短編『Votamos』解説|どんな映画?あらすじ・キャスト・魅力まとめ

短編『Votamos』解説|どんな映画?あらすじ・キャスト・魅力まとめ Database - Films
『Votamos』(Fundación Hospitalarias / YouTube)

短編映画『Votamos』(2021)を紹介&解説。


映画『Votamos』概要

映画『Votamos』は、サンティアゴ・レケホ監督(『Abuelos』)が、実際に起きた住宅差別の事例に着想を得て、精神疾患への偏見や社会に潜む不寛容を描いたスペイン製の短編ドラマ。集合住宅の住民会議で、精神疾患の病歴を持つ男性の入居が話題になったことから、住民たちの偏見や矛盾が露呈していく。ワンカットの長回しによる緊迫した会話劇が特徴で、2022年のゴヤ賞では短編フィクション映画賞にノミネートされた。のちに舞台化され、2025年には『VOTE 住民会議』として長編映画化された。主演はラウル・フェルナンデス・デ・パブロ、ネウス・サンス。共演にミリアム・ディアス=アロカ、チャロ・レイナ、アグスティン・ウスタロスら。

作品情報

日本版タイトル 未確認(26年10月時点)
原題 Votamos
英題 Time to Vote
製作年 2021年
本国公開日 2021年6月4日(映画祭初上映)
ジャンル ドラマ/コメディ
製作国 スペイン
原作 無
上映時間 14分
監督・脚本 サンティアゴ・レケホ
製作 サンティアゴ・レケホ/トノ・エスクデロ/カルロス・サンス
製作総指揮 トノ・エスクデロ
撮影 ハビエル・ロペス・ベルメホ
編集 ルーカス・サンチェス
出演 ラウル・フェルナンデス・デ・パブロ/ネウス・サンス/ミリアム・ディアス=アロカ/チャロ・レイナ/アグスティン・ウスタロス/ダビド・テネイロ/テレサ・デル・オルモ/フェルナンド・ウスタロス/アルベルト・チャベス
製作 02:59 Films
配給 Promofest(短編映画の映画祭流通)

あらすじ

マドリードの集合住宅で、老朽化したエレベーターの交換について話し合うため、住民会議が開かれる。議題は全会一致で承認され、会議は無事に終了するはずだった。

しかし、部屋の所有者であるアルベルトが、同僚ホアキンに自分の部屋を貸す予定だと報告した途端、住民たちの態度が一変する。ホアキンが精神疾患の病歴を持つと知った住民たちは、本人に会ったこともないまま、共同生活への危険性や不安を口にし始める。

アルベルトは同僚を擁護するが、住民たちは納得せず、ついには入居の是非を投票で決めようとする。そんななか、ひとりの女性住民が思いがけない告白をする。

主な登場人物(キャスト)

アルベルト(ラウル・フェルナンデス・デ・パブロ):集合住宅に部屋を所有する男性。精神疾患の病歴を持つ同僚ホアキンに部屋を貸そうとするが、ほかの住民たちから猛反対される。偏見に抵抗し、ホアキンの入居する権利を擁護する一方、自身も家賃収入を必要としている。

ヌリア(ネウス・サンス):集合住宅に暮らす若い女性。ホアキンの入居をめぐる議論が過熱するなか、自身も15年前に妄想型統合失調症と診断されたことを告白する。7年間にわたって同じ建物で平穏に暮らしてきたことを明かし、精神疾患への偏見を批判する。

マイテ(ミリアム・ディアス=アロカ):集合住宅に暮らす女性。娘の安全や住民たちの生活への影響を心配し、ホアキンの入居に反対する。新住民を受け入れるかどうかを住民投票にかけるよう要求し、アルベルトと激しく対立する。

コンチャ(チャロ・レイナ):集合住宅に暮らす女性。建物の清潔さや日常生活への影響を気にかけており、精神疾患の病歴を持つホアキンについても、騒音や交友関係などの問題を想像して不安を表明する。

フェルナンド(アグスティン・ウスタロス):集合住宅に暮らす男性。ホアキンが社会復帰支援プログラムを通じて働いていると知り、刑務所を出所した人物なのではないかと疑う。入居に否定的な態度を示し、管理組合がアルベルトの部屋を借り上げる案にも賛同する。

フリアン(ダビド・テネイロ):集合住宅に暮らす男性。会議の終了後、アルベルトの部屋の賃貸状況について話題を振り、新しい入居者の存在が明らかになるきっかけをつくる。

テレサ(テレサ・デル・オルモ):集合住宅に暮らす女性。新しい入居者に精神疾患の病歴があると聞き、具体的な病名を尋ねる。ホアキンの生活習慣や安全性について、根拠のない憶測を口にする。

ルーカス(アルベルト・チャベス):集合住宅に暮らす男性。住民会議に参加し、ホアキンの入居をめぐる議論に立ち会う。長編版ではクリスティアン・チェカが同名の人物を演じている。

管理組合会長(フェルナンド・ウスタロス):集合住宅の住民会議を進行する男性。老朽化したエレベーターの交換について採決を行うが、ホアキンの入居問題が持ち上がったことで、会議は予期せぬ方向へ進んでいく。

簡易ストーリー解説(ネタバレ)

起:平穏な住民会議と突然の報告

マドリードの集合住宅で、エレベーターの交換を議題とする住民会議が開かれる。遅れてやってきたヌリアも加わり、交換案は全会一致で承認。会議はあっさりと終了する。

ところが、住民のアルベルトが、長らく空き部屋になっていた自分の部屋にようやく借り手が見つかったと報告する。入居予定者は、同じ会社で働くホアキンという男性だった。

承:病歴を知った住民たちの偏見

アルベルトは、ホアキンが社会復帰支援プログラムを通じて働いており、精神疾患の病歴を持っていると説明する。

それを聞いた住民たちは、刑務所から出てきた人物なのではないか、騒音や火災などの問題を起こすのではないかと、次々に不安を口にする。

アルベルトは、ホアキンは仕事を通じて知る信頼できる人物であり、病歴だけで危険視すべきではないと反論。しかし、娘の安全を心配するマイテは納得せず、入居を住民投票で決めるよう要求する。

さらに住民たちは、エレベーターの交換を諦め、その予算でアルベルトの部屋を借り上げれば、ホアキンの入居を阻止できると考え始める。

アルベルトは住民たちの偏見を批判しながらも、ホアキンより高い家賃を2年間支払うのであれば、管理組合に部屋を貸してもよいと応じる。

転:ヌリアが明かす自らの病歴

そんななか、議論を静かに聞いていたヌリアが口を開く。

ヌリアは、自分が15年前に妄想型統合失調症と診断されたことを告白。精神疾患を持つと知られることで、周囲から拒絶されたり、恐れられたりしてきた経験を語る。

その一方で、ヌリアは7年前からこの集合住宅に暮らしており、住民たちとも良好な関係を築いてきた。これまで問題なく接していた相手が精神疾患の当事者だと知り、住民たちは言葉を失う。

ヌリアは、ホアキンが良い入居者になるかどうかは自分にもわからないと認めながら、本人を知ろうともせず、病歴だけで排除することの不当さを訴える。

結:答えを示さない住民投票

ヌリアの告白を聞き、それまで激しく議論していた住民たちは沈黙する。

しかし、しばらくすると、再び投票を促す声が聞こえてくる。

結局、ホアキンの入居が認められたのか、住民たちが考えを改めたのか、具体的な投票結果は示されないまま物語は終了する。

精神疾患のある人の居住する権利を、多数決で決めてよいのか。住民たちの沈黙と曖昧な結末によって、観客自身にも判断が突きつけられる。

作品の魅力解説

精神疾患への偏見を凝縮した鋭い社会批評

本作の最大の魅力は、精神疾患を持つ人々への偏見や差別を、わずか14分ほどの住民会議を通じて鋭く描き出していることにある。

新しく入居する予定のホアキンは、住民たちに危害を加えたわけでも、何らかの問題を起こしたわけでもない。ところが、精神疾患の病歴があるという情報だけで、ほかの住民たちは彼を危険人物と見なし、入居を阻止しようとする。

興味深いのは、住民たちの多くが、自分自身を差別的な人物だとは認識していないこと。彼らは安全や共同生活への配慮を理由に反対するものの、その判断の根拠となっているのは、実際のホアキンの言動ではなく、病気に対する先入観である。

他者の権利を尊重すると考えている人々も、いざ自分たちの生活に関わる問題となると、簡単に不寛容になってしまう。本作は、その矛盾を身近な会話のなかで鮮やかに描いている。

ワンカットの長回しが生み出す臨場感

本作は、住民会議の様子をワンカットの長回しで描いている点でも特徴的だ。

カメラは住民たちの間を移動しながら、発言する人物だけでなく、それを聞く周囲の反応や表情の変化も捉えていく。

会議の冒頭は穏やかな雰囲気だが、ホアキンの病歴が話題になった瞬間から、住民たちの間に不安と緊張が広がる。

大きな場面転換や派手な演出に頼らず、ひとつの空間で繰り広げられる会話だけで観客を引き込む構成は、密室劇ならではの面白さを感じさせる。

また、カメラがその場を離れないことで、観客も住民会議に同席し、議論の行方を見守っているような感覚を味わえる。

ヌリアの告白によって一変する物語

短編の感情的な転換点となるのが、ネウス・サンス演じるヌリアの告白だ。

それまで精神疾患を抱える人々について、本人のいない場所で一方的に議論していた住民たち。しかし、長年一緒に暮らしてきたヌリアが自身も当事者であることを明かした瞬間、その議論は抽象的な問題ではなくなる。

特に重要なのは、ヌリアが告白する前後で、彼女自身は何も変わっていないということ。

住民たちにとって親しい隣人だった女性が、精神疾患の病歴を知った途端に違う人物として見られてしまう。その不合理さが、人物たちの反応を通じて浮き彫りになる。

ネウス・サンスの感情を込めた演技も、この場面に強い説得力を与えている。

投票結果を明かさない、印象的な結末

本作の結末は、ホアキンの入居について具体的な答えを示さない。

ヌリアの告白によって住民たちが沈黙し、その後、投票を促す声が聞こえるところで物語は幕を閉じる。

この結末が巧みなのは、問題を解決することよりも、観客自身に問いを残すことを重視している点だ。

そもそも、精神疾患があるという理由で、誰かが住む場所を選ぶ権利をほかの住民たちが投票にかけてよいのだろうか。

本作は、その根本的な疑問を残し、観客に判断を委ねる。

なお、2025年公開の長編版では、この短編で描かれた会議がさらに続き、住民たちの家庭問題や個人的な事情が掘り下げられる。最終的な投票の行方も描かれ、短編とは異なる皮肉な結末へと発展する。

長編映画の原点となった作品

本作は2021年に発表され、その後、舞台劇としても翻案された。2025年には、サンティアゴ・レケホ監督自身の手によって長編映画として再構成されている。

長編版では、一部のキャストを引き継ぎつつ、多くの役柄が変更された。

短編でヌリアを演じたネウス・サンスは、長編版ではマイテを担当。短編でコンチャを演じたチャロ・レイナは、長編ではロラという人物を演じている。一方、アルベルト役のラウル・フェルナンデス・デ・パブロは、長編版でも同じ役を続投した。

物語の序盤には短編版と共通する展開が多く見られるが、長編版は、その後の住民たちの対立を大幅に拡張している。

明確な答えを示さず、観客に判断を委ねる短編版と、登場人物たちの矛盾をさらに掘り下げ、皮肉な結末へと導く長編版。両作品を比較することで、同じ題材が異なる物語表現へと発展していく過程も楽しめる。

【動画】VOTAMOS – Salud Mental

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