マイケル・ジャクソン解説コラム2:『スリラー』はなぜ伝説になったのか-音楽、映像、ダンスの常識を変えた黄金期を映画公開前にたどる入門

マイケル・ジャクソン解説コラム2:『スリラー』はなぜ伝説になったのか-音楽、映像、ダンスの常識を変えた黄金期を映画公開前にたどる入門 COLUMNS
マイケル・ジャクソン解説コラム2

『Thriller』期のマイケルは、ポップの音と映像を同時に変えた。


2026年6月12日(金)に日本公開予定の映画『Michael/マイケル』を前に、改めて知っておきたいのが、マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)の黄金期である。ジャクソン5の天才少年からソロアーティストへと歩みを進めた彼は、1979年の『Off the Wall』、1982年の『Thriller』、1987年の『Bad』によって、ポップミュージックの歴史に決定的な足跡を残した。

この時期のマイケルを語るうえで重要なのは、単にヒット曲の数が多かったということではない。彼は音楽を“聴くもの”にとどめず、ダンス、衣装、映像、物語性を組み合わせた総合表現へと押し広げた。アルバムを出すたびに、曲そのものだけでなく、ステージ上の身体、画面の中の存在感、時代の空気まで更新していったのである。

『Off the Wall』で開いた、大人のソロアーティストとしての扉

マイケル・ジャクソンのソロとしての飛躍は、プロデューサーのクインシー・ジョーンズとの出会いによって大きく加速した。1979年に発表された『Off the Wall』は、ジャクソン5の“末っ子”として知られていた彼が、大人のソロアーティストへと変化する重要な作品だった。

Don’t Stop ’Til You Get Enough」「Rock with You」「She’s Out of My Life」などを収録した同作では、ディスコ、ファンク、R&B、ポップがしなやかに結びついている。そこにあるのは、少年時代の明るさだけではなく、夜の都会に似合う洗練、恋愛の痛み、踊ることへの高揚感だった。

【動画】マイケル・ジャクソン「Rock with You」

特に「Don’t Stop ’Til You Get Enough」は、マイケル自身の声が楽器のように跳ねる一曲である。高音のボーカル、細かく刻まれるリズム、身体が先に反応するようなグルーヴ。そのすべてが、後のマイケル像を予告していた。『Off the Wall』は、『Thriller』の前段階ではなく、彼が自分の表現を本格的に手にした最初の大きな到達点といえる。

【動画】マイケル・ジャクソン「Don’t Stop ’Til You Get Enough」

『Thriller』が変えた、音楽とミュージックビデオの関係

1982年に発表された『Thriller』は、マイケル・ジャクソンを世界的な現象へと押し上げた。「Wanna Be Startin’ Somethin’」「The Girl Is Mine」「Thriller」「Beat It」「Billie Jean」「Human Nature」などを収録した同作は、ポップ、R&B、ロック、ファンクを横断しながら、誰もが口ずさめる親しみやすさと、細部まで作り込まれた完成度を両立している。

なかでも「Billie Jean」は、マイケルの声とビートが緊張感を持って絡み合う代表曲である。控えめに始まるベースライン、疑惑と不安をにじませる歌詞、そしてステージ上の身体表現。曲の世界観は音だけで完結せず、彼の動きによってさらに強い記憶として残った。

【動画】マイケル・ジャクソン「Billie Jean」

「Beat It」ではロックの要素を大胆に取り込み、ジャンルの境界を越えた。ギターの鋭さとポップソングとしての聴きやすさを両立させたこの曲は、マイケルが特定のジャンルに閉じないアーティストであることを示している。そして「Thriller」では、ホラー映画の要素、群舞、衣装、特殊メイク、物語性を組み合わせ、ミュージックビデオを短編映画のような体験へと変えた。

それまでのミュージックビデオは、楽曲を紹介するための映像という意味合いが強かった。しかしマイケルは、映像そのものを作品として成立させた。赤いジャケット、ゾンビダンス、夜道を歩く不穏な空気。これらは曲の付属品ではなく、「Thriller」という作品の記憶そのものになった。

【動画】マイケル・ジャクソン「Thriller」

1984年のグラミー賞では、マイケルは一晩で8部門を受賞した。これは『Thriller』が商業的成功にとどまらず、音楽業界の評価としても大きな転換点だったことを示している。彼はこの時期、アルバム、シングル、テレビ、ライブ、ミュージックビデオのすべてを連動させ、ポップスターのあり方を新しい段階へ押し上げた。

【動画】マイケル・ジャクソン「Beat It」

『Bad』で完成した、より鋭いスター像

『Thriller』の成功はあまりにも大きく、その次に何を作るかは、どのアーティストにとっても重い課題になる。1987年の『Bad』は、その期待に向き合いながら、マイケルがより攻撃的で、硬質なイメージへと踏み出した作品だった。

Bad「The Way You Make Me Feel」「Man in the Mirror」「Dirty Diana」「Smooth Criminal」などを収録した同作では、前作の華やかさに加え、より強い自己主張とドラマ性が前面に出ている。黒を基調とした衣装、鋭い目線、短く切り込むダンス、都会的な緊張感。『Bad』期のマイケルは、親しみやすいポップスターでありながら、近づきがたいアイコンとしての輪郭も強めていった。

【動画】マイケル・ジャクソン「Bad」

「Man in the Mirror」では、個人の内面から社会へ視線を広げるメッセージが込められている。一方、「Smooth Criminal」では、傾斜する身体、白いスーツ、フェドラ帽といった視覚的なイメージが、楽曲と同じくらい強い印象を残した。マイケルにとってダンスは、曲を飾る振付ではない。歌詞、リズム、映像、キャラクターを結びつける言語だった。

【動画】マイケル・ジャクソン「Smooth Criminal」

『Bad』は、全米No.1シングルを5曲生んだアルバムとしても知られる。『Thriller』で世界を制した後、マイケルはその成功を繰り返すのではなく、より研ぎ澄まされた表現で自分自身のイメージを更新しようとした。そこに、この時期の緊張感と面白さがある。

マイケル・ジャクソンの黄金期とは、ヒット曲が連続した時代であると同時に、ポップミュージックが“総合芸術”へ近づいた時代でもある。『Off the Wall』で大人のソロ表現を獲得し、『Thriller』で音楽と映像の関係を変え、『Bad』でスター像をさらに先鋭化させた。だからこそ彼は、今も単なる懐かしのアーティストではなく、現代のポップ表現を考えるうえで避けて通れない存在であり続けている。

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