映画『近畿地方のある場所について』(2025)を紹介&解説。
映画『近畿地方のある場所について』概要
映画『近畿地方のある場所について』は、背筋の同名ホラー小説を白石晃士監督(『ノロイ』『カルト』)が実写化したモキュメンタリー・ホラー。オカルト雑誌の編集者が失踪し、同僚とオカルトライターが、幼女失踪事件、中学生の集団ヒステリー、心霊スポットでの配信騒動などを調べるうちに、すべてが近畿地方の“ある場所”へつながっていく。主演は菅野美穂と赤楚衛二。フェイクドキュメンタリーと劇映画を融合し、多様な映像媒体を横断しながら都市伝説の核心へ迫る。
作品情報
| 日本版タイトル | 『近畿地方のある場所について』 |
|---|---|
| 英題 | KINKI/About a Place in the Kinki Region |
| 製作年 | 2025年 |
| 日本公開日 | 2025年8月8日 |
| ジャンル | ホラー/ミステリー/モキュメンタリー |
| 製作国 | 日本 |
| 原作 | 背筋『近畿地方のある場所について』(小説) |
| 上映時間 | 103分 |
| 映倫区分 | G |
| 監督 | 白石晃士 |
|---|---|
| 脚本 | 大石哲也/白石晃士 |
| 脚本協力 | 背筋 |
| 製作統括 | 佐藤貴博 |
| エグゼクティブプロデューサー | 飯沼伸之 |
| 企画・プロデューサー | 櫛山慶 |
| プロデューサー | 伊藤裕史 |
| 撮影 | 高木風太 |
| 美術 | 安宅紀史/田中直純 |
| 編集 | 堀善介 |
| 音楽 | ゲイリー芦屋/重盛康平 |
| 主題歌 | 椎名林檎「白日のもと」 |
| 出演 | 菅野美穂/赤楚衛二 |
| 制作プロダクション | 日テレ アックスオン |
| 企画・製作幹事 | 日本テレビ放送網 |
| 配給 | ワーナー・ブラザース |
あらすじ
オカルト雑誌の編集者が、校了を前に突然姿を消した。失踪直前まで彼が調べていたのは、幼女失踪事件、中学生の集団ヒステリー、山中で聞こえた声、団地に伝わる遊び、心霊スポットでの動画配信騒動など、年代も形式も異なる未解決事件や怪現象だった。同僚の編集部員・小沢悠生は、行方不明になった編集者の友人であるオカルトライター・瀬野千紘とともに資料をたどる。断片をつなぎ合わせた2人は、すべての謎が近畿地方の“ある場所”を指していることに気づき、決して見つけてはならない場所へ引き寄せられていく。
主な登場人物(キャスト)
瀬野千紘(菅野美穂):行方不明になった編集者と親交のあったオカルトライター。友人を見つけるために小沢と調査を始め、膨大な資料の中から怪異の共通点を探る。
小沢悠生(赤楚衛二):失踪した編集者の同僚。校了を進めながら友人の行方を追い、千紘とともに未解決事件や怪現象の資料を読み解いていく。真相を求める好奇心と、踏み込んではならないという恐怖の間で揺れる。
作品の魅力解説
本作が捉えるのは、日本ホラーの真骨頂ともいえる身近な都市伝説の怖さである。行方不明、学校の集団ヒステリー、団地の遊び、心霊スポットからの生配信など、誰かから聞いたことがありそうな題材を積み重ね、「これは別の地域でも起きているのではないか」と想像させる。完全な異世界ではなく、日常のすぐ外側にあるかもしれない場所へ恐怖を置くことで、王道的なJホラーのゾクゾクする感触を取り戻している。
アーカイブ映像、昔のテレビ番組、VHS、インターネット掲示板、Vlog、動画配信、スマートフォンの手持ち映像と、時代も質感も異なるメディアを横断する構成も効果的だ。原作は記事や書き込み、録音記録などを集積した小説であり、映画版はその読書体験を映像へ変換するため、フェイクドキュメンタリーと劇映画を融合した。資料映像の一つひとつが短い怪談として成立しながら、画面の細部や反復される言葉が後の手がかりとなる。
点在していた事件が次第に一本の線へ結びつく過程には、ミステリーとしての爽快感がある。その一方で、すべてを明快な説明に回収せず、観客が鑑賞後に資料を思い返し、関係を考えられる余白も残した。手がかりがつながる満足と、それでも消えない不明瞭さを同時に保つ構成は、真相が確定しないまま語り継がれる都市伝説というジャンルの本質に合っている。
インディー映画的な実験性を持つ映像群と、メジャー作品としての親しみやすさを橋渡しするのが、菅野美穂と赤楚衛二である。2人は、情報を追いたい職業的好奇心と、危険を察知して引き返したい本能のせめぎ合いを、過度に芝居がかった調子を避けて表現する。白石監督がフェイクドキュメンタリー部分でもエンターテインメント性を重視したことで、強い恐怖の中にも観客を完全には突き放さない“抜け感”があり、ホラーファン以外にも入りやすい作品となった。
音響は低い振動音や民族楽器を思わせる音色を用い、不安を身体的に増幅させる。ただし、ディジュリドゥを思わせる独特の響きが強く耳に残り、日本の特定地域をめぐる物語から意識をそらす瞬間もある。土地の恐怖と、別の文化圏を強く連想させる音色がぶつかるためであり、音楽好きほど気になりやすい選択だろう。作品全体を損なうほどではないが、音響面の大胆な実験が長所にも違和感にもなっている。
前半の資料映像や謎解きは高く評価される一方、終盤の視覚化や大きな方向転換は好みが分かれやすい。曖昧な怪談のまま終えることを期待すると過剰に感じる可能性があるが、モキュメンタリーの実験性と大規模なホラーエンターテインメントを同居させた意欲作として見ると、その大胆さが魅力となる。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
