映画『引き裂かれた心』(2022)を紹介&解説。
映画『引き裂かれた心』概要
映画『引き裂かれた心』は、ブラムハウス製作、ブレア・グラント監督による、ナッシュビルのカントリー音楽界を舞台に、名声への執着を描くサイコロジカルホラー。成功を夢見る女性デュオが、伝説的歌手の邸宅を訪れたことから、憧れの裏に潜む狂気へとのみ込まれていく。主演はケイティ・セイガル、アビー・クイン、アレクシス・レミア。共演にジョシュア・レナード。
作品情報
日本版タイトル:『引き裂かれた心』
原題:Torn Hearts
製作年:2022年
日本公開日:劇場未公開
ジャンル:ホラー/スリラー
製作国:アメリカ
原作:無
上映時間:97分
監督:ブレア・グラント
脚本:レイチェル・コーラー・クロフト
製作:ペイジ・ペンバートン/ポール・B・ウッド/アダン・オロスコ
製作総指揮:ジェイソン・ブラム/ジョン・イエラルディ/ジェレミー・ゴールド/クリス・マッカンバー/ローレン・ダウニー/ジョルダーナ・グアリーノ/クリス・ディッキー
撮影:ヤロン・レヴィ
編集:ハンター・M・ヴィア
作曲:ブリタニー・アレン
出演:ケイティ・セイガル/アビー・クイン/アレクシス・レミア/ジョシュア・レナード/シャイロー・フェルナンデス
製作:ブラムハウス・テレビジョン/エセリアル・ヴィサージュ・エンターテインメント/エセリアル・ヴィサージュ・プロダクションズ
配給:パラマウント・ホーム・エンターテインメント/エピックス
あらすじ
現代のナッシュビル。成功を夢見る女性カントリーデュオは、憧れの伝説的歌手の邸宅へ招かれる。だが歓迎ムードは次第に不穏な空気へ変わり、ふたりは名声に執着する歌手の異常な素顔を知る。逃げ場のない屋敷で、彼女たちは恐怖の一夜に巻き込まれ、命懸けの駆け引きが始まる。
主な登場人物(キャスト)
ハーパー・ダッチ(ケイティ・セイガル):かつて妹と共に人気カントリーデュオとして活躍した伝説的歌手。妹を失って以降は表舞台から姿を消し、人里離れた屋敷で暮らしている。若い女性デュオに興味を示す一方、その内面には危うさと執着を抱えている。
ジョーダン・ワイルダー(アビー・クイン):女性デュオ“トーン・ハーツ”のソングライター。成功への野心が強く、音楽への理想も高い。デュオの未来を切り開こうとする行動力を持つが、相方との関係には複雑な感情も抱えている。
リー・ブラックハウス(アレクシス・レミア):“トーン・ハーツ”でボーカルを担当する若手歌手。華やかな魅力を持つ一方、自分が軽く見られているのではないかという不安も抱える。ジョーダンとは親友でもあり、互いに支え合いながら成功を目指している。
リッチー・ローリー・ジョーンズ(ジョシュア・レナード):リーの恋人でもある音楽マネージャー。トーン・ハーツの成功を後押ししようとするが、ジョーダンとの間には考え方の違いもあり、デュオ内の緊張をさらに高めていく存在でもある。
簡易レビュー・解説
『引き裂かれた心』は、ブラムハウス・テレビジョンとエピックスが手がけた2022年のホラー/スリラーで、舞台はナッシュビルのカントリー音楽界である。公式あらすじでも、成功目前の女性デュオが伝説的歌手ハーパー・ダッチの屋敷を訪れたことから悪夢へ踏み込む物語として紹介されており、“憧れの存在に近づくこと”がそのまま恐怖の入口になる構図が本作の核になっている。
単なるサイコホラーにとどまらず、女性デュオの関係性、スター像への執着、そして音楽業界に潜む競争や搾取の空気を重ねて見せる点が本作の特徴である。カントリー音楽という意外性のある舞台設定や、女性同士の連帯と亀裂、ショービジネスの圧力をにじませる作劇が印象的で、閉ざされた屋敷を舞台にしながら“名声への欲望が人をどう変えていくか”を映し出す一作と言える。
内容(ネタバレ)
ナッシュビルで活動する女性デュオ“Tone Hearts”
物語の舞台は現代のナッシュビル。女性カントリーデュオ“Tone Hearts(引き裂かれた心)”として活動するジョーダン・ワイルダーとリー・ブラックハウスは、ブレイク目前の存在として描かれる。成功のきっかけを求める中、ふたりは人気男性歌手のツアー参加を期待するが、その話は思うように進まない。
憧れの元スター、ハーパー・ダッチの屋敷へ
転機となるのが、伝説的なカントリー歌手ハーパー・ダッチへの接触である。ジョーダンは入手した住所をもとに、リーを連れてハーパーの人里離れた屋敷を訪問。ふたりは、ハーパーに自分たちの曲を聴いてもらい、できれば共演や後押しを得たいと考えている。
歓迎と不穏さが同居する“夢の時間”
屋敷で待っていたハーパーは、表面上はふたりを迎え入れるものの、空気はどこか異様である。ハーパーはかつて妹ホープと姉妹で活躍したが、妹の死後に表舞台から退いた人物である。若いデュオに関心を示し、音楽的な助言や再起の可能性をほのめかす一方で、会話の端々には支配的で不安定な気配がにじみ始める。
ジョーダンとリーの間に潜んでいたズレ
中盤に向かうにつれ、ハーパーはジョーダンとリーの関係に巧みに踏み込み、ふたりの温度差や価値観の違いをあぶり出していく。成功のために前へ出ようとするジョーダンと、より慎重で繊細なリーのズレが次第に表面化し、憧れの相手との対面だったはずの時間は、デュオの絆を試す心理戦へと変わっていく。
“共演の夢”は悪夢へ変わり始める
冒頭から中盤までで明らかになるのは、ハーパーが単なる気難しい元スターではなく、ジョーダンとリーそれぞれの欲望や不安を見抜き、意図的に揺さぶっているらしいことである。屋敷に閉じ込められたような状況の中で、ふたりは“夢をかなえるために何を差し出せるのか”を突きつけられ、物語は名声への憧れが恐怖へ反転する方向へ大きく傾いていく。
リッチーの来訪と、ジョーダンが知る“真実”
リッチーは連絡が取れなくなったリーを心配し、ハーパーの屋敷を訪れる。ハーパーはジョーダンを地下室に閉じ込め、リーとリッチーを引き合わせるが、その裏でジョーダンは地下に隠された異様な部屋を発見する。そこには妹ホープの遺品や身体の一部が保管されており、ジョーダンはホープが自殺したのではなく、ハーパーに殺されたのではないかと確信する。
リーを取り込もうとするハーパー
ハーパーはリーとリッチーに対し、ジョーダンを切り捨てて自分とリーで新たなデュオを組む構想を語る。リーは戸惑いながらも、ジョーダンへの不満や劣等感を刺激され、完全には拒絶できない。ジョーダンは地下室から脱出し、リーにホープの遺体の痕跡を見たことを伝えるが、リーは混乱し、ジョーダンの言葉をすぐには信じられない。ハーパーはその間にリッチーを殺害し、屋敷の扉や窓を封鎖して、ふたりを完全に閉じ込める。
録音セッションと、決定的な亀裂
ハーパーはホープが残した曲を3人で録音しようと持ちかける。ジョーダンとリーはなおも生き延びるために協力しようとするが、録音後、互いへの本音をぶつけ合い、関係は決定的に崩れていく。ジョーダンはリーが見た目だけで評価されていると感じ、リーはジョーダンが自分を支配し、見下していると思っていたことを吐露する。ハーパーはそんなふたりを見ながら、ショットガンを手に取り、ついに暴力へと踏み切る。
ハーパーの告白と、リーの変化
追い詰められたジョーダンとリーは地下室から銃を見つけ出し、ハーパーに立ち向かう。ハーパーは混乱の中で、ホープを自分の手で撃ったことを認める。ホープがソロになろうとしたため、自分だけが置き去りにされることを恐れたのだった。さらにハーパーは、ジョーダンが死ねばリーには“悲劇を乗り越えた歌手”という物語が生まれ、スターになれると吹き込む。名声への欲望と恐怖に揺れるリーは、次第にハーパーの考えにのみ込まれていく。
ジョーダンとリーの最期
ジョーダンはハーパーを撃ち、自衛のために殺害する。しかしハーパーの言葉に影響されたリーは、ジョーダンにも銃を向ける。リーはジョーダンを撃ち、“この事件を乗り越えた被害者”として生き残ろうとするが、致命傷を負ったジョーダンも最後の力でリーを撃ち返す。結局、ハーパーだけでなくジョーダンとリーも命を落とし、名声を求めた者たちは誰ひとり生き残れないまま物語は幕を閉じる。
作品トリビア
“カントリー音楽×ホラー”という珍しい題材
ブレア・グラント監督は、本作で“カントリー音楽×ホラー”という珍しい組み合わせに惹かれたと語っており、「こうした題材の映画は見たことがなかった」とインタビューで明かしている。
劇中曲の多くはオリジナル楽曲
劇中で流れる楽曲は既存曲ではなく、多くが本作のために制作されたオリジナル曲である。脚本家レイチェル・コーラー・クロフトが脚本段階で歌詞まで書いており、それを基に制作陣が短期間で楽曲化した。キャスト陣も実際に自ら歌唱している。
ケイティ・セイガルにとって本格的なホラー出演作
ケイティ・セイガルは歌手としての活動経験はあるものの、本格的なホラー出演は本作が初めてだった。監督は「彼女は本当に威圧感があり、この役にぴったりだった」と振り返っている。
屋敷は2軒の家を組み合わせて撮影
劇中のハーパーの屋敷は1軒の豪邸ではなく、実際にはニューオーリンズにある隣接した2軒の家を組み合わせて撮影されている。外観や玄関周り、キッチンなどを別々の家で撮り分けていたという。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
