アカデミー賞で新設「キャスティング賞」とは?初年度ノミネート5人の証言から見える“顔の力”とディレクターの役割

アカデミー賞で新設「キャスティング賞」とは?初年度ノミネート5人の証言から見える“顔の力”とディレクターの役割 Awards & Festivals Coverage
アカデミー賞(Oscars)公式YouTubeのキャスティング特集より

第98回アカデミー賞で新設されたキャスティング賞。ノミネート5人が語った創造の核心とは。


第98回アカデミー賞から新設されたキャスティング賞。映画の“顔”を決定づける重要な仕事が、初めて競争部門として正式に評価されることになった。Oscars公式YouTubeチャンネルでは、ノミネートされた5人のキャスティング・ディレクターに焦点を当てたフィーチャー動画が公開されている。本記事では、その言葉から見えてくるキャスティングの本質を紹介する。

キャスティングは単なる配役作業ではない。誰の顔が物語を語るのか。誰と誰が並んだときに化学反応が生まれるのか。その選択は作品の方向性を決定づける。ノミネートされた5人の言葉には、その重みと責任、そして誇りが滲んでいる。

「本物の家族のように見えること」-ニーナ・ゴールドが語るキャスティングの直感と誇り

ハムネット』でノミネートされたニーナ・ゴールドは、物語の中心に立つ女性アグネスの存在を最重要視したという。彼女は「明らかに、エゴを持たず完全に感情をオープンにして映画の核となる女性、アグネス役を選ぶために多くの時間を費やしました」と語る。

主人公から両親、祖父母、子どもたちへと広がる家族の構図。その関係性をどう築くかが作品の土台になる。最終的な判断について彼女はこう明かした。「最終的に本当にできることは、直感を信じることだけです。」

その直感が目指したものは明確である。「本物の家族のように見えること、そして互いに本当の意味でつながり合っていること——それが私の誇りです。」キャスティングとは、単独の演技力だけでなく、関係性そのものを設計する仕事であることが、この言葉から浮かび上がる。

「この顔は物語を語っているか?」-真正性をめぐる問い

マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』でノミネートされたジェニファー・ヴェンディッティが強調するのは、時代と人物の“真正性”である。彼女は「その時代への真正性。このプロセスにおいて私たちは非常に厳しい目を持っていました」と語る。

その視線はロケ地や衣装だけでなく、俳優の“顔”にも向けられていた。「それはロケ地やセット、衣装だけでなく、人の顔にも言えることです。」さらに50年代のストリート写真を研究したことを明かし、「だからこそ、本当に確認しなければなりませんでした——この顔はその物語を語っているか?」と問いかける。その判断基準は単なるスター性ではなく、時代や空気を体現できるかどうかにあった。

そして彼女は、キャスティングという仕事の意味をこう言い表す。「この仕事は他者への共感と思いやりを広げる手段になると、心から感じています。」顔を選ぶことは、観客の感情の入口を設計することでもある。

同様に、『シークレット・エージェント』のガブリエル・ドミンゲスも“顔”の力を語る。作品について「非常に多様で、登場人物も役も数多くあります。すべての顔に意味があり、すべての顔に物語があります」と説明する。

クレベール(・メンドンサ・フィリオ)の脚本について「層の深さと複雑さに満ちています」と評価しつつ、「その役を演じる適切な俳優を見つけるために、大物俳優を起用しつつも、これほど大きな作品に関わったことのない人たちも迎えました」と明かす。その選択について彼は、「彼らを連れてくることは、誇りに思える理由になります」と語る。

そして決定的なのは、この言葉である。「小さな役であっても、その顔には力があるのです。」

キャスティング賞が評価しようとしているのは、スターの存在感だけではない。物語を支える無数の“顔”が持つ力、その総体なのである。

スターと新人、その均衡が生む緊張感

ワン・バトル・アフター・アナザー』でノミネートされたカサンドラ・クルクンディスは、脚本との最初の出会いをこう語る。「脚本を読むと、キャラクターたちが頭の中で生き始めます。」そこから始まるのは、「読んだ脚本をさらに素晴らしいものにするために、どうやってすべてをまとめるか」という作業である。

本作は、「A級スターとベテラン俳優、傑出した新人たち、そして実際の軍の英雄たちの繊細なバランスで成り立っています」という。異なる経験値や背景を持つ人々を同じ画面に立たせること。その均衡を取ることこそがキャスティングの核心である。

とりわけ彼女が言及したのが、新人チェイス(・インフィニティ)の起用だ。「その上で、チェイス(・インフィニティ)を発掘し、彼女と仕事をしたことは、残りの人生においても誇りに思えるものになるでしょう。」そして「この星の最も偉大な俳優たちと対等に渡り合う彼女を見て、眠れない夜の全てが報われました」と続けた。発掘とは偶然ではなく、責任と覚悟を伴う決断であることが伝わる。

一方、『罪人たち』のフランシーヌ・メイズラーは、「各キャラクターの細部と真正性は明白であり、物語にとって重要です」と、作品世界の緻密さに焦点を当てる。物語の舞台は「スクリーンではほとんど描かれることのない、豊かで多様かつ繊細なコミュニティ」であり、そのリアリティを支えるのが俳優の存在である。

主演マイケルと向き合うキャスト陣についても、「彼と対峙して演じたすべての人が最高水準でなければならないというプレッシャーが加わりました」と明かす。スターを中心に据えるだけではなく、その周囲に同じ強度を持つ俳優を配置すること。それが作品全体の緊張感を生む。

最後に彼女はこう語った。「これまで携わったどの映画よりも、この作品を誇りに思っています。」

キャスティングとは、才能を並べる作業ではない。誰と誰を対峙させるか、どの緊張関係を生み出すかという設計である。新設されたキャスティング賞は、その見えにくい設計図に光を当てる試みでもある。そして5人の言葉は、その設計図こそが映画の最初の一筆であることを静かに示している。

【動画】第98回アカデミー賞 キャスティング賞ノミネート特集(Oscars公式)

cula をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む