6月13日(金)より日本公開される『おばあちゃんと僕の約束』は、一見すると「よくある家族映画」に思えるかもしれない。だが、この作品が持つ静かな力強さと深い洞察は、観る者の心に長く残り続けるだろう。打算的な動機から始まる祖母と孫の物語が、やがて人生の本質に迫る感動的なドラマへと昇華していく過程を、丁寧な演出で描き切った傑作である。
原題と英題が示す物語の二面性

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本作の原題(Lahn Mah)は「おばあちゃんの孫」といった意味のシンプルなもの。ところが英語版タイトル「How to Make Millions Before Grandma Dies」(おばあちゃんが死ぬまでにどう大金を稼ぐか)には面食らった。一体どんな映画なのかと首をかしげたくなるが、本編を観れば両方のタイトルが腑に落ちる。本作は「おばあちゃんの世話をすることで遺産を優先して相続できるかもしれない」という下心から祖母の家に通い始めたなんとも罰当たりな孫エムが、祖母メンジュとの日々を重ねる中で互いに変化していく、古典的でありながら胸に迫るヒューマンドラマなのだ。
物語の紡ぎ方は実に丁寧だ。親族一人ひとりの美点と欠点、そして心境の変遷を、自然な会話と細部まで練り込まれた生活感あふれるセット、そして美しい映像に包んで描写している。
78歳の新人が放つ、素朴かつ圧倒的な存在感

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キャスト陣の演技はいずれも心に残るものだが、なかでも「おばあちゃん」ことメンジュを演じたウサー・セームカムの存在感は圧倒的だ。78歳にして映画初出演という経歴を持つ彼女だが、むしろその演技経験のなさが功を奏しているのかもしれない。彼女の飾り気のない素朴な佇まいと偽りのない感情表現が作品に確かなリアリズムをもたらし、観る者の心を揺さぶる力を一層強めているのだ。
「時間を共有すること」が描く愛情の本質

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そして本作は「時間の過ごし方」について深いメッセージを投げかけてくる。高齢者のように残された時間が限られた人々はもちろん、すべての人間にとって、真の愛情とは何によって測られるのだろうか。お金だろうか。高級車やブランド品、豪華な食事だろうか。たしかにプレゼントは嬉しいものだし、そこに愛情を感じることも少なくない。だが金銭や物品を贈ることは一瞬で済む行為だ。富裕層が「はした金」で贈る超高級車と、貧困層が必死に貯めたお金で買った普通車、どちらにより価値を見出すかも、人それぞれだろう。愛情の深さをそこに求めるのは、なかなか困難なものだ。

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では普遍的な愛情表現とは何か。ここで重要な概念となるのが、本作でも重要な要素として描かれる「時間」なのだ。時間は万人に等しい速度で流れるものだから、一時間、一日、一年という時の単位で人ができる行動の量に、そう大きな差はない。つまり「限りある時間をあえて割いて誰かと共に過ごすこと」こそが、最も公平な基準で測ることのできる愛情・敬意の証なのだ。
本作はそんな「時間を共有すること」の価値を鮮烈に描き出している。時間を重ねることでエムとメンジュの関係は徐々に変化していく。たとえ最初の動機が打算的なものであったとしても、そこから積み重ねた「時間」は何物にも代え難い真実なのだ。誰かが口先で「心配している・気にしている」と何度繰り返そうとも、ほかの誰かが黙ってそばに寄り添い続けた時間の重みには到底及ばない。
そして時間は不可逆の一方通行である。高齢の祖母と過ごせる時間が限られていることを嘆いても、これまで「祖母のために使わなかった時間」は二度と戻ってこない。その冷酷な現実と深い後悔、それでもなお残された時間をどう過ごすべきか──この物語は観る者に「愛する人との時間をもっと大切にしよう」という想いを強く抱かせる。雨音や鳥のさえずり、メンジュがゆっくりと歩む足音といった細やかな音響効果も物語を支える重要な要素として機能し、時の流れと日常の積み重ねを巧みに演出した。
『おばあちゃんと僕の約束』は、私たちが日々見過ごしがちな「時間の価値」を改めて教えてくれる作品だ。6月13日(金)の日本公開を機に、多くの人にこの物語と出会ってほしい。きっと劇場を出る頃には、大切な人との時間をもう一度見つめ直したくなるはずだ。それこそが、この映画が私たちに贈る最も貴重な贈り物なのである。
作品情報

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<STORY>
大学を中退してゲーム実況者を目指す青年エム。従妹のムイが祖父から豪邸を相続したと聞き、自分も楽をして暮らしたいと画策。エムにはお粥を売って生計を立てている一人暮らしの祖母・メンジュがおり、ステージ4のガンに侵されていることが判明。不謹慎にもエムはメンジュに近づき、彼女から信頼され相続を得ようとするのだが、その慎ましく懸命に生きる姿や考えに触れていき……。
タイトル:『おばあちゃんと僕の約束』
原題:Lahn Mah
監督・脚本:パット・ブンニティパット
脚本:トッサポン・ティップティンナコーン
出演:プッティポン・アッサラッタナクン(ビルキン)、ウサー・セームカム、サンヤー・クナーコン、サリンラット・トーマス、ポンサトーン・ジョンウィラート、トンタワン・タンティウェーチャクン
日本公開:2025年6月13日
製作国:タイ|上映時間:125分|カラー|5.1ch|1.85:1
日本語字幕:小河恵理
後援:タイ国政府観光庁
配給:アンプラグド
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