映画『聴覚』(2026)を紹介&解説。
映画『聴覚』概要
映画『聴覚』は、レ・バオ監督(『Taste』)が、家族の断絶や言葉にできない感情を、音と沈黙を通して描くベトナム発の人間ドラマ。騒音計を設置する技術者ニンは、別れた妻や子どもたちを思いながら母親と暮らし、長年言葉を交わしていない両親の関係にも心を痛めている。人々の間に横たわる静寂と、都市にあふれる音を対比させながら、愛する者とのつながりを見つめ直す物語。主演はグエン・クオック・トゥアン、共演にゴック・タン、カイン・フエンら。2026年のロカルノ国際映画祭コンペティション部門に選出され、第39回東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門でも上映される。
作品情報
| 日本版タイトル | 『聴覚』 |
|---|---|
| 原題 | Thính Giác |
| 英題 | Hearing |
| 製作年 | 2026年 |
| 本国公開日 | 一般劇場公開日未定(2026年8月10日にロカルノ国際映画祭で世界初上映) |
| 日本公開日 | 一般劇場公開日未定(2026年10月26日に第39回東京国際映画祭で日本初上映) |
| ジャンル | ドラマ |
| 製作国 | ベトナム/シンガポール/ノルウェー/フランス/インドネシア/サウジアラビア/カンボジア/タイ/台湾 |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 128分 |
| 監督・脚本 | レ・バオ |
|---|---|
| 製作 | エリザベス・ウィジャヤ/ライ・ウェイジエ/フイン・イエン |
| 製作総指揮 | チャン・アイン・ズン/グエン・チン・ホアン/チャートチャーイ・ケットヌスト/ジュリアン・ラコルヌ |
| 撮影 | グエン・ヴィン・フック |
| 編集 | カルロ・フランシスコ・マナタッド/ドゥニア・シショフ |
| 作曲 | メンタル・オーバードライブ |
| 出演 | グエン・クオック・トゥアン/ゴック・タン/カイン・フエン/ティエウ・クエン/ミン・フン/ヴァン・ハー/チー・リン |
| 製作会社 | センソリー・オーシャン・フィルムズ/E&Wフィルムズ/コンチャック・ピクチャーズほか |
| 配給 | 日本配給未定(26年10月時点) |
あらすじ
ベトナムのサイゴン。機械技術者のニンは、公共施設や住宅などに騒音レベルを測定する装置を設置する仕事をしている。
母親とふたりで暮らすニンは、別れた妻ゴックと幼い子どもたちへの思いを断ち切れずにいた。一方、彼の両親も別居しており、長い間、直接言葉を交わしていない。
仕事では街にあふれるさまざまな音を測定するニンだったが、自分自身の人生では、大切な人々との間に生まれた沈黙を埋めることができずにいる。
両親の和解を願い、失われつつある家族とのつながりを取り戻そうとするニン。騒がしい都市の日常と静まり返った人間関係の狭間で、彼は愛する者に向き合うことの難しさを思い知らされていく。
主な登場人物(キャスト)
ニン(グエン・クオック・トゥアン):騒音計の設置を仕事とする技術者。母親と暮らしながら、別れた妻と子どもたちへの思いを抱えている。長年離れて暮らす両親にも和解してほしいと願っている。
ニンの母親(ゴック・タン):ニンと一緒に暮らす年老いた女性。夫とは別居状態にあり、息子との関係にも複雑な家族の歴史が影を落としている。
ゴック(カイン・フエン):ニンの元妻。ふたりの子どもを育てており、ニンとの関係には解消されない問題が残されている。
ニンの父親(ミン・フン):妻と離れて地方で暮らす男性。
作品の魅力解説(公開前時点)
「音を測る男」が向き合う、人間関係の沈黙
本作の中心にあるのは、騒音計を設置する技術者という主人公の職業と、言葉を交わせなくなった家族との対比だ。
ニンは仕事を通して都市のさまざまな音を数字として測定している。しかし、愛する人々との関係に生まれた距離や、相手に伝えられない感情を数値化することはできない。
音があふれている場所に必ずしも心の交流があるわけではなく、静けさの中にこそ強烈な感情が潜んでいる。そんな逆説的な構図が、本作ならではの着眼点となっている。
家族の断絶を描く「アンチ・ラブストーリー」
レ・バオ監督は本作を、互いを愛しながらも心に秘めた思いを伝えられず、結果として傷つけ合ってしまう人々の物語として位置づけている。
ニンと元妻の関係だけでなく、ニンの両親もまた長年の断絶を抱えている。こうした複数の世代にまたがる家族関係によって、愛情と傷つけ合う行為が必ずしも対極にあるわけではないという複雑さが浮かび上がる。
単純な和解や愛情の肯定ではなく、人間関係における沈黙そのものを見つめる作品として注目される。
映像と音響が生み出す感覚的な映画体験
本作は2026年のロカルノ国際映画祭コンペティション部門に選出された、レ・バオ監督の長編第2作。
監督は前作『Taste』でも独特の映像表現を追求しており、本作ではさらに音響という要素を前面に押し出している。
騒がしい飲食店や動物園、静まり返った住宅など、異なる音環境を行き来しながら、人間の感情を言葉だけに頼らず描いていく。
物語の展開以上に、画面の構図や環境音、沈黙の長さを味わうことが重要になる、瞑想的で実験性のある人間ドラマといえる。
