは愛か、計画か――夫婦関係に潜む恐ろしい矛盾
本作の中心に置かれているのは、単純な犯罪捜査ではなく、アーネストとモリーの結婚生活である。白人の帰還兵アーネストは、運転手として接するうちにモリーと距離を縮めていく。しかしその関係の背後には、裕福なオセージ族の財産を狙う叔父ヘイルの計画が存在している。
アーネストのモリーに対する気持ちは愛なのか、それとも最初から計画の一部だったのか。愛情らしきものを抱きながら、同時に相手を裏切り、傷つけることができる人間の矛盾が全編を覆う。スコセッシはアーネストを単純な悪人として切り捨てず、その弱さ、愚かさ、依存心を執拗に見つめることで、底なしの欲望が人間の感情と共存する恐怖を浮かび上がらせている。
富を得ても逃れられない差別と搾取
石油によってオセージ族は世界有数の富裕層となったが、その成功は彼らを差別から解放しなかった。白人たちは財産管理への介入、結婚、保険、詐欺、暴力、殺人といった手段を利用し、オセージ族の資産を奪おうとする。経済的には自分たちより豊かな相手であっても、人種だけを理由に当然のように見下す。その差別思想が地域社会や制度の隅々まで浸透している事実に、強い恐怖を覚える作品である。
先住民に対する暴力と、その被害が社会から見過ごされていく構造は『ウインド・リバー』を連想させる。ただし本作は謎を追うサスペンス以上に、犯人たちが日常の中でどのように人間関係を築き、周囲の黙認を得ながら犯罪を続けたのかを描く。殺人が一部の異常者だけの行為ではなく、植民地主義と差別に支えられた社会的な搾取だったことを突きつける。
ディカプリオ、デ・ニーロ、グラッドストーンの演技
レオナルド・ディカプリオとロバート・デ・ニーロは過去にも共演しているが、マーティン・スコセッシ監督の長編映画で本格的に共演するのは本作が初めて。ディカプリオは愛情、欲望、恐怖の間で醜く揺れ動くアーネストを演じ、デ・ニーロは穏やかな笑顔と地域社会での信頼を武器にするヘイルの冷酷さを表現している。
そして両者に引けを取らない風格を見せるのが、モリー役のリリー・グラッドストーンである。台詞や大きな動作に頼らず、視線、呼吸、沈黙によってモリーの知性と悲しみを伝える演技は圧巻。グラッドストーンは本作でゴールデングローブ賞の主演女優賞と全米映画俳優組合賞の主演女優賞を受賞し、第96回アカデミー賞主演女優賞にもノミネートされた。
206分で描く歴史犯罪の重厚感
上映時間は206分。一般的な映画の枠を大きく超える長さだが、オセージ族の暮らし、夫婦関係の変化、地域社会の腐敗、連邦捜査の過程を積み重ねることで、映画館で重厚なドラマシリーズを一気見したような鑑賞感を生み出している。
ロドリゴ・プリエトの撮影、セルマ・スクーンメイカーの編集、ロビー・ロバートソンによる不穏な音楽も、ゆっくりと逃げ場を奪っていく物語を支える。製作にはオセージ族の文化顧問や衣装コンサルタントも参加し、実際に事件が起きたオクラホマ州で撮影された。華麗な時代劇としてのスケールを備えながら、人間の欲望と傲慢さが一つの共同体をむしばんでいく過程を、長い時間をかけて観客に刻み込む歴史犯罪大作である。
Apple TV/Apple Original Filmsの主な作品一覧・基本情報・記事一覧へ
パラマウント・ピクチャーズの主な作品一覧・基本情報・記事一覧へ
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
