Netflix配信予定作『ミス・カーボン(原題)』(Miss Carbón)で主演するラックス・パスカルが、役との向き合い方や自身の歩みを語った。
ジュリアード卒の新鋭-主演作で描く“生きること”の重み
ラックス・パスカルは、ジュリアード音楽院で演技を学び、『ナルコス』やチリ映画『The Prince(英題)』などに出演してきた俳優だ。ハリウッドで多忙を極める兄ペドロ・パスカルを持つことで注目されがちだが、彼女自身も確かな演技力と存在感でキャリアを築きつつある。
新作『ミス・カーボン』では、2008年のアルゼンチンを舞台に、炭鉱の町で初の女性労働者となった実在の人物カリタ・ロドリゲスを演じる。劇場公開されたスペインに続き、Netflixでの配信が控えるこの作品は、トランス女性の物語でありながら、広く“働く女性”の視点を描いた作品でもある。
「当初は、トランスジェンダーの物語をまた演じることに少し抵抗があった」とパスカルは語る。ジュリアード在学中からさまざまな女性像を演じてきた彼女にとって、役柄を限定されることへの懸念があったという。しかし、実在のカリタと出会ったことで視点が変わった。「彼女には、社会に裏切られてきたような失望の空気があった。それを正面から見つめることが、私にとって必要だった」。
過去を生き抜いた“生存者”としてのまなざし
ラックス・パスカルは、米カリフォルニア州オレンジ郡で育った。チリからの移民である父ホセは、ピノチェト政権下での弾圧を逃れ、アメリカに渡った人物である。母ヴェロニカは、パスカルが7歳のときに亡くなっており、その死は彼女にとって大きな喪失体験となった。
「誰もがそれぞれのトラウマを抱えている。私にも私自身のトラウマがあり、それを乗り越えて生き延びてきた」。そう語るパスカルにとって、カリタという役は“生き抜く力”を体現する存在だった。炭鉱という過酷な職場に身を置きながら、女性としての生き方を貫いたカリタの姿は、パスカル自身の人生とも重なった。
兄ペドロ・パスカルとは17歳の年の差があり、彼が演劇を学ぶためにニューヨークへ移ったあとも、年に数回は帰省し、妹と時間を過ごしたという。幼少期のラックスはすでに俳優への道を志しており、デヴィッド・リンチやテレンス・マリックの作品に心を惹かれるなど、感受性豊かな一面を見せていた。のちに兄とともに『ナルコス』に出演したことは、俳優としての自信にもつながった。
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映像が惚れる顔と感性-俳優としての現在地と飛躍の予感
映画『ミス・カーボン』で監督を務めたアグスティーナ・マクリは、キャスティングに迷いはなかったと語る。「彼女の美しさ、才能、そしてスクリーンでの存在感には圧倒された。脚本の細部にまで気を配り、よりリアルで誠実なキャラクター像に仕上げてくれた」。物語は実話に着想を得ているが、監督とラックス・パスカルは“新たなカリタ”を共につくり上げたという。
兄ペドロ・パスカルもまた、彼女の演技力を絶賛する。「カメラが彼女の顔に恋をしている。クローズアップで見ると、その才能と技術にただただ驚かされる」。その印象は、若き日のミシェル・ファイファーを初めて見たときに重なると語る。
『ミス・カーボン』を経て、ラックス・パスカルは初の英語主演作となるロマンティック・コメディ『Love & Chaos(原題)』の撮影をカナダ・モントリオールで進行中だ。監督のドリュー・デニーは、「彼女はとてもよく人の話を聞き、ユーモアのセンスも抜群」と評している。
将来的には、アクションやファンタジーへの挑戦も視野に入れており、マーベルの「X-MEN」シリーズでジーン・グレイ役を演じることが夢のひとつだという。「肉体的にも精神的にも彼女に深く共感する。彼女がフェニックスへと変わっていく過程が、世界に汚されるという感覚と重なる」。ホラーや『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズへの出演にも意欲を見せ、「エルフとして戦う役をやってみたい」と笑顔で語った。
隠さずに生きること-アイデンティティと兄からの支え
俳優としてのキャリアを積みながら、ラックス・パスカルはトランスジェンダーであることを公にしてきた。業界で活動するなかで、アイデンティティを明かすべきかどうかという葛藤を抱えた時期もあったという。「自分のことを語らないほうが、より敬意をもって接してもらえるのではないか、と感じる瞬間がある」。しかしその問いに対し、彼女は“隠さずにいること”を選んだ。
その決断を後押ししたのが、兄ペドロの存在だった。「自分自身でいることこそが、世界が動き出すきっかけになる」と兄は語り、妹の背中を押し続けてきた。彼はSNSでの発信や「Protect the Dolls」と書かれたTシャツを通して、トランスジェンダーの権利擁護を示し続けている。また、エミー賞や映画のプレミアといった公の場にラックスと揃って登場し、兄妹の強い絆を見せてきた。
「彼はとてもお茶目で、同時に非常に知的でもある。私にとって本当に寛大な存在だし、彼自身も私から多くの刺激を受けていると思う」。そう語るラックスにとって、兄との関係は“家族”という枠を超えた創造的な対話でもある。将来的にはペドロと再び同じ作品で共演したいという夢も語っており、『ミス・カーボン』での演技を「そのリハーサルのようなもの」と兄が表現するほどの深い絆を持つふたりの今後の活躍から目が離せない。

