映画『ブレイブ・ロード~名もなき英雄~』(2017)を紹介&解説。
映画『ブレイブ・ロード~名もなき英雄~』概要
映画『ブレイブ・ロード~名もなき英雄~』は、朝鮮戦争に従軍したトルコ軍兵士スレイマン・ディルビルリイと、戦場で孤児となった韓国人少女アイラの実話を基に描く戦時ヒューマンドラマ。国連軍の一員として朝鮮半島へ派遣されたスレイマンが少女を保護し、言葉も文化も異なるふたりが父娘のような絆を築いていく。監督はカン・ウルカイ。イスマエル・ハシオグルとキム・ソルが若きスレイマンとアイラを演じ、2018年の第90回アカデミー賞外国語映画賞ではトルコ代表作品に選出された。
作品情報
| 日本版タイトル | 『ブレイブ・ロード~名もなき英雄~』 |
|---|---|
| 原題 | Ayla: The Daughter of War |
| 製作年 | 2017年 |
| 本国公開日 | 2017年10月27日 |
| 日本公開日 | 2019年4月19日 |
| ジャンル | 戦争/ドラマ |
| 製作国 | トルコ |
| 原作 | 無(実話を基にした作品) |
| 上映時間 | 124分 |
| 監督 | カン・ウルカイ |
|---|---|
| 脚本 | イジット・グラルプ |
| 製作 | ムスタファ・ウスル |
| 撮影 | ジャン=ポール・セレシン |
| 編集 | ムスタファ・プレシェヴァ |
| 作曲 | ファーイル・アタコール |
| 出演 | イスマエル・ハシオグル/キム・ソル/セティン・テキンドル/イ・ギョンジン/アリ・アタイ/ムラート・ユルドゥルム/ダムラ・ソンメズ/タネル・ビルセル/エリック・ロバーツ |
| 製作 | ディジタル・サナトラル・プロダクション |
| 配給 | ワーナー・ブラザース(トルコ)/「ブレイブ・ロード」上映委員会(日本) |
あらすじ
1950年、朝鮮戦争に国連軍の一員として参加したトルコ軍の軍曹スレイマンは、戦場でひとり生き残った幼い韓国人少女を発見する。月明かりの下で出会った彼女を“アイラ”と名付けて保護し、基地で暮らすうちにふたりは本物の父娘のような絆を育んでいく。しかし戦争が続く中、スレイマンには祖国へ帰還する時が近づいていた。
主な登場人物(キャスト)
スレイマン・ディルビルリイ(イスマエル・ハシオグル/セティン・テキンドル):国連軍の一員として朝鮮戦争に派遣されたトルコ軍の軍曹。戦場で孤児となった少女を救出し、“アイラ”と名付けて我が子のように育てる。実在したトルコ軍兵士。
アイラ(キム・ソル/イ・ギョンジン):朝鮮戦争によって家族を失った韓国人少女。名前すら分からない状態でスレイマンに救われ、月明かりの下で発見されたことから“アイラ”と呼ばれるようになる。モデルとなったのは実在の人物キム・ウンジャ。
アリ(アリ・アタイ):スレイマンとともに朝鮮戦争へ赴くトルコ軍兵士。スレイマンとアイラの関係を近くで見守り、戦場に生まれた小さな家族を支える仲間のひとり。
ヌーラン(ダムラ・ソンメズ):スレイマンがトルコに残してきた恋人。遠く離れた朝鮮半島で戦うスレイマンの帰還を待つ。
メスート(ムラート・ユルドゥルム):スレイマンたちとともに朝鮮戦争へ赴くトルコ軍の中尉。過酷な戦況を生き抜く兵士たちを率いる。
作品の魅力解説
朝鮮戦争の実話から生まれた“父と娘”の物語
最大の魅力は、朝鮮戦争という極限状況の中で芽生えた、血縁を超えた父娘の愛情だ。言語も文化も年齢も異なるトルコ軍兵士と韓国人孤児という、本来なら接点すらなかったふたりが少しずつ心を通わせていく。スレイマンだけでなく周囲の兵士たちもアイラを慈しむ姿からは、暴力と死が日常を侵食する戦場でも失われない人間性が浮かび上がる。
しかも、その中心にある出来事が実話であることは本作に格別の重みを与えている。実在のスレイマン・ディルビルリイとキム・ウンジャは朝鮮戦争を通じて父娘のような関係となり、長い歳月を経て再会を果たした。戦争史の片隅にあった個人の記憶を、人間同士の結びつきの物語としてすくい上げた作品だ。
戦場の惨禍と、そこで生まれる小さな日常
本作は激しい戦闘や戦争によって破壊された暮らしを描く一方、その合間にあるスレイマンとアイラの日常を丁寧に積み重ねる。兵士たちと交わす笑顔や、父と娘のように過ごす何気ない時間。それらの温かな瞬間は、いつ失われてもおかしくない戦場に置かれているからこそ、いっそう鮮烈に映る。
戦争映画であると同時に、その戦争によって偶然出会った人々のヒューマンドラマでもある。国家や民族、言語といった境界を超え、“人が人を想う力”そのものへと物語を収束させていく点に、本作の普遍性がある。
約60年の歳月が証明する、消えなかった絆
やがて避けられない別れがふたりに訪れるが、物語は戦争の終結だけでは終わらない。その先に横たわる長い年月まで描くことで、スレイマンとアイラの関係が一時的な戦場の感傷ではなかったことを浮かび上がらせていく。
2010年には韓国のテレビ局MBCによる取材をきっかけとして、実在のふたりが約60年ぶりに再会。その実話を背景にした終盤は、「時間や距離によっても消えない絆」という極めてシンプルなテーマを強烈な説得力とともに突きつける。史実の重みと大きな感情の振れ幅を兼ね備えた、王道だからこそ力強いヒューマンドラマである。
惜しいのは、感情を押し続ける音楽演出
一方、感動を引き出すための音楽は、本作の弱点にもなっている。劇中の多くの場面で情感豊かな音楽が前面に出るため、作品全体の感情が常に高い位置に保たれ、演出上の緩急が弱まってしまう。
その結果、本来なら音楽が最大限の効果を発揮するはずのクライマックスでも、すでにその語り口に耳が慣れてしまっている。もう少し“無音”を恐れず、俳優の表情やその場の空気だけに感情を委ねる瞬間があれば、終盤で訪れる感動の解放感はさらに大きなものになっただろう。
原題『Ayla: The Daughter of War』が伝えるもの
そして作品そのものとは別に惜しく感じられるのが、日本版タイトルだ。『ブレイブ・ロード~名もなき英雄~』は戦争映画らしい王道の響きを持つ一方、原題『Ayla: The Daughter of War』――直訳すれば「アイラ、戦争の娘」――は、本作の物語をより端的かつ詩的に言い表している。
英雄の武勲ではなく、戦争によってすべてを奪われ、それでもひとりの兵士と家族の絆を得た少女。その名をタイトルの中心に置く原題には、本作が本当に見つめているものが凝縮されている。戦争の記録にとどまらず、その歴史の中を生きたひとりの少女と彼女を愛した人々の物語として、確かな余韻を残す一作だ。
