【映画レビュー『ラスト・ブレス』】酸素残り10分、孤独な深海で繰り広げられる人間の尊厳を懸けた闘い

『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited REVIEWS
『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited

映画『ラスト・ブレス』をレビュー。


9月26日(金)日本公開の『ラスト・ブレス』は、深海という極限環境で働く飽和潜水士たちの実話を劇映画化した骨太な作品である。ウディ・ハレルソンシム・リウフィン・コールという実力派俳優陣が、命を懸けた救出劇を緊迫感溢れる演技で描き出す。

『ラスト・ブレス』あらすじ

スコットランド沖の北海で繰り広げられる本作の舞台は、ガス・パイプライン補修という危険極まりない海底作業の現場である。潜水支援船タロス号に乗り込んだのは、ベテランのダンカン(ウディ・ハレルソン)、職人気質のデイヴ(シム・リウ)、そして経験の浅いクリス(フィン・コール)という3人の飽和潜水士たち。

彼らが水深91メートルの海底で作業に従事している最中、運命を変える悲劇が襲いかかる。タロス号のコンピュータ・システムに致命的な異常が発生し、制御を失った船体が嵐の海に翻弄されることとなったのだ。その結果、命綱を失ったクリスが暗黒の深海へと放り出されてしまう。

『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited

『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited

残された酸素はわずか10分。海底の潜水ベルに取り残されたダンカンとデイヴ、そして船上の乗組員たちは、この絶望的な状況下でクリスの命を救うべく奔走する。果たして彼らは、容赦なく刻まれ続ける時間との壮絶な闘いに勝利することができるのか——。

実話が生む圧倒的な迫真性

本作は2019年のドキュメンタリー映画『最後の一息』(原題は本作と同じく『Last Breath』)で描かれた実話を劇映画化した作品である。”飽和潜水士”という、身体を深海環境に適応させて作業に従事する、世界で最も危険とされる職業の一つに就く人々にスポットを当て、ある重大事故とその後の決死の救出劇を映像化している。

『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited

『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited

この命懸けの救出作戦が実際に起こった出来事だという事実は、観る者に強烈な衝撃を与える。フィクションではない現実の重みが、スクリーン上で展開されるスリリングな展開に格別な緊張感をもたらしているのだ。実話であるという前提知識を持って臨むことで、本作の持つ迫真性はより一層際立って感じられるはずである。

徹底したリアリティ追求が生む臨場感

実話を基にしているからこそ、本作は徹底してリアリティを追求した作りとなっている。深海という絶対的孤独の中で味わう恐怖、突如として仲間との連絡が途絶えた時の不安と焦燥感、そして目前に迫る死の現実を前にした際に何が正しい判断かと葛藤する心境——これらの感情が観客に生々しく伝わってくる。本作は紛れもなく真摯な「職業映画」と言えるだろう。

『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited

『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited

特筆すべきは、支援船内での緊迫した指揮系統のやり取りから、美術面での細部へのこだわり、そして何より音すら届かない深海の圧迫的な静寂まで、あらゆる要素が極めて写実的に描かれている点である。観客は93分を通じて、まるで現場にいるかのような圧倒的な臨場感に包まれ続けることになる。

名優陣が織りなす重厚な人間ドラマ

『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited

『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited

この重厚な物語の中核を担うのが、名優ウディ・ハレルソンによるダンカン役である。肉体的な限界を感じながらも職人としての矜持を失わず、深い哀愁を湛えた表情で仲間の安否を案じる姿は、ハレルソンの卓越した演技力と圧倒的な存在感によって見事に体現されている。彼の演技は、職業映画としての淡々とした語り口の中に、人間ドラマとしての深い感情の起伏を巧みに織り込んでいる。

『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited

『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited

一方、冷静沈着に任務を遂行するベテラン潜水士デイヴ役には、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』『バービー』で注目を集めたシム・リウが配され、その抑制の利いた演技が作品に安定感をもたらしている。また、深海で孤立無援となりながらも、どこか悟りを開いたような静謐な表情を見せるクリス役のフィン・コール(『ドリームランド』『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』)も印象深い。この3人の俳優陣が持つそれぞれの魅力とスター性が、本作に独特の光彩と緊張感を与えている。


『ラスト・ブレス』は、実話という重みを背負いながら、スリラー映画としての完成度も高い水準で実現した秀作である。9月26日(金)の日本公開を機に、多くの観客がこの圧倒的な体験を劇場で味わうことを強く推奨したい。深海という未知の世界で繰り広げられる人間の尊厳を懸けた闘いは、きっと観る者の心に深い感動と畏敬の念を刻み込むことだろう。

作品情報

映画『ラスト・ブレス』
原題:Last Breath
日本公開:9月26日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
監督:アレックス・パーキンソン
出演:ウディ・ハレルソン、シム・リウ、フィン・コール、クリフ・カーティス
原作:ドキュメンタリー『ラスト・ブレス』(メットフィルム)
脚本:ミッチェル・ラフォーチュン、アレックス・パーキンソン&デヴィッド・ブルックス
2025年|米・英|英語|93分|カラー|シネマスコープ|5.1ch|G|字幕翻訳:大西公子
©LB 2023 Limited
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ

cula をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む