7月4日(金)より日本公開となった『この夏の星を見る』は、コロナ禍で青春を奪われた若者たちの物語だ。茨城、東京、長崎の高校生・中学生たちが、オンライン上で繋がり「スターキャッチコンテスト」を開催する本作は、パンデミックという時代の傷跡を描きながらも、その中で生まれた新たな希望に光を当てる。失われたものばかりに目を向けがちなあの時代を、別の角度から見つめ直すきっかけを与えてくれる一作である。
『この夏の星を見る』あらすじ
2020 年、コロナ禍で青春期を奪われた高校生たち。茨城の亜紗や凛久は、失われた夏を取り戻すため〈スターキャッチコンテスト〉開催を決意する。東京では孤独な中学生・真宙が、同級生の天音に巻き込まれその大会に関わることに。長崎・五島では実家の観光業に苦悩する円華が、新たな出会いを通じて空を見上げる。手作り望遠鏡で星を探す全国の学生たちが、オンライン上で画面越しに繋がり、夜空に交差した彼らの思いは、奇跡の光景をキャッチする――。

『この夏の星を見る』©2025「この夏の星を見る」製作委員会
パンデミックが奪ったもの、残したもの
コロナ禍、パンデミックという言葉を聞けば、誰しもがマイナスのイメージを抱くのは当然だろう。「奪われたもの」の記憶ばかりが蘇ってしまう人も多いはずだ。数多くの仕事が休業を余儀なくされ、イベントは軒並み中止や延期に追い込まれた。実施できた活動にも厳しい制限が課され、その記憶は今でも鮮明に思い出せるほど最近の出来事である。街からは人影が消え、社会全体が停滞したかのように見えた。

『この夏の星を見る』©2025「この夏の星を見る」製作委員会
だが、果たしてあの時代に「すべてが止まり」「すべてが奪われた」のだろうか。2019年新卒である筆者の立場で言えば、学生生活を終え、社会人1年目の後半という時期にコロナ禍が本格化したため、ギリギリ「青春を奪われた世代」ではない。当事者からすれば「お前に何がわかる」と言われても仕方がないかもしれない。しかし、卒業旅行に行けなかった一学年下の友人の嘆きに心底同情した記憶は今でも鮮明だし、コロナウイルスの大流行によって楽しみにしていた行事や外出の機会を失った人々の辛さは、痛いほど理解できる。
喪失の中で生まれた新たな絆
落ち込み、やるせない思いを抱き、「なぜ自分たちの世代が」と嘆く気持ちに深く同情する。二度と戻らない学生時代の貴重な時間を失った無念さは計り知れない。パンデミックがもたらした機会の喪失に加え、リアルライフにおける人間関係の希薄化、そして人が集まる場所や往来に関わる人々への冷淡な扱いや職業差別といった負の側面は、確かに苦しく忌まわしいものだった。
本作はそうした苦しみに寄り添い、共感を示しながらも、穏やかで温かな眼差しで「本当に“すべてが奪われた”のだろうか」と問いかける。あの時期に生まれた新たな経験、パンデミックの最中でも育まれた人間関係、そして創出されたイベントの数々。コロナ禍だからこそ結束を深めた人々がいて、制約の中で工夫を重ねることを学んだ人々がいて、オンライン文化の急速な発展によって従来なら出会えなかった人々と新しい絆を築けた人々もいるのではないだろうか。

『この夏の星を見る』©2025「この夏の星を見る」製作委員会
筆者自身、本作を観て改めて思い返したことがある。今こうして映画やカルチャーについて能動的に発信するようになったきっかけは、コロナ禍におけるClubhouse流行で映画仲間たちと出会えたことだった。あれほどまでのClubhouse人気は、パンデミックという特殊な状況がなければ生まれ得なかっただろう。振り返ってみれば、あの出会いが人生を前向きな方向へと導いてくれたのである。
劇中で描かれる「オンラインスターキャッチコンテスト」も同様に、パンデミックという状況があってこそ生まれた企画だ。そう考えると、パンデミックは確かに多くの機会を奪ったが、社会を完全に無へと帰したわけではない。むしろ、何か新しいものを私たちに与えてもくれたのだ。
最悪の状況から生まれた希望
もちろん、だからといって「あの時期に戻りたい」と願う人は少ないだろう。しかし、負の記憶として封印してしまう前に、あの「最悪の状況」だからこそ生まれた新たなすばらしい思い出はないだろうか。そんな振り返りをしてみることにも、きっと意味があるのではないか。

『この夏の星を見る』©2025「この夏の星を見る」製作委員会
近くて遠く、裏側の見えない存在である月を他者に見立てて展開する青春物語や、中高生特有の瑞々しい青春模様を眺められるのも確かに本作の大きな魅力だが、真価はやはり「パンデミックとの対峙」の描き方だ。「奪われた」人々があの時代に「生み出した」ものを思い起こさせてくれる点にこそ、この作品の大きな価値がある。そうした独自の視点を持つ一作として、本作は記憶に残る作品となった。
7月4日(金)より日本公開となった『この夏の星を見る』は、コロナ禍を単なる「失われた時間」として封印するのではなく、その中で確かに生まれた新しい絆や体験の価値を静かに問いかける作品だった。パンデミックという最悪の状況下でも、人は希望を見出し、創造することができる。そんな人間の可能性を、夜空の星々と共に優しく照らし出してくれる映画である。
作品情報
原作:辻村深月「この夏の星を見る」(角川文庫/KADOKAWA刊)
出演:桜田ひより、水沢林太郎、黒川想矢、中野有紗、早瀬憩、星乃あんな、河村花、和田庵、萩原護、秋谷郁甫、増井湖々、安達木乃、蒼井旬、中原果南、工藤遥、小林涼子、上川周作、朝倉あき、堀田茜、近藤芳正、岡部たかし
監督:山元環
脚本:森野マッシュ
音楽:haruka nakamura
企画:FLARE CREATORS
総合プロデューサー:松井俊之(FLARE CREATORS)
プロデューサー:島田薫(東映)
配給:東映
©2025「この夏の星を見る」製作委員会
