【映画レビュー『シンパシー・フォー・ザ・デビル』】不快感と恐怖の積み重ね- 細かい挙動と爆発的な狂気による、“ニコラス・ケイジキャラ”の真骨頂

『シンパシー・フォー・ザ・デビル』©2023 Sympathy FTD, LLC ALL RIGHTS RESERVED REVIEWS
『シンパシー・フォー・ザ・デビル』©2023 Sympathy FTD, LLC ALL RIGHTS RESERVED

2月28日(金)公開のサスペンス・スリラー『シンパシー・フォー・ザ・デビル』は、一台の車内という極限の閉鎖空間で繰り広げられる、緊迫の心理戦を描き出す。ニコラス・ケイジとジョエル・キナマンという二人の個性派俳優の激突が生み出す異様な緊張感が、観る者を90分余りの不穏な旅へと誘う。

理不尽な恐怖の追体験

「もし自分が遭遇したら?」という恐怖が最も強く迫ってくる映画ジャンルの一つが、理不尽な暴力を描くサスペンス・スリラーだろう。特に無差別に被害者が選ばれるという設定は、誰もが自分事として受け止めてしまう普遍的な恐怖を喚起する。

そんな人間の根源的な恐怖を巧みに描き出す本作で、主人公デイビッド(ジョエル・キナマン)が経験する悪夢のような出来事は、観る者の心臓を締め付ける。妻の出産が目前に迫るという人生の大切な局面で、突如として謎の男(ニコラス・ケイジ)に車をジャックされ、見知らぬ場所への運転を強要される展開には、心が追い詰められる。

物語が動き出すと、観客は否応なく主人公と共に車という閉鎖空間に閉じ込められ、謎の男による心理的拷問とも言える展開に巻き込まれていく。ニコラス・ケイジが演じる男の正体も目的も不明なまま、彼が次に何をするのか分からない恐怖が絶えず観客の心を掻き乱す。

『シンパシー・フォー・ザ・デビル』©2023 Sympathy FTD, LLC ALL RIGHTS RESERVED

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特筆すべきは、この男の「不快さ」の描き方だ。銃を突きつけての脅迫という直接的な暴力はもちろん、延々と続く意味不明な独白、車内での無遠慮な喫煙など、些細な無作法の積み重ねによって観客の嫌悪感を徐々に増幅させていく。こうした重層的な「嫌なキャラクターデザイン」の組み立てが見事だ。

二人の俳優が紡ぐ緊迫のケミストリー

本作の真骨頂は、まさに二人の主演俳優の圧倒的な存在感の対比にある。ニコラス・ケイジは、いつもどおり「クリエイターの玩具」のごとく好き放題のキャラクターを任されるが、今回も彼特有の狂気的な魅力を存分に発揮し、その独特の表情芸と演技で役柄を完全に支配している。だからこそ、映画製作者たちはケイジという稀有な役者を起用する度に、突飛な創造の可能性を見出すのだろう。一方のジョエル・キナマンは、より抑制の効いた、しかし決して見劣りしない説得力で、追い詰められた一般市民を体現してみせる。

『シンパシー・フォー・ザ・デビル』©2023 Sympathy FTD, LLC ALL RIGHTS RESERVED

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その演技の対比は、物語の核心部分とも密接に結びついている。キナマン演じるデイビッドの歯切れの悪い判断や行動に観客はいらだちを覚えながらも、彼の内面で何が動いているのか、そして謎の男の真の目的は何なのか―あるいはそもそも目的など存在するのか―という謎に引き込まれていく。確かに、途中で巻き込まれる一般市民や、警察との対立など、展開自体には目新しさを見出しづらい。しかし本作の真価は、そうした定型的な展開ではなく、二人の俳優が織りなす緊迫のケミストリーにこそある。

キャスティングが光る緊張感の構築

『シンパシー・フォー・ザ・デビル』©2023 Sympathy FTD, LLC ALL RIGHTS RESERVED

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物語の余韻という点では、本作は必ずしも深い思索や強烈な感情を残す作品とは言えないかもしれない。しかし、ニコラス・ケイジとジョエル・キナマンという二人の俳優の間に生まれた狂気的な緊張関係は、見事に心を惹きつける。この予測不能な化学反応を最大限に引き出したユヴァル・アドラー監督のキャスティングと演出は、サスペンス・スリラー映画としての本作の存在感を確かなものにしている。

『シンパシー・フォー・ザ・デビル』は2月28日(金)公開。

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