映画『ガールズ・ステイト』(2024)を紹介&解説。
映画『ガールズ・ステイト』概要
映画『ガールズ・ステイト』は、アメリカの高校生が模擬政府の運営を体験する政治教育プログラム「ガールズ・ステイト」に密着したドキュメンタリー。『ボーイズ・ステイト』のジェシー・モス&アマンダ・マクベイン監督が、2022年にミズーリ州から集まった約500人の少女たちを追う。
参加者たちは政党を結成し、知事選挙を戦い、州最高裁判所を設置して、人工妊娠中絶をはじめとする社会問題を議論する。撮影されたのは、連邦最高裁判所が「ロー対ウェイド判決」を覆す直前。若者たちの政治的成長と友情を描く一方、同じキャンパスで開かれていた「ボーイズ・ステイト」との待遇や予算の格差にも踏み込んでいく。
作品情報
| 日本版タイトル | 『ガールズ・ステイト』 |
|---|---|
| 原題 | Girls State |
| 製作年 | 2024年 |
| 本国公開日 | 2024年4月5日(Apple TV+配信) |
| 日本公開日 | 2024年4月5日(Apple TV+配信) |
| ジャンル | ドキュメンタリー/政治/青春 |
| 製作国 | アメリカ |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 96分 |
| 関連作品 | 『ボーイズ・ステイト』(2020) |
| 監督・製作 | ジェシー・モス/アマンダ・マクベイン |
|---|---|
| 製作総指揮 | ニコール・ストット/ジョナサン・シルバーバーグ/デイヴィス・グッゲンハイム/ローレン・パウエル・ジョブズ |
| 撮影 | ダニエル・カーター/ローラ・ヒュードック/レイラ・キルボーン/ケリ・オーバリー/エリン・パトリック・ラモント/マルティナ・ラドワン/トルステン・ティーロウ |
| 編集 | エイミー・フート |
| 作曲 | T・グリフィン |
| 出演 | エミリー・ワースモア/セシリア・バーティン/フェイス・グラスゴー/ニシャ・ムラリ/トチ・イヘコナ/ブルック・テイラー/マディ・ローワン |
| 製作会社 | コンコルディア・スタジオ/マイル・エンド・フィルムズ/Apple Original Films |
| 配給・配信 | Apple TV+ |
あらすじ
2022年、ミズーリ州各地から約500人の高校生が、1週間にわたる政治教育プログラム「ガールズ・ステイト」に集まった。参加者たちは2つの政党に分かれ、演説や選挙運動を行いながら、知事や司法長官などの公職を目指す。さらに州最高裁判所を組織し、社会を二分する問題について自分たちなりの判断を下していく。
保守派として知事選に挑戦するエミリー、演説で支持を広げるセシリアとフェイス、州最高裁判事を目指すニシャとブルック、司法長官に立候補するトチ。異なる背景と政治思想を持つ少女たちは、勝利や敗北、対立や友情を経験しながら、自分の声を社会へ届ける方法を学んでいく。
その一方、同じキャンパスでは男子向けの「ボーイズ・ステイト」も開催されていた。エミリーは、ふたつのプログラムの内容や予算、社会的な扱われ方に看過できない格差があることに気づき、独自の取材を始める。
主な登場人物(出演者)
エミリー・ワースモア:保守的な政治思想を持ち、連邦党の知事候補を目指す参加者。選挙で思うような支持を得られず、少数派としての孤独を味わうが、その後はジャーナリストとして「ガールズ・ステイト」と「ボーイズ・ステイト」の格差を調査する。
セシリア・バーティン:国民党の知事候補。率直で親しみやすい人柄と力強い演説を武器に支持を集める。女性に求められる振る舞いやプログラムの服装規定に対しても、自分の言葉で疑問を投げかける。
フェイス・グラスゴー:知事選に挑むリベラル派の参加者。保守的な環境で育ちながら、自ら考えることで家族とは異なる政治思想を築いてきた。強い信念と情熱を持ち、率直な言葉で有権者に訴える。
ニシャ・ムラリ:州最高裁判事を目指すインド系アメリカ人の参加者。内向的な性格ながら、厳しい面接を乗り越えるために自分の殻を破っていく。人工妊娠中絶をめぐる問題に強い関心を持つ。
トチ・イヘコナ:ナイジェリア系移民の両親を持ち、州司法長官を目指す参加者。黒人女性として少数派になる場面も多い中、自身の経験と法的な知識を生かして選挙に挑む。
ブルック・テイラー:ニシャと同じく州最高裁判事を目指す参加者。ニシャとは政治的な立場や性格が異なるものの、競争を通じて互いに刺激を受け、独特の友情を築いていく。
作品の魅力解説
『ボーイズ・ステイト』と対になる、必要不可欠な記録
本作は、2020年のドキュメンタリー映画『ボーイズ・ステイト』に対する単純な女性版ではない。前作が模擬選挙を通じて男性中心の政治文化や権力争いを映し出したのに対し、本作は、女性たちが政治の世界へ入ろうとした時点ですでに直面している障壁を可視化する。
男女平等が訴えられて久しいにもかかわらず、現実の社会はいまだ平等とは言い難い。その中で、自分の意見を持ち、声を上げ続けようとする少女たちの力強さを記録したことに、『ガールズ・ステイト』が作られた大きな意義がある。
模擬政府の内側にも存在する男女格差
より残酷なのは、若者に政治参加の機会を与える「ボーイズ・ステイト」と「ガールズ・ステイト」が並立していながら、その2つの間に明確な格差が存在することだ。
エミリーの取材によれば、約500人が参加するガールズ・ステイトの予算は約20万ドル。一方、800人以上が参加するボーイズ・ステイトには約60万ドルが用意されていた。2つは別々の団体によって運営・資金調達されているとはいえ、利用できる施設や活動内容、政治家からの注目度にも違いが見えてくる。
女性リーダーを育てる場でさえ、少女たちは男子より厳しい服装規定や限られた機会に直面する。本作はその不条理を告発するだけでなく、参加者たち自身が疑問を口にしたことで生まれる、ささやかな前進にも寄り添っている。
異なる政治思想を単純な善悪に分けない
人工妊娠中絶をはじめとする問題について、参加者たちの意見は決して一枚岩ではない。保守派とリベラル派、宗教的な価値観を重視する者と個人の選択を重視する者が、それぞれの経験に基づいて主張を交わす。
政治思想には、誰にとっても絶対的に正しい一つの答えがあるわけではない。だからこそ政治という合意形成の仕組みが必要になる。本作は特定の思想を持つ少女を悪役にすることなく、さまざまな立場や主張を可能な限り丁寧にすくい上げている。
同時に、多数派と少数派の力関係から目をそらすこともない。どれだけ自分の正しさを信じて努力しても、政治的な少数派になれば周囲が敵ばかりに見え、心細さを抱えることがある。模擬政府を舞台にしたプログラムでありながら、少女たちが経験する孤独や敗北は、現実の政治そのものと地続きである。
敗北から新しい役割を見つけるエミリー
その現実を最も鮮明に体験するのが、保守派のエミリーだ。知事選挙では思うように支持を得られず、彼女は少数派として取り残されたような感覚を味わう。しかし、そこで立ち止まらず、ジャーナリズムという別の方法でプログラムの問題を追及し始める。
エミリーが執筆した記事は、男女のプログラムをめぐる予算や待遇の違いを表面化させる。そして終盤、選挙とは別の形で彼女の努力が認められ、奨学金の授与を告げられたエミリーが涙を流すと、政治的立場の違う少女たちも一斉に彼女をたたえる。
選挙の勝敗だけが政治能力の高さを決めるわけではない。孤独を抱えていた少女の努力が共同体から承認される瞬間は、たしかな感動をもたらしてくれる。
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ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
