映画『哀しき獣』(2010)を紹介&解説。
映画『哀しき獣』概要
映画『哀しき獣』は、『チェイサー』のナ・ホンジン監督が、借金、密航、殺人依頼、失踪した妻への執着を絡めながら、極限状態に追い込まれる男の逃走劇を描いた韓国クライムサスペンス。中国・延辺朝鮮族自治州で暮らす朝鮮族のタクシー運転手が、妻を探すために韓国へ渡ったことをきっかけに、警察、裏社会、謎の黒幕から追われる身となっていく。主演はハ・ジョンウ、共演にキム・ユンソク、チョ・ソンハ、クァク・ドウォンら。
作品情報
日本版タイトル:『哀しき獣』
原題:황해(黄海)
英題:The Yellow Sea
製作年:2010年
本国公開日:2010年12月22日
日本公開日:2012年1月7日
ジャンル:クライム/サスペンス/スリラー/アクション
製作国:韓国
原作:無
上映時間:140分
監督:ナ・ホンジン
脚本:ナ・ホンジン
製作:アン・ドンギュ/チョン・デフン/キム・ウィソク
製作総指揮:ハン・ソング
撮影:イ・ソンジェ
照明:ファン・スヌク
編集:キム・ソンミン
作曲:チャン・ヨンギュ/イ・ビョンフン
美術:イ・ウキョン
出演:ハ・ジョンウ/キム・ユンソク/チョ・ソンハ/イ・チョルミン/クァク・ドウォン/チョン・マンシク/イ・エル
製作:ポップコーン・フィルム/フォックス・インターナショナル・プロダクションズ/ショーボックス・メディアプレックス/ウェルメイド・スターエム
配給:ショーボックス(韓国)/クロックワークス(日本)
あらすじ
中国・延辺朝鮮族自治州でタクシー運転手として暮らすグナムは、借金の返済に追われ、韓国へ出稼ぎに行ったまま連絡が途絶えた妻のことを案じていた。賭博にも失敗し、逃げ場を失った彼の前に現れた殺人請負人ミョンは、韓国である人物を殺せば借金を帳消しにすると持ちかける。妻を探す目的も重なり、グナムは黄海を渡って韓国へ向かうが、そこで予想もしない罠にはめられ、警察と裏社会の双方から追われることになる。
主な登場人物(キャスト)
キム・グナム(ハ・ジョンウ):中国・延辺朝鮮族自治州で暮らす朝鮮族のタクシー運転手。借金に追われ、韓国へ渡ったまま音信不通となった妻を探すため、危険な殺人依頼を引き受ける。
ミョン・ジョンハク(キム・ユンソク):グナムに殺人を依頼する裏社会の男。冷酷かつ圧倒的な暴力性を持ち、物語全体に強い緊張感をもたらす存在。
キム・テウォン(チョ・ソンハ):韓国で起きる殺人事件の背後に関わる人物。グナムが巻き込まれていく陰謀の重要な鍵を握っている。
キム・スンヒョン(クァク・ドウォン):グナムが殺すよう命じられる標的の教授。彼をめぐる事件が、複数の思惑を巻き込む逃走劇へと発展していく。
作品の魅力解説
『哀しき獣』の魅力は、単なる追跡サスペンスに留まらない重層的な緊迫感にある。物語は、借金に追われた男が殺人依頼を引き受けるというシンプルな出発点から始まるが、韓国へ渡った後は、依頼の真相、妻の行方、裏社会の思惑が絡み合い、主人公自身にも全体像が見えないまま状況が悪化していく。
ナ・ホンジン監督らしい荒々しい暴力描写と、息の詰まるような逃走劇も本作の大きな見どころである。狭い路地、港、道路、暗い室内を駆け抜けるアクションは、洗練された美しさよりも、生々しい痛みと切迫感を前面に出している。観客はグナムと同じように、なぜ追われているのか、誰が本当の敵なのかを探りながら、底なしの闇へ引きずり込まれていく。
また、本作は『チェイサー』で強烈な印象を残したハ・ジョンウとキム・ユンソクの再タッグ作品でもある。追い詰められながらも妻への執着を捨てられないグナムと、怪物的な存在感を放つミョンの対比は、物語の推進力そのものになっている。社会の周縁に置かれた人間の孤独、越境することでさらに深まる絶望、そして人間の本能的な生存欲求が、重く鋭い余韻を残す作品である。
