『ファンタスティック・フォー:ファースト・ステップ』でザ・シング役を務めたエボン・モス=バクラック。これまで『GIRLS/ガールズ』『一流シェフのファミリーレストラン』『キャシアン・アンドー』など、ジャンルを問わず“クセのある複雑な男”を演じてきた名バイプレイヤーが、ついにMCUのヒーローとして大きな一歩を踏み出した。
本記事では、そんなモス=バクラックの俳優としての歩みを、これまでの代表作とともに振り返る。演技派キャラ俳優がどのようにして“世界の顔”へと進化していったのか――その軌跡を追っていこう。
- 『イルマーレ』(2006)-キャリア初期に豪華共演を果たした時空ロマンス
- 『GIRLS/ガールズ』(2014〜2017年)-テレビ界でのブレイクを果たした転機の役
- 『Marvel パニッシャー』(2017年)-MCU系作品へと踏み出した知性派キャラの好演
- 『ノスフェラトゥ』(2019〜2020年)-人間の弱さと愛を同時に抱えた“父”をリアルに体現
- 『スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー』(2022年)-宇宙に現れたミステリアスな存在感
- 『一流シェフのファミリーレストラン』(2022年〜)-混沌と再生を背負った“Cousin”で世界的ブレイク
- 『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』(2025年)-“MCUのメインキャスト”へと飛躍
『イルマーレ』(2006)-キャリア初期に豪華共演を果たした時空ロマンス
韓国映画『イルマーレ』(2000年)をハリウッドでリメイクした本作(英題は『The Lake House』)は、キアヌ・リーブスとサンドラ・ブロックが主演を務める幻想的なラブストーリーだ。エボン・モス=バクラックが演じたのは、キアヌ扮する建築家アレックスの弟・ヘンリー・ワイラー。自身も建築家を志し、後に事務所を立ち上げる人物として登場する。物語の主軸である時空を超えた恋愛ドラマには直接関与しないが、兄との関係性や建築への情熱を通じて、主人公の人間性や背景をさりげなく補強する役回りを担っている。

『イルマーレ』©Warner Bros. Pictures
当時のモス=バクラックにとって本作は映画キャリア初期の1本であり、キアヌやブロックといった一線級俳優と同じ画面に立つ貴重な経験となった。批評家の評価は分かれたが、公開時に全世界で1億ドル超の興行収入を記録した話題作に名を連ねたことは、俳優としての実績形成において重要な足がかりとなった。後年のTVドラマでの躍進へとつながる、静かな第一歩と言えるだろう。
『GIRLS/ガールズ』(2014〜2017年)-テレビ界でのブレイクを果たした転機の役
ニューヨークで暮らす20代女性たちのリアルな心情と人間関係を描いたHBOドラマ『GIRLS/ガールズ』は、レナ・ダナムによる脚本・主演作として高い評価を受けたシリーズ。エボン・モス=バクラックが演じたのは、シーズン3から登場する舞台俳優・ミュージシャンのデジ・ハーパーリン。音楽ユニットを組んだマーニー(アリソン・ウィリアムズ)と恋に落ち、結婚と破局を経験する波乱に満ちた関係性が物語の軸となった。

『GIRLS/ガールズ』© HBO Entertainment
当初は数話のみのゲストキャラクターだったが、彼の演技に魅了された制作陣により、シーズン4からはレギュラーキャストに昇格。創造性に富んだ演技で、ステレオタイプな“アーティスト気取り”像にユニークな奥行きを与えた。ドラッグ依存や情緒不安定といった描写も含め、複雑で忘れがたい人物像を確立した本作は、モス=バクラックにとってテレビ界での飛躍のきっかけとなり、彼の名を広く知らしめる代表作となった。
『Marvel パニッシャー』(2017年)-MCU系作品へと踏み出した知性派キャラの好演
Netflixとマーベルが共同制作したアクション・スリラーシリーズ『パニッシャー』は、家族を殺された元軍人フランク・キャッスルの復讐劇を描く作品で、その陰で暗躍するもうひとりのキーパーソンがエボン・モス=バクラック演じる“マイクロ”ことデヴィッド・リーバーマンだ。元NSAアナリストで内部告発により命を狙われ、家族と引き離されながらも地下に潜伏。情報戦とハッキング技術を駆使してキャッスルと共闘する存在として、全13話中12話に登場する。

『パニッシャー』©Marvel Entertainment
モス=バクラックは原作のコミックキャラに敬意を払いつつ、ドラマ版では葛藤と孤独を抱えたリアルな人物像を構築。協力関係にあるキャッスルとの緊張感あふれるやり取りや、家族への想いを滲ませる繊細な演技は高い評価を受けた。『GIRLS』でのブレイク以降、より幅広いジャンルに活動の場を広げた本作は、彼にとってMCU系作品への第一歩であり、知性と人間味を併せ持つ俳優としての評価をさらに押し上げるターニングポイントとなった。
『ノスフェラトゥ』(2019〜2020年)-人間の弱さと愛を同時に抱えた“父”をリアルに体現
ホラー作家ジョー・ヒル原作の小説をもとにしたAMCドラマ『ノスフェラトゥ(NOS4A2)』は、失踪した子どもたちと時空を超える能力を持つ悪役との戦いを描いたスーパーナチュラル・スリラー。エボン・モス=バクラックが演じたのは、主人公ヴィック・マクイーンの父であるクリス・マクイーン。酒に溺れながらも娘を深く愛し、不器用な関わり方で家族に向き合う“元軍人のブルーカラーワーカー”という複雑な父親像をリアルに演じた。

『ノスフェラトゥ』©AMC Networks Entertainment LLC. All rights reserved.
単なる悪父でも理想像でもなく、矛盾と感情を内包する等身大のキャラクターは、全20話を通じてドラマの感情的軸として機能。特にシーズン2の第8話では彼の物語に大きな転機が訪れ、視聴者の涙を誘った。『パニッシャー』での知性派サポーター役とは異なる、重みのある家庭ドラマへの挑戦は、モス=バクラックの演技幅をさらに押し広げる転機となった。
『スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー』(2022年)-宇宙に現れたミステリアスな存在感
『ローグ・ワン』の前日譚として高い評価を得た『キャシアン・アンドー』は、帝国への反乱が静かに芽吹き始める時代を重厚に描いた政治色の強いSFドラマ。エボン・モス=バクラックが演じたのは、反乱グループに身を置く謎めいた男アーヴェル・スキーン。表向きは革命志向を語るが、実際には私利私欲も絡んだ二面性を持ち、主人公キャシアン・アンドーとの緊迫した駆け引きの末に命を落とすという鮮烈なインパクトを残した。

『キャシアン・アンドー』©Lucasfilm Ltd.
登場はわずか3話ながら、その“信頼できない反乱者”としての佇まいと、密室劇的な会話劇での存在感はシリーズ内でも特に印象的なものとなった。本人も「トニー・ギルロイ作品なら間違いない」と脚本の力を信じて参加したと語っており、スター・ウォーズの幻想性よりも、犯罪劇としての現実味や心理描写に惹かれていたという。『一流シェフのファミリーレストラン』での成功と並行し、モス=バクラックがその演技の幅をSF大作にまで広げた転機として、『キャシアン・アンドー』は特別な意味を持つ一作である。
『一流シェフのファミリーレストラン』(2022年〜)-混沌と再生を背負った“Cousin”で世界的ブレイク
シカゴのイタリアン・ビーフ店を舞台に、厨房内外の人間模様を描くドラマ『一流シェフのファミリーレストラン(原題:The Bear)』で、エボン・モス=バクラックが演じるのは、店の元共同運営者であるリッチー。シーズン1では職場の混乱を象徴するような存在として、激情と不器用さで物語をかき回す役どころだったが、シーズン2以降はその内面に深く迫るストーリーが展開される。

『一流シェフのファミリーレストラン』©︎2024 Disney and its related entities.
高級レストランでの研修を経て自らを見つめ直すエピソードでは、ただの“怒れる男”ではない繊細で優しい一面が浮かび上がり、多くの視聴者の涙を誘った。即興も交えたリアリズム重視の演出の中で、モス=バクラックは実体をもった“生身の男”を体現。この役によって彼はエミー賞を2年連続で受賞し、キャリアの大きな転機を迎えた。これまでの“クセのある名脇役”から、国際的に注目される演技派俳優へと飛躍するきっかけとなった代表作である。
『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』(2025年)-“MCUのメインキャスト”へと飛躍
MCUフェーズ6の幕開けを飾る『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』で、エボン・モス=バクラックが演じたのは、岩のような肉体を持つヒーロー、ベン・グリム/ザ・シング。これまで感情や内面の揺らぎを演じることに長けた彼にとって、本作は初のモーションキャプチャ演技という挑戦でもあった。演技指導を受けたマーク・ラファロ(ハルク役)の助言も受けながら、圧倒的なフィジカルと心の繊細さを同時に表現し、高い評価を獲得している。
1960年代風のレトロフューチャーな世界観の中で、グリムは“力”と“家族的絆”を象徴する存在として描かれ、物語の感情的な支柱に。Rotten Tomatoesでの88%(7月26日時点)という好スコアにも貢献し、「温かさとリアリズムを備えたザ・シング像」として称賛されている。モス=バクラックにとって本作は、長年のキャラクター俳優としての蓄積を大作映画の中心で爆発させた重要なターニングポイント。今後の『アベンジャーズ』シリーズでの続投も決まっており、名実ともに“MCUの顔”としてのキャリアを歩み始めている。
