『関心領域』とはどんな映画?あらすじ・キャスト・魅力まとめ

映画『関心領域』(2023)を紹介&解説。


映画『関心領域』概要

映画『関心領域』は、アウシュヴィッツ強制収容所と壁1枚を隔てた屋敷で暮らす収容所長ルドルフ・ヘス一家の日常を描いた歴史ドラマ。ジョナサン・グレイザー監督(『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』)が、マーティン・エイミスの同名小説を基に映画化した。虐殺を直接画面に映さず、青空や美しい庭、家族の談笑と、その背後から聞こえる銃声や怒号を並置することで、ホロコーストと「無関心」の恐ろしさを浮かび上がらせる。主演はクリスティアン・フリーデルザンドラ・ヒュラー。第76回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞し、第96回アカデミー賞では国際長編映画賞と音響賞に輝いた。

作品情報

日本版タイトル 『関心領域』
原題 The Zone of Interest
製作年 2023年
本国公開日 2023年12月15日(米国)
日本公開日 2024年5月24日
ジャンル ドラマ歴史戦争
製作国 アメリカ/イギリス/ポーランド
原作 マーティン・エイミス『関心領域』(小説)
上映時間 105分
監督・脚本 ジョナサン・グレイザー
製作 ジェームズ・ウィルソン/エヴァ・プシュチンスカ
製作総指揮 レノ・アントニアデス/ダニエル・バトセク/レン・ブラバトニック/ダニー・コーエン/ケロン・ダーネル/デヴィッド・キンバンギ/オリー・マッデン/テッサ・ロス
撮影 ウカシュ・ジャル
編集 ポール・ワッツ
プロダクションデザイン クリス・オッディ
音響 ジョニー・バーン/ターン・ウィラーズ
作曲 ミカ・レヴィ
出演 クリスティアン・フリーデル/ザンドラ・ヒュラー/ヨハン・カルトハウス/ルイス・ノア・ヴィッテ/イモーゲン・コッゲ/ラルフ・ハーフォース
製作会社 A24/フィルム4/アクセス・エンターテインメント/JWフィルムズ/エクストリーム・エモーションズ/ハウス・プロダクションズ
配給 A24(米国)/ハピネットファントム・スタジオ(日本)

あらすじ

第二次世界大戦下、ナチス・ドイツ占領下のポーランド。アウシュヴィッツ強制収容所の所長ルドルフ・ヘスは、妻ヘートヴィヒや子どもたちとともに、収容所のすぐ隣に建つ屋敷で暮らしていた。

一家は花々に囲まれた庭やプールを楽しみ、川へ出かけ、親族や友人を招きながら、自分たちなりの理想的な生活を築いていく。ルドルフに転任の話が持ち上がっても、ヘートヴィヒはようやく手に入れた屋敷を離れたがらない。

しかし、庭を囲う壁の向こう側では、絶え間なく人々の命が奪われている。銃声や怒鳴り声、焼却施設の音、不穏な煙が日常へ入り込んでも、一家はそれらにほとんど関心を示さない。穏やかな家庭生活と組織的な大量虐殺が隣り合う中、彼らの幸福を支えているものの正体が浮かび上がっていく。

主な登場人物(キャスト)

ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル):アウシュヴィッツ強制収容所の所長を務めるナチス親衛隊の将校。家庭では妻や子どもたちと穏やかに過ごす一方、職務では大量殺害を効率化するための計画を淡々と進めている。実在した人物をモデルとしている。

ヘートヴィヒ・ヘス(ザンドラ・ヒュラー):ルドルフの妻。収容所の隣に設けられた屋敷と美しい庭を理想の生活環境と考え、そこでの暮らしに強く執着している。収容者から奪われた衣服や品物を受け取りながら、壁の向こうで起きている惨劇を自分の生活とは切り離している。

作品の魅力解説

惨劇を映さないことで、日常のすべてを恐怖へ変える

本作を成立させている最大の着想は、アウシュヴィッツで行われている残虐行為をあえて直接映さないことにある。画面に現れるのは、青空、花の咲く庭、プールで遊ぶ子どもたち、食卓を囲む家族、夫婦の小さな悩みといった、ごくありふれた生活だ。

しかし、ここがアウシュヴィッツ強制収容所の隣であり、一家の生活が収容者の犠牲によって成り立っているという前提を把握した瞬間、すべての光景が耐え難いものへ変わる。明るい空に広がる煙や、盗まれた衣服を何げなく身につける行為など、画面の端に置かれた要素が一家の幸福の正体を物語る。「映さない」というコンセプトそのものが、観客の知識と想像力を通して惨劇を拡大させる作品である。

退屈さまで演出に組み込んだ、能動的な映画体験

主人公たちの会話や生活には意図的なほど起伏がなく、静かで単調な時間が続く。構図は緻密に設計されているものの、カメラは基本的に固定され、人物へ感情的に寄り添うようなクローズアップや劇的な動きも抑えられている。気を抜けば眠気を覚えるほど淡々とした作品であり、その点は鑑賞上のハードルにもなり得る。

一方で、この単調さは観客に「画面の外側」へ意識を向けさせる仕掛けでもある。遠くの銃声や怒号、犬の鳴き声、機械の轟音は、集中していなければ日常の環境音として聞き流してしまいそうな音量で紛れ込む。それらを拾い続けるには、観客自身が画面へ身を乗り出し、見えていない出来事を考え続けなければならない。本作は分かりやすい刺激で観客を引っ張るのではなく、観客の側に能動的な参加を要求する。

映像とは別の「もうひとつの映画」を作り出す音響と音楽

画面が描くのはヘス一家の穏やかな生活だが、音響が伝えるのは壁の向こう側で進行する大量虐殺である。映像と音が別々の世界を描きながら同時に存在することで、観客は一家が見ようとしない現実を聴覚から突きつけられる。この音響設計が、第96回アカデミー賞音響賞を受賞した本作の核心となっている。

さらに強烈な印象を残すのが、ミカ・レヴィによる音楽だ。使用箇所は限定されているが、人間の声や電子音が歪みながら重なったような不穏な響きは、物語を説明するのではなく、作品の底に横たわる恐怖そのものを直接伝えてくる。通常のホラー映画のサウンドトラック以上に生理的な恐怖を呼び起こし、鑑賞後も耳から離れない。

一家を批判する視線が、現代の観客へ返ってくる

壁の向こう側で人々の命が奪われているにもかかわらず、庭やプールを楽しみ、豊かな暮らしを守ろうとする一家には、強い怒りや嫌悪を覚える。しかし、本作が向ける批判は、ナチス・ドイツという過去の特殊な人々だけに限定されていない。

現代の私たちも、ニュースやSNSを通じて、海や国境の向こう側で戦争や迫害が続いていることを知りながら、日常生活を送っている。もちろん、現代の一般市民と虐殺を運営したヘス一家を同一視することはできない。それでも、見たくない現実を自分の「関心領域」の外側へ追いやる心理は、現在にも存在する。

ヘス一家へ向けた批判的な視線は、ブーメランのように観客自身へ返ってくる。『関心領域』は過去の加害者を安全な場所から断罪させるのではなく、「壁の向こう側で起きていることに、あなたはどこまで関心を持っているのか」と現在を生きる一人ひとりに問いかける作品である。

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