映画『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』(2025)を紹介&解説。
映画『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』概要
映画『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』は、第46回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した武田一義の同名漫画を原作に、太平洋戦争末期のペリリュー島で生き延びようとした若き日本兵たちを描く戦争アニメーション。亡くなった仲間の最期を遺族に伝える“功績係”に任命された漫画家志望の兵士・田丸均を通して、戦場の現実と記録することの葛藤、極限状態で育まれる友情を映し出す。田丸役を板垣李光人、相棒の吉敷佳助役を中村倫也が務め、久慈悟郎が監督、シンエイ動画と冨嶽がアニメーション制作を担当した。
作品情報
| 日本版タイトル | 『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』 |
|---|---|
| 英題 | Peleliu: Guernica of Paradise |
| 製作年 | 2025年 |
| 日本公開日 | 2025年12月5日 |
| ジャンル | 戦争/ドラマ/アニメーション |
| 製作国 | 日本 |
| 原作 | 武田一義『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』(漫画) |
| 上映時間 | 106分 |
| 映倫区分 | PG12 |
| 監督 | 久慈悟郎 |
|---|---|
| 脚本 | 西村ジュンジ/武田一義 |
| 企画・プロデュース | 石川 啓 |
| キャラクターデザイン・チーフ作画監督 | 中森良治 |
| メカニックデザイン | 神菊 薫 |
| 撮影監督 | 五十嵐慎一 |
| 編集 | 小島俊彦 |
| 考証 | 鈴木貴昭 |
| 音響監督 | 横田知加子 |
| 音楽 | 川井憲次 |
| 主題歌 | 上白石萌音「奇跡のようなこと」 |
| 出演 | 板垣李光人/中村倫也/天野宏郷/藤井雄太/茂木たかまさ/三上瑛士 |
| アニメーション制作 | シンエイ動画/冨嶽 |
| 製作 | 「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会 |
| 配給 | 東映 |
あらすじ
太平洋戦争末期の1944年、南国の美しい島・ペリリュー島。漫画家を志していた21歳の日本兵・田丸均は、その画力を買われ、亡くなった仲間の最期の勇姿を遺族に向けて書き記す“功績係”に任命される。
9月15日、4万人以上のアメリカ軍による攻撃が始まり、約1万人の日本軍は圧倒的な戦力差の中で持久戦を強いられる。砲撃や銃撃だけでなく、飢えや渇き、伝染病によっても兵士たちが次々と命を落としていく中、田丸は仲間の死を、時には事実と異なる美談に仕立てて書かなければならなかった。
何が正しく、何を遺族に伝えるべきなのか分からなくなっていく田丸。そんな彼の支えとなったのは、同期でありながら頼れる上等兵となった吉敷佳助だった。田丸と吉敷は互いを励まし、苦悩を分かち合いながら、狂気の戦場を生き延びることを誓う。
主な登場人物(キャスト)
田丸 均(板垣李光人):漫画家を志していた21歳の日本兵。心優しく控えめな性格で、亡くなった仲間の最期を遺族に伝える“功績係”に任命される。戦場では役に立てないという劣等感を抱きながらも、自分にしかできない方法で仲間たちの生きた証を残そうとする。
吉敷佳助(中村倫也):田丸と同期の上等兵。強い責任感と勇気を持ち、銃の扱いにも長けているため、仲間たちから厚い信頼を寄せられている。冷静で頼れる存在だが、故郷の家族を思い、日本へ帰りたいと願う一人の若者でもある。
島田洋平(天野宏郷):田丸たちの小隊を率いる少尉。過酷な状況でも仲間を鼓舞し、熱意とリーダーシップによって部隊をまとめる。部下たちから慕われ、泉からは特に強い尊敬を寄せられている。
小杉三郎(藤井雄太):常に飄々とした雰囲気をまとっている伍長。感情や理想に流されるのではなく、戦場を生き延びるために現実的かつ冷静な判断を下す。
片倉憲伸(茂木たかまさ):非常に高い戦闘能力を持つ兵長。極限状態でも動揺を見せず、冷徹なほど淡々と敵兵を倒していく。田丸とは対照的な戦場での適応力を持つ人物。
泉 康市(三上瑛士):島田少尉を強く尊敬し、憧れに近い思いを抱いている一等兵。島田の言葉や行動を信じ、仲間たちとともに過酷な戦場を生き抜こうとする。
作品の魅力解説
かわいらしい絵柄と凄惨な戦場の強烈なコントラスト
本作の兵士たちは、丸みを帯びた三頭身のキャラクターデザインで描かれる。一見すれば親しみやすくポップな絵柄でありながら、その画面の内側では、砲撃や飢餓、病によって次々と人間の命が奪われていく。
愛らしい人物造形と凄惨な現実をあえて同じ画面に同居させることで、本作は観客の視線を巧みに誘導する。登場人物を遠い歴史上の存在としてではなく、感情移入の対象となりうる一人の若者のアイコンとして受け止めさせ、心理的なハードルを下げる。そのうえで、描かれる内容そのものによって戦争の異常さを浮かび上がらせていくのだ。
勝ち目の見えない戦い、作戦の名のもとに兵士の命を平然と賭けさせる当時の日本の残酷さと狂気、そして戦場で少しずつ絶望へと沈んでいく兵士たちの表情——。愛らしい絵柄であるにもかかわらず、いや、愛らしい絵柄であるからこそというべきか、観る者の胸は強く締めつけられる。
戦争を“記録すること”の倫理を問う功績係という視点
主人公の田丸が担うのは、銃を手に戦うことだけではない。戦死した仲間たちの最期を、その遺族のもとへ届けるという役割もまた、彼に課せられている。だが、そこには重い条件がつきまとう。
たとえ実際には無惨きわまる死であったとしても、遺族の心を慰め、軍人としての名誉を保つために、それを”勇敢な最期”へと脚色するよう求められるのだ。ひとりの人間の死を、いかなる物語として後世に残すのか——。田丸が抱え込むこの葛藤を通して、本作は戦時下における記録のありよう、美談として語られる死、そして歴史がいかに伝えられていくのかという問いを、観客自身にも突きつけてくる。ここに本作の際立った特徴がある。
田丸と吉敷が交わす「生き残る」という約束
物語の中心にあるのは、性格も戦闘能力も異なる田丸と吉敷の友情だ。戦場になじめず葛藤する田丸を、頼れる吉敷が何度も支える一方、吉敷もまた恐怖や家族への思いを田丸に打ち明ける。英雄的な自己犠牲ではなく、愛する人のもとへ帰るために生き延びようとする二人の姿が、戦争によって奪われる一人一人の人生を浮かび上がらせる。
史実への考証とアニメーションならではの戦場表現
物語の舞台となるペリリュー島では、1944年9月から約2か月半もの長きにわたって、日本軍とアメリカ軍による激烈な戦闘が繰り広げられた。本作は、武器や兵器、島に張り巡らされた洞窟陣地、そして兵士たちの行動を具体的に描き込んでいく。
美しい海と豊かな緑に抱かれていたはずの島が、戦火のなかで無残に姿を変えていく——その痛ましい光景を、緻密な背景美術によって克明に再現してみせるのだ。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
