【映画レビュー『愛を耕すひと』】魂を解き放つ、荒野の開拓譚― マッツ・ミケルセンが魅せる、自由への壮大な旅路

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映画『愛を耕すひと』が2月14日(金)日本公開。

『愛を耕すひと』予告編

『愛を耕すひと』あらすじ

18世紀デンマーク。貧窮にあえぐ退役軍人のルドヴィ・ケーレン大尉は、貴族の称号を懸け、ひとり荒野の開拓に名乗りを上げる。しかし、それを知った有力者フレデリック・デ・シンケルが自らの勢力が衰退することを恐れ、ありとあらゆる手段でケーレンを追い払おうと躍起になる。襲い掛かる自然の脅威とデ・シンケルからの非道な仕打ちに抗いながら、彼のもとから逃げ出した使用人の女性アン・バーバラや家族に見捨てられた少女アンマイ・ムスとの出会いにより、ケーレンの頑なに閉ざした心に変化が芽生えてゆく…。そして、それぞれが見つけた希望とは―。

時代と人間の相克

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富と権力による支配がステータスとされた時代において、労働者階級から軍の大尉へと上り詰めたケーレン(マッツ・ミケルセン)もまた、その価値観に囚われた人物として当初は描かれる。だが、社会から疎外され労働の機会すら奪われた人々や、窃盗で生きる少女との邂逅が、彼の内なる変容の契機となっていく。

大地が育む魂の解放

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身分や富が人の価値を決める時代にあって、本作は驚くほど普遍的な人間ドラマを描き出す。荒涼とした大地で繰り広げられる主人公ケーレンの物語は、単なる開拓史を超えて、魂の解放と自由への深い探求となっている。大自然の過酷な試練に向き合う彼の姿を見つめているうちに、現代を生きる私たちの心さえも浄化されていくような不思議な力を感じる。

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だが本作の素晴らしさは、主人公を理想化せず、過ちや後悔を抱えながらもがき続ける等身大の人間として描き切ったところにある。その生々しい人間性こそが、物語に深い説得力を与えているのだ。

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円熟の演技で魅せるミケルセン

本作におけるマッツ・ミケルセンの演技は、まさに円熟の極みと言えるだろう。人生の苦楽を刻み込んだような表情、ヴィラン役を演じている時の硬質な印象とは異なる温かみのある眼差し、そして追い詰められた魂の叫びまで―あらゆる感情の機微を、彼は繊細かつ力強く表現してみせる。特筆すべきは、その演技が決して独りよがりの技巧に終始せず、キャラクターの内面から自然と湧き上がってくるような説得力を持っている点だ。

マッツ・ミケルセン(©2023 ZENTROPA ENTERTAINMENTS4, ZENTROPA BERLIN GMBH and ZENTROPA SWEDEN AB)

マッツ・ミケルセン(©2023 ZENTROPA ENTERTAINMENTS4, ZENTROPA BERLIN GMBH and ZENTROPA SWEDEN AB)

さらに、時代考証に基づいた衣装や繊細なヘアメイクといったスタッフワークが、ミケルセンの演じるケーレンという人物の存在感とその立場・精神の浮き沈みを見事に補強している。

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存在感放つ新星ベンネビヤーグの対峙

フレデリック・デ・シンケルを演じたシモン・ベンネビヤーグ

フレデリック・デ・シンケルを演じたシモン・ベンネビヤーグ

悪役デ・シンケルの造形もまた、本作の重要な見どころとなっている。権力にしがみつく虚栄と狡猾さを体現する彼の存在は、主人公の価値観の変容をより鮮やかに浮かび上がらせる。この難しい役どころを演じたシモン・ベンネビヤーグの演技は特筆に値する。ベテラン俳優マッツ・ミケルセンと対峙するシーンでは圧倒的な存在感を放ち、実際のオーディションでもミケルセンが「彼のオーラに気圧された」と語ったほどだ。まさに、実力派の新星の登場を告げる印象的な演技と言えるだろう。

本作には、権力と自由、魂の再生といった普遍的なテーマが、厳しい自然描写とともに深く刻まれている。出会いによって変容する人間の姿を描いた本作が、現代を生きる私たちに何を問いかけるのか、ぜひ劇場で味わっていただきたい。『愛を耕すひと』は2月14日(金)日本公開。

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