映画『キーパー ある兵士の奇跡』(2018)を紹介&解説。
映画『キーパー ある兵士の奇跡』概要
映画『キーパー ある兵士の奇跡』は、第二次世界大戦中にイギリス軍の捕虜となり、戦後はマンチェスター・シティFCの名ゴールキーパーとなったドイツ人兵士バート・トラウトマンの実話を映画化した伝記ドラマ。敵国出身者への激しい反発、イギリス人女性マーガレットとの愛、戦場で負った心の傷、サッカー選手としての成功と家族を襲う悲劇まで、波乱に満ちた人生を描く。主演は『愛を読むひと』のデヴィッド・クロス。マーガレットを『サンシャイン/歌声が響く街』のフレイア・メイヴァーが演じた。
作品情報
| 日本版タイトル | 『キーパー ある兵士の奇跡』 |
|---|---|
| 原題 | The Keeper |
| 製作年 | 2018年 |
| 本国公開日 | 2019年3月14日(ドイツ)/2019年4月5日(イギリス) |
| 日本公開日 | 2020年10月23日 |
| ジャンル | 伝記/ドラマ/スポーツ/戦争 |
| 製作国 | イギリス/ドイツ |
| 原作 | 無(バート・トラウトマンの実話に基づく) |
| 上映時間 | 119分 |
| 監督 | マルクス・H・ローゼンミュラー |
|---|---|
| 脚本 | マルクス・H・ローゼンミュラー/ニコラス・J・スコフィールド |
| 製作 | ロバート・マルチニャック/クリス・カーリング/スティーヴ・ミルン |
| 製作総指揮 | クリスチャン・アイゼンバイス |
| 撮影 | ダニエル・ゴットシャルク |
| 編集 | アレクサンダー・バーナー |
| 作曲 | ゲルト・バウマン |
| 出演 | デヴィッド・クロス/フレイア・メイヴァー/ジョン・ヘンショウ/ハリー・メリング/マイケル・ソーチャ/ゲイリー・ルイス/デヴラ・カーワン/バーバラ・ヤング/ジュリアン・サンズ/デイヴ・ジョーンズ |
| 製作 | リーブリングスフィルム/ゼファー・フィルムズ/ブリティッシュ・フィルム・カンパニー |
| 配給 | 松竹(日本) |
あらすじ
第二次世界大戦末期の1945年。ドイツ軍兵士バート・トラウトマンはイギリス軍の捕虜となり、ランカシャーの収容所へ送られる。そこでサッカーをしていたバートの並外れたゴールキーパーとしての才能を、地元クラブを率いるジャック・フライアーが発見。降格の危機にあるチームを救うため、バートを選手としてスカウトする。
敵国の兵士を迎えることに、選手や住民は強く反発する。ジャックの娘マーガレットも当初はバートを嫌悪するが、彼の人柄とプレーに触れるうちに心を開き、やがてふたりは愛し合うようになる。その後、名門マンチェスター・シティFCへ入団したバートは、元ドイツ兵という経歴から激しい抗議と誹謗中傷にさらされる。それでもマーガレットに支えられながらゴールを守り続け、少しずつ人々の信頼を勝ち取っていく。
主な登場人物(キャスト)
バート・トラウトマン(デヴィッド・クロス):イギリス軍の捕虜となった元ドイツ空軍の降下猟兵。収容所でゴールキーパーとしての才能を見いだされ、地元クラブを経てマンチェスター・シティFCへ入団する。敵国出身者への憎悪と戦いながら、プレーを通して人々の信頼を獲得していく。
マーガレット・フライアー(フレイア・メイヴァー):ジャックの娘。当初はドイツ兵であるバートを警戒し、父が彼をチームに加入させたことにも反発する。しかし、バートの内面を知る中で恋に落ち、結婚後は激しい誹謗中傷にも屈せず夫を支え続ける。
ジャック・フライアー(ジョン・ヘンショウ):地元のサッカークラブ、セント・ヘレンズ・タウンを率いる監督。捕虜収容所でバートの才能を見抜き、周囲の反対を押し切ってゴールキーパーに起用する。大胆で人情味があり、物語に温かなユーモアをもたらす存在でもある。
スマイス軍曹(ハリー・メリング):捕虜収容所を管理するイギリス軍の軍曹。ドイツ人捕虜たちに厳しく接しながらも、ジャックの働きかけを受けてバートが地元チームでプレーすることを認める。
ジョック・トムソン(ゲイリー・ルイス):マンチェスター・シティFCの監督。バートの実力を評価してクラブへ迎え入れ、世間から激しい抗議を受けても選手として守ろうとする。
ラビ・アルトマン(ボッツ・ブーゼ):ナチスの迫害から逃れたユダヤ教のラビ。バートの入団に対する抗議が広がる中、国籍や出自ではなく、一人ひとりの人間を個別に判断するよう市民へ呼びかける。
作品の魅力解説
「事実は小説よりも奇なり」を体現する大波乱の人生
捕虜収容所から地元クラブへ加わり、敵国の名門チームで正ゴールキーパーとなり、ついには国民的英雄になる。本作が描くバート・トラウトマンの人生は、創作であれば「出来事を詰め込みすぎだ」と感じられかねないほど波乱に富んでいる。
戦争、恋愛、スポーツ、差別、罪悪感、家族の悲劇と、扱う要素が非常に多いため、物語の展開にはやや散漫さや慌ただしさも残る。しかし、その整理しきれなさ自体が、ひとつの筋書きには収まらない実在人物の人生の大きさを伝えているともいえる。これほど数奇な生涯が一本の映画として残されたことに、大きな意義を感じさせる作品だ。
敵意を信頼へ変えていくスポーツの力
本作の中心にあるのは、スポーツが国籍や法律、言葉を越えて人々を結びつける過程である。戦争直後のイギリスでは、ドイツ人であるバートに憎悪を向ける人々にも、空襲や戦死によって家族を奪われた切実な理由がある。映画はその感情を単純な偏見として処理せず、戦争が一般の国民同士に残した深い傷として描いている。
その憎しみを変えていくのは、バートの弁明ではなく、彼が命懸けでゴールを守る姿だ。かつて敵国同士だった人々が、個人として向き合い、同じチームを応援する中で少しずつ壁を取り払っていく。戦争の責任を曖昧にするのではなく、国籍だけで人間を一括りにせず、次の世代まで憎悪を持ち越さないことの大切さを訴えている。
バートと共に逆境へ立ち向かうマーガレットの強さ
バートの物語を支えるもうひとつの柱が、妻マーガレットの存在である。彼女は単に献身的な妻として描かれるのではなく、周囲の空気に流されず、自分が正しいと信じたことを言葉と行動で示す。夫婦に向けられる激しい敵意にも耐え、バートが一人の人間として評価されるべきだと訴え続ける姿には、バートとは異なる種類の勇気が宿っている。
フレイア・メーバーは、マーガレットの凛とした美しさと意志の強さを印象的に表現。バートへの感情が反発から理解、そして深い愛情へ変化していく過程にも説得力を与えている。一方、ジャック、妹のバーバラ、サーラおばあちゃんをはじめとするフライアー家の愉快なやり取りは、全体的にシリアスな物語の緊張を和らげ、作品を観やすくする大切な役割を担っている。
後から明かされる事実が高めるクライマックスの緊迫感
1956年のFAカップ決勝を再現した終盤の試合は、本作最大の見せ場である。バートが異常な不屈の精神でゴールに立ち続ける一方、映画は彼の身体に起きている異変を同時進行で示していく。その深刻さを後から明確にする構成によって、それまで目にしていたプレーの意味が一変し、ドラマチックな感動が何倍にも膨れ上がる。
実話の複雑な出来事を感傷的なスポーツドラマへ整理しすぎている点や、バートの戦時中の責任を十分に掘り下げていない点は弱点として挙げられる。それでも、夫婦が逆境を耐え抜く姿、スポーツが敵意を融和へ変える過程、そしてクライマックスの力強さには、観客の心を動かす確かな魅力がある。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
