『カイロ』(1991)解説|どんな映画?あらすじ・キャスト・魅力まとめ

『カイロ』(1991)解説|どんな映画?あらすじ・キャスト・魅力まとめ Database - Films
『カイロ』より

映画『カイロ』(1991)を紹介&解説。


映画『カイロ』概要

映画『カイロ』は、ユーセフ・シャヒーン監督(『カイロ中央駅』)が、エジプトの首都カイロの街と人々を独自の視点から描いた短編ドキュメンタリー。フランスのテレビ局からカイロを紹介する映画の製作を依頼されたシャヒーン監督が、仕事を探す若い俳優の姿や街の人々の日常を通して、大都市が抱える貧困や社会格差、文化的な矛盾を浮き彫りにしていく。現実の記録映像とフィクション的な演出を組み合わせ、監督自身の街への愛情も表現した作品。出演はユーセフ・シャヒーン、ハーレド・エル・ナバウィ、バセム・サムラら。1991年のカンヌ国際映画祭「監督週間」に選出され、2026年の第39回東京国際映画祭では「生誕100年ユーセフ・シャヒーン監督特集」で上映される。

作品情報

日本版タイトル 『カイロ』
原題 القاهرة منورة بأهلها(Al Kahera Menawara Be Ahlaha)
英題 Cairo, As Told by Chahine
製作年 1991年
世界公開日 1991年5月、カンヌ国際映画祭「監督週間」で上映
日本公開日 一般劇場公開日未確認(2026年10月26日、第39回東京国際映画祭で上映)
ジャンル ドキュメンタリー
製作国 エジプト/フランス
原作 無
上映時間 24分(東京国際映画祭上映版)
監督・脚本 ユーセフ・シャヒーン
製作 ムスタファ・アブデルアジズ
撮影 ターレク・エル・テルメサーニ/サミール・バフサン
編集 ラシーダ・アブデルサラーム
作曲 モハメド・ヌーフ
出演 ユーセフ・シャヒーン/ハーレド・エル・ナバウィ/バセム・サムラ/ハッサン・エル・アドル/サナア・ユーネス/ハーレド・ユセフ/フセイン・エル・イマーム/サファー・エル・トゥーヒ
製作会社 ミスル・インターナショナル・フィルムズ/ミロワール
配給 ミスル・インターナショナル・フィルムズ(海外販売)/日本配給未確認(26年10月時点)

あらすじ

エジプトの首都カイロ。多くの人々が暮らし、伝統的な文化と近代的な都市生活が交錯するこの街について、映画監督ユーセフ・シャヒーンのもとに、フランスのテレビ局から短編ドキュメンタリーの製作依頼が届く。

シャヒーンは、単に観光名所や歴史的建造物を紹介するのではなく、そこで実際に暮らす人々の姿を通してカイロを描こうと考える。

映画では、仕事を探す若い俳優が街を歩き回り、映画学校や大学、シャヒーン自身が働く映画スタジオなどを訪れる。その道中には、さまざまな職業や生活環境の人々が登場し、カイロという都市の多面的な姿が浮かび上がってくる。

貧困と豊かさ、宗教と世俗、伝統と近代化。相反する価値観が同時に存在する大都市を背景に、シャヒーン監督は現実の記録とフィクションを織り交ぜながら、自身が愛する街の姿を描き出していく。

主な登場人物(キャスト)

ユーセフ・シャヒーン(本人):本作の監督であり、映画にも登場する人物。フランスのテレビ局からカイロを紹介する映画の製作を依頼され、自身の視点から街の人々や文化、社会のあり方を見つめていく。映画の語り手としても重要な役割を果たす。

仕事を探す若い俳優:カイロの街を歩き回りながら、仕事を探している人物。映画学校や大学、映画スタジオなどを訪れ、その行動を通してカイロの街と人々が紹介されていく。

作品の魅力解説

観光名所ではなく、そこに生きる人々から描くカイロ

本作がカイロという都市を紹介するうえで中心に据えるのは、歴史的な建築物や有名な観光地ではなく、そこで実際に暮らしている人々だ。

エジプトの首都カイロは、長い歴史を持つ都市であると同時に、人口の集中や貧困、社会格差などの問題も抱えている。

シャヒーン監督は、そうした都市の複雑な現実を隠すことなく、街の人々の日常や表情を通して映し出そうとする。

監督が重視しているのは、建物や風景そのものではなく、都市を形作っている人間の存在だ。

カイロを単なる異国情緒あふれる場所として紹介するのではなく、そこに暮らす人々への愛情から描き出している点が、本作の特徴となっている。

ドキュメンタリーとフィクションが融合した都市の肖像

『カイロ』は、一般的な都市紹介のドキュメンタリーとは異なる構成を持っている。

映画には、街の様子を記録した映像だけでなく、仕事を探す若い俳優の行動や、監督自身が映画製作について考える場面なども登場する。

こうしたフィクション的な要素を交えることで、カイロの街を紹介するという当初の企画は、次第にシャヒーン監督自身の思想や感情を反映した作品へと変化していく。

監督がどのような場所にカメラを向け、どのような人々に関心を持つのか。その選択そのものが、シャヒーンという映画作家の人物像を浮かび上がらせる。

都市の記録であると同時に、映画監督の自画像にもなっている点が興味深い。

貧困と豊かさ、宗教と近代化が共存する都市の複雑さ

本作で描かれるカイロは、単純に美しい都市でも、問題ばかりを抱えた都市でもない。

経済的に恵まれた人々と厳しい生活を送る人々、宗教的な価値観と世俗的な生活、伝統的な文化と西欧的な近代化。さまざまな要素が共存し、ときには衝突している。

シャヒーン監督は、そうした矛盾をひとつの結論にまとめるのではなく、街の複雑さそのものを映画のなかに取り込んでいく。

わずか24分という短い上映時間でありながら、都市の過去や現在、そこに生きる人間たちの価値観を多面的に映し出そうとする作品となっている。

エジプト国内で論争を巻き起こした問題作

『カイロ』は、フランスのテレビ局アンテーヌ2の依頼によって製作された作品だった。

しかし、監督が映し出したカイロの姿は、エジプト国内で大きな論争を巻き起こすことになる。

貧困や人口過密など、都市が抱える問題を欧州向けの映画で描くことについて、西欧社会が抱くアラブ世界への偏見を助長するのではないかという批判が起こった。

ロッテルダム国際映画祭の記録によれば、批判の多くが実際に作品を観ていない人々から寄せられていたため、シャヒーン監督はカイロで大規模な上映会を開催。1500人以上のジャーナリストが集まり、作品を観た後には、街の現実を描いた試みを評価する声も上がったという。

また、映画の現実的な都市描写は当局からも問題視され、エジプトで上映禁止になったとも伝えられている。

シャヒーン監督が考えるカイロの姿と、国家や社会が外部に示したい都市のイメージとの間に生じた対立。その歴史的な背景も、本作を読み解くうえで重要な要素だ。

映画データベースTOPへ