『ザリガニの鳴くところ』解説|どんな映画?あらすじ・キャスト・魅力・レビューまとめ

映画『ザリガニの鳴くところ』(2022)を紹介&解説。


映画『ザリガニの鳴くところ』概要

映画『ザリガニの鳴くところ』は、動物行動学者としても活動してきた作家ディーリア・オーエンズの世界的ベストセラー小説を映画化したミステリードラマ。ノースカロライナ州の湿地で孤独に育った少女カイアが、街の青年を殺害した容疑で裁判にかけられ、その半生と事件の真相が明かされていく。

監督はオリヴィア・ニューマン(『ファースト・マッチ』)。リース・ウィザースプーンがプロデューサーを務め、英国ドラマ「ふつうの人々(ノーマル・ピープル)」で注目されたデイジー・エドガー=ジョーンズが主演した。湿地の自然や生物を捉えた映像、カイアが描く精緻な絵、恋愛ドラマ、殺人事件をめぐる法廷劇を組み合わせた作品となっている。

作品情報

日本版タイトル 『ザリガニの鳴くところ』
原題 Where the Crawdads Sing
製作年 2022年
本国公開日 2022年7月15日
日本公開日 2022年11月18日
ジャンル ミステリー/ドラマ/恋愛
製作国 アメリカ
原作 ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』(小説)
上映時間 125分
監督 オリヴィア・ニューマン
脚本 ルーシー・アリバー
製作 リース・ウィザースプーン/ローレン・ノイスタッター
製作総指揮 ベッツィ・ダンベリー/ロンダ・トレフソン/ジョン・ウー
撮影 ポリー・モーガン
編集 アラン・エドワード・ベル
美術 スー・チャン
衣装 ミレン・ゴードン=クロージャー
作曲 マイケル・ダナ
オリジナル・ソング テイラー・スウィフト「Carolina」
出演 デイジー・エドガー=ジョーンズ/テイラー・ジョン・スミス/ハリス・ディキンソン/マイケル・ハイアット/スターリング・メイサー・Jr./デヴィッド・ストラザーン
製作会社 3000ピクチャーズ/ハロー・サンシャイン/コロンビア・ピクチャーズ
配給 ソニー・ピクチャーズ

あらすじ

1969年、ノースカロライナ州の小さな町バークリー・コーヴ。森に囲まれた湿地で、街の人気者だった青年チェイス・アンドリュースの遺体が発見される。転落事故のようにも見えたが、捜査が進むにつれて殺人の可能性が浮上。街の人々が真っ先に疑ったのは、湿地でひとり暮らしを続け、“湿地の娘”と噂されてきたカイアだった。

幼い頃、家族が次々と家を去り、学校にも通えないまま自然から生きる術を学んだカイア。彼女は心優しい青年テイトから読み書きを教わり、やがて街の裕福な青年チェイスとも関係を持つようになる。殺人容疑で裁判にかけられたカイアの半生をたどる中で、彼女とふたりの青年の関係、事件の動機、湿地に隠された秘密が少しずつ浮かび上がっていく。

主な登場人物(キャスト)

カイア・クラーク(デイジー・エドガー=ジョーンズ):ノースカロライナ州の湿地で、幼い頃からほとんどひとりで生きてきた女性。街では“湿地の娘”と呼ばれ、偏見と好奇の目を向けられている。自然を観察し、生物の精緻な絵を描く優れた才能を持つが、チェイス殺害事件の容疑者として逮捕される。

テイト・ウォーカー(テイラー・ジョン・スミス):幼い頃からカイアを知る心優しい青年。学校に通えなかった彼女に読み書きを教え、その才能を理解する。カイアが人間への信頼や愛情を知るきっかけとなる存在。

チェイス・アンドリュース(ハリス・ディキンソン):裕福な家庭に育った、街の人気者。カイアに興味を持って積極的に近づき、やがて親密な関係となる。湿地の監視塔から転落した遺体で発見され、その死が物語の中心となる。

トム・ミルトン(デヴィッド・ストラザーン):殺人容疑をかけられたカイアの弁護を引き受ける弁護士。街に根づいた偏見と、状況証拠に頼った検察側の主張に対し、冷静な弁論でカイアを守ろうとする。

ジャンピン(スターリング・メイサー・Jr.):湿地の近くで店を営む男性。幼いカイアが採った貝を買い取り、生活を支える。カイアを差別せず、家族のように見守り続ける数少ない理解者。

メイベル(マイケル・ハイアット):ジャンピンの妻。孤独なカイアに衣服などを与え、母親のような愛情を注ぐ。夫とともに、カイアが心を許せる大切な存在となっていく。

作品の魅力解説

湿地の自然と美麗な絵画が呼応する映像世界

本作で一番印象に残るのは、一般的な法廷ミステリーとは趣の異なる大自然の映像と美麗な絵画だろう。ノースカロライナ州を舞台としているが、撮影は主にルイジアナ州の湿地帯で行われた。木々の間から差し込む光、水面に映る空、苔に覆われた木々、鳥や昆虫の動きを、撮影監督ポリー・モーガンが絵画のような映像として切り取っている。

さらに、カイアが観察した生物を描く精緻なイラストが物語の重要な要素となっており、湿地の実景と彼女の絵が呼応する。画に魅せられるタイプの映画ファンにとっては、“湿地の自然×絵画×法廷ミステリー”というコンセプトそのものが最大の見どころといえる作品だ。

謎解きよりもカイアの半生を重視したミステリー

チェイスの死が事故なのか、殺人なのかをめぐる物語ではあるものの、複数の容疑者を並べて犯人を推理させるタイプのミステリーではない。裁判と回想を往復しながら、家族に置き去りにされたカイアが自然の中で生き延び、人を愛し、裏切られ、それでも自分の人生を築いていく過程に重点が置かれている。

そのため、謎解き映画としての緊迫感や意外性を期待すると、ドキドキする時間は短く感じられるかもしれない。一方で、生物の生態や自然界の法則を人間の愛情、支配、暴力と結びつけていく物語の運び方には、本作ならではの一貫した視点がある。

孤独な少女の変化を表現するデイジー・エドガー=ジョーンズ

デイジー・エドガー=ジョーンズは、人との接触を避ける野性的な少女から、知識と自信を身につけた大人の女性へ変化していくカイアを繊細に演じている。警戒するような視線や小さな声、縮こまった姿勢から、少しずつ他人と目を合わせられるようになるまでの変化が細かい。

衣装やヘアメイクもその成長描写を支えており、“湿地の娘”として噂され、孤独に生きてきたカイアが、人との出会いによって洗練されていく過程を視覚的に伝える。単純な外見上の変身ではなく、彼女の知性や才能が周囲にも認識されていく変化として描かれている点が印象的だ。

対照的なふたりの青年が示す愛情と暴力

テイラー・ジョン・スミス演じるテイトの穏やかな優しさに対し、ハリス・ディキンソン演じるチェイスは、魅力的な振る舞いの裏側に支配欲や衝動性をのぞかせる。2人の対照的な男性を通じて、カイアが求める信頼と、彼女の尊厳を脅かす関係の違いが浮かび上がる。

とりわけディキンソンの演技は、親しみやすい表情から危険な暴力性へと切り替わる瞬間が生々しい。衝動的で支配的な男性がもたらす嫌悪感と恐怖を、カイアの視点からおぞましいほど鮮明に伝えている。

テイラー・スウィフトによる「キャロライナ」

原作を愛読していたテイラー・スウィフトは、本作のためにオリジナル・ソング「Carolina」を書き下ろした。静かで不穏なフォーク調のサウンド、ささやくような歌声、自然と孤独を思わせる歌詞が、湿地に漂う美しさと危険をそのまま音楽にしたようなあ曲となっている。

曲調だけでなく歌詞も物語と深く結びついており、鑑賞後に聴き直すことで、カイアの行動や心情を別の角度から考えられる。ただし、歌詞には物語の核心や結末を連想させる表現も含まれるため、先入観なく映画を楽しみたい場合は、鑑賞後にじっくり聴くのがおすすめだ。

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