新作映画『クイーンダム/誕生』 を紹介&解説するレビュー。
1月30日(金)より日本公開の映『クイーンダム/誕生』は、反LGBTQ法が強まるロシアで、クィア・パフォーマンスアートによって政治と社会に揺さぶりをかける若者ジェナ・マービンの姿を追ったドキュメンタリーだ。差別を受けたマービンがモスクワへ渡り、将来への不安を抱えつつSNSで脚光を浴びながら巨大な衣装で無言の抗議を重ねる。同時に、愛情と理解の間で揺れる祖父母との関係も映し出している。監督アグニヤ・ガルダノワ、主演ジェナ・マービン。
『クイーンダム/誕生』概要
現代ロシア。反LGBTQ法が強まる中、極寒の町で祖父母に育てられた21歳のクィア・アーティスト、ジェナ・マービンはSNSで脚光を浴び、奇抜な衣装の無言パフォーマンスで社会に抗議する。支持が広がる一方で監視も強まり命の危険も増すが、ジェナは家族と未来の間で揺れていく。

『クイーンダム/誕生』より ©2023 GALDANOVA FILM, LLC ALL RIGHTS RESERVED
孤独と表現——言葉を持たない身体の抗議
ありのままで生きることを法律によって否定され、家族からも十分な理解を得られない孤独な人物が、その抑圧の反動とも取れる奇抜なパフォーマンスを通じて、社会に自らの存在を刻み込もうともがく。本作は、その姿を力強く、同時にきわめて繊細なまなざしで捉えていく。
そこに映るのは、ジェナ・マービンの深い孤独と等身大の姿、そして言葉を介さない身体表現による抵抗だ。それらはパワフルでありながら、強い美意識を宿したアートとして結実している。

『クイーンダム/誕生』より ©2023 GALDANOVA FILM, LLC ALL RIGHTS RESERVED
衣装が招く敵意と、それでも貫く表現
ジェナの衣装の数々は、単なる「おしゃれなファッション」という言葉では到底片づけられない、唯一無二の奇抜さを帯びている。その強烈な視覚性ゆえに、良くも悪くも人目を引き、時には攻撃的な言葉や暴力を向けられる場面も少なくない。

『クイーンダム/誕生』より ©2023 GALDANOVA FILM, LLC ALL RIGHTS RESERVED
とりわけ、LGBTQへの糾弾が法律によって正当化されてしまった社会においては、人々の敵意はためらいなく剥き出しになる。その光景はあまりに孤独で、痛ましい。
だが、そうした状況に追い込まれているからこそ、反骨的なエネルギーに支えられたジェナのパフォーマンスは、観る者を圧倒する強度を獲得していく。視覚的衝撃として立ち上がるその表現は、同時に切実な叫びでもある。
等身大の人間として描かれる葛藤
本作が印象的なのは、ジェナを決して”マイノリティを鼓舞する正義の味方”や”ヒーロー”として描かない点にある。孤独と表現の制限に追い詰められるなかで、生き方そのものがどこか不器用に、時に迷走してしまっているように見える瞬間も、作品は包み隠さず捉えていく。

『クイーンダム/誕生』より ©2023 GALDANOVA FILM, LLC ALL RIGHTS RESERVED
そのリアルを削ぎ落とさずに提示することで、ジェナは浮世離れした象徴的存在ではなく、葛藤や弱さを抱えた、私たちと地続きの”ひとりの人間”として立ち上がってくる。その誠実な距離感こそが、本作の大きな特徴だ。
法による抑圧、社会からの敵意、そして家族との葛藤——その全てに晒されながらも、自らの存在を表現し続けるジェナの姿は、観る者の心に深く刻まれる。『クイーンダム/誕生』は1月30日(金)より日本公開。
