『ウィキッド』監督ジョン・M・チュウの原点とは-中華料理店で育った少年がルーツを受け入れハリウッド大作ミュージカルへたどり着くまで【キャリア解説】

『ウィキッド』監督ジョン・M・チュウの原点とは-中華料理店で育った少年がルーツを受け入れハリウッド大作へたどり着くまで【キャリア解説】 COLUMNS
ジョン・M・チュウ

『ウィキッド 永遠の約束』のジョン・M・チュウ監督のルーツと創作の変化を振り返る。


ウィキッド ふたりの魔女』と続編『ウィキッド 永遠の約束』が世界的ヒットを記録するなか、監督ジョン・M・チュウのキャリアとルーツにも改めて注目が集まっている。ダンス映画からハリウッド大作、そして移民コミュニティの物語へ。彼の歩みを振り返ると、『ウィキッド』にはそのすべてが重なっていることが見えてくる。

中華料理店で育った少年-文化の“代表”として振る舞うという教え

ジョン・M・チュウことジョナサン・マーレイ・チュウは、カリフォルニア州ロスアルトスで育った父は中国・四川出身、母は台湾出身移民で、家族は地元で中華料理店「Chef Chu’s」を営んでいた。チュウにとってレストランは単なる家業ではなく、人々が集まるコミュニティの場でもあった。

幼い頃から両親は、店を訪れる客との接し方についてある教えを繰り返していたという。客の中には「ここに来る人が、初めて出会う中国人かもしれない」人もいる。だからこそ、文化の代表として振る舞うことが大切なのだと。

さらに両親は、料理だけでなくもてなしの心を重視していた。「お腹だけでなく、心も満たして帰ってもらう」。その考え方は、観客を楽しませることを重視するチュウの映画づくりの姿勢にも通じている

「アジア人監督」として見られたくなかった-ハリウッドでの葛藤

しかし、映画監督としてキャリアを築き始めた当初、チュウは自らのルーツを強く打ち出していたわけではなかった。むしろハリウッドでは、アジア系というラベルで語られることへの葛藤があったという。

彼はインタビューで、当時の思いについて「私は“アジア人監督”ではなく、ただの監督として見られたかった」と振り返っている。

2008年の『ステップ・アップ2: ザ・ストリート』を皮切りに、チュウはダンス映画で頭角を現した。その後も『G.I.ジョー バック2リベンジ』や『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』など、ハリウッドらしいスケールの娯楽作品を手がけていく。

大規模アクションやエンターテインメント性の高い作品を次々と監督したことは、当時のハリウッドで数少ないアジア系監督のひとりだった彼にとって、自身をジャンルに縛られない映画監督として証明する意味もあったと考えられる。

『クレイジー・リッチ!』がもたらした転機-自らのルーツを創作に重ねる

チュウのキャリアに大きな転機をもたらしたのが、2018年公開の『クレイジー・リッチ!』である。ケヴィン・クワンの小説を原作とするこの作品は、アジア系キャストを中心に据えたハリウッド映画として大きな成功を収めた。

この経験は、チュウ自身の意識にも変化をもたらしたという。彼はインタビューで「もう一つの文化を持っていることは、すごく価値がある」と感じるようになったと語っている。

かつては“ただの監督”として見られたいという思いが強かったチュウだったが、この作品を通じて、自らの文化的背景を物語に重ねることの可能性を見いだしたのである。

その後に監督したミュージカル映画『イン・ザ・ハイツ』もまた、ニューヨークの移民コミュニティを舞台にした作品であった。異なる文化や背景を持つ人々が共存する街の姿を描いたこの映画は、チュウが自身のアイデンティティと向き合いながら作品を手がけていく姿勢を象徴する一本となった。

現在、彼は自らの背景について「今ではアジア系アメリカ人であることは誇りのバッジだ」と語っている。
その言葉には、かつての葛藤を経て、自らのルーツを創作の力へと変えていった映画監督の歩みがにじんでいる。

『ウィキッド』に重なるこれまでの歩み-エンターテインメントとマイノリティの物語

そうしたキャリアの流れを振り返ると、チュウが手がけた『ウィキッド ふたりの魔女』と続編『ウィキッド 永遠の約束』は、これまでの歩みが交差する作品とも言える。

『ウィキッド 永遠の約束』とはどんな映画?あらすじ・キャスト・注目ポイントを紹介・解説

『ウィキッド 永遠の約束』より © Universal Studios. All Rights Reserved.

本作は、ブロードウェイの人気ミュージカルを映画化した大作であり、壮大な歌とダンスが物語を彩る。ダンス映画で頭角を現したチュウにとって、ミュージカルという形式はキャリアの原点にも通じるものだ。

同時に『ウィキッド』は、緑色の肌を持つ少女エルファバや「言葉を話す動物」が偏見や排斥に直面する物語でもある。社会から“異なる存在”として扱われる人々の視点を描くこの物語は、マイノリティの経験とも重なるテーマを持っている。

ダンス映画からハリウッド大作、そして移民コミュニティの物語へ。チュウのフィルモグラフィーを振り返ると、『ウィキッド』にはそうした要素が重なり合っていることが見えてくる。

エンターテインメント性と社会的テーマを併せ持つこの作品は、ジョン・M・チュウという映画監督がこれまで歩んできた道のりを、ひとつの形として示しているのかもしれない。

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