映画『ボーイズ・ステイト』(2020)を紹介&解説。
映画『ボーイズ・ステイト』概要
映画『ボーイズ・ステイト』は、テキサス州の男子高校生約1,100人が参加する政治教育プログラムに密着し、少年たちが模擬政府の樹立と州知事選挙に挑む姿を追ったドキュメンタリー。政治的理想や正義を語る候補者たちが、演説、駆け引き、妥協、情報戦を経験していく過程から、民主主義の可能性と危うさを映し出す。監督はジェシー・モスとアマンダ・マクベイン。2020年サンダンス映画祭では米国ドキュメンタリー部門の審査員大賞を受賞した。
作品情報
| 日本版タイトル | 『ボーイズ・ステイト』 |
|---|---|
| 原題 | Boys State |
| 製作年 | 2020年 |
| 本国公開日 | 2020年8月14日 |
| 日本公開日 | 2020年8月14日(Apple TV+配信) |
| ジャンル | ドキュメンタリー/政治/青春 |
| 製作国 | アメリカ |
| 題材 | 2018年に開催されたテキサス・ボーイズ・ステイト |
| 上映時間 | 109分 |
| 関連作品 | 『ガールズ・ステイト』(2024) |
| 監督・製作 | アマンダ・マクベイン/ジェシー・モス |
|---|---|
| 製作総指揮 | ローレン・パウエル・ジョブズ/デイヴィス・グッゲンハイム/ジョナサン・シルバーバーグ/ニコール・ストット |
| 共同製作総指揮 | シャノン・ディル |
| 撮影 | トルステン・ティーロウ |
| 編集 | ジェフ・セイマン・ギルバート |
| 作曲 | T・グリフィン |
| 出演 | スティーヴン・ガルザ/ベン・ファインスタイン/ロバート・マクダガル/レネ・オテロ |
| 製作会社 | コンコルディア・スタジオ/マイル・エンド・フィルムズ |
| 配給・配信 | A24/Apple TV+ |
あらすじ
2018年、テキサス州各地から約1,100人の男子高校生が、1週間にわたる政治教育プログラム「ボーイズ・ステイト」に参加する。少年たちは無作為に国民党と連邦党という2つの政党へ分けられ、政党組織を作り、政策を議論しながら模擬州政府の樹立を目指す。
最大の注目を集めるのは、州知事を決める選挙戦である。それぞれ異なる思想や生い立ちを持つスティーヴン、ベン、ロバート、レネたちは、自らの信念を訴えながら、演説、署名集め、選挙戦略、対立候補への攻撃といった現実の政治さながらの競争に身を投じていく。やがて少年たちの模擬選挙は、アメリカ社会に存在する分断や偏見、政治的駆け引きを凝縮したような戦いへと変わっていく。
主な登場人物(キャスト)
スティーヴン・ガルザ:メキシコ移民を両親に持つ、労働者階級出身の少年。穏やかな性格ながら確かな政治的信念を持ち、国民党の州知事候補を目指す。誠実に自分の言葉を届ける演説によって、次第に周囲の支持を集めていく。
ベン・ファインスタイン:両脚を失った経験を持つ、保守的な思想の少年。ロナルド・レーガンを敬愛し、強い自信と戦略的思考を備えている。連邦党の州委員長となり、党を勝利へ導くために情報収集や選挙戦術を駆使する。
ロバート・マクダガル:明るく社交的で、群衆の心をつかむことに長けた国民党の州知事候補。選挙で勝利するため、会場の空気や有権者の反応を読みながら、自身の見せ方や主張を調整していく。
レネ・オテロ:弁舌に優れた黒人の少年。シカゴで育った進歩的な思想の持ち主で、国民党の州委員長に選出される。周囲とは異なる立場から堂々と意見を述べる一方、党内の反発や人種的偏見にも直面する。
作品の魅力解説
高校生の模擬選挙が映し出す、現実の政治の縮図
題材となる「ボーイズ・ステイト」は、政治意識や指導力を持つ高校生を集め、一定期間の共同生活を通して政府の仕組みを学ばせる実践的な政治教育プログラムである。参加者は単に政治について講義を受けるのではなく、政党を組織し、政策を決め、演説を行い、州知事や副知事をはじめとする役職を選挙で決定する。
いわば本格的な“政治家シミュレーション”であり、少年たちは支持を得ることの難しさを身をもって経験する。理想や政策だけでは人を動かせず、印象的なスローガンや親しみやすさ、対立候補への攻撃が選挙結果を左右する。その過程は、現実の政治が抱える問題を驚くほど正確に再現している。
思想と言論だけで戦う、若者たちの圧倒的な熱量
少年たちの思想や主張に賛同できるかどうかは、本作の本質ではない。注目すべきは、まだ大人になる前の彼らが、公共の問題を自分自身の言葉で考え、大勢の聴衆を前に責任を持って語ろうとしていることである。
日本で暮らす観客にとっては、高校生たちがこれほど高い政治意識を持ち、堂々と演説する姿に驚かされるだろう。若者の政治参加や政治的無関心という問題を、自分自身のこととして考えさせられる作品でもある。思想や価値観の違いはともかく、幼いうちから政治を実践的に経験していれば、その中から演説力と行動力を備えた人物が育っていくことにも納得させられる。
金銭やビジネス上の利益とは関係なく、大人になる前に思想と言論だけで真剣に戦う。この経験そのものに、民主主義教育として大きな価値がある。
理想と選挙戦術の間で揺れ動く少年たち
本作は、参加者たちを単純な善人と悪人に分けていない。信念を曲げずに支持を集めようとする者もいれば、勝つために有権者が望む言葉を選ぶ者、対立陣営の弱点を探して攻撃に利用する者もいる。
しかし、戦略的に振る舞う少年も、最初から冷酷な人間として描かれるわけではない。彼らは選挙という仕組みの中で、誠実さを守るべきか、勝利を優先すべきかという難題に直面している。少年たちの選択を通じて、政治家がなぜ迎合し、ときに事実よりも効果的な物語を選んでしまうのかが浮かび上がる。
敵味方を越えて健闘をたたえる青春の清々しさ
激しい選挙戦では、陰謀、対立、偏見、個人攻撃までが持ち込まれる。それでも、すべてが終わったあとに少年たちが敵味方の立場を越え、互いの健闘を認め合う姿には胸を打たれる。
政治的立場の違いは、必ずしも相手の人格を否定する理由にはならない。正面から意見をぶつけ合ったからこそ生まれる敬意があり、選挙の勝敗を越えた成長がある。政治ドキュメンタリーであると同時に、競争を通して少年たちが変化していく青春群像劇としても見応えのある作品だ。
民主主義への不安と希望を同時に映し出す
少年たちが大人の政治家と同じような駆け引きを急速に身につけていく様子は、頼もしさと同時に不安も感じさせる。分断を利用する戦略、根拠の薄い攻撃、聴衆に合わせて変化する主張など、現在の政治が抱える問題は、模擬政府の中でも瞬く間に再現されてしまう。
一方で、信念を守りながら他者に語りかける少年や、対立する相手の勇気を認める参加者もいる。本作は若い世代を理想化するのではなく、民主主義の危うさと、それでも対話を続けようとする人々の可能性を同時に捉えている。
なお、このプログラムは男子の「ボーイズ・ステイト」と女子の「ガールズ・ステイト」に分かれて実施されており、本作が追うのは男子側のみである。男女別で政治教育が行われていること自体も含め、その制度や環境について考える入口となるだろう。ジェシー・モスとアマンダ・マクベインは後に、女子側へ密着した姉妹編『ガールズ・ステイト』を発表している。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
