映画『バケモノの子』(2015)を紹介&解説。
映画『バケモノの子』概要
映画『バケモノの子』は、細田 守監督が、東京・渋谷とバケモノの街“渋天街”を舞台に、孤独な少年と粗暴なバケモノの師弟関係を描いたオリジナル長編アニメーション。血のつながらないふたりが、衝突と修行を重ねながら親子のような絆を育んでいく。声の出演は役所広司、宮﨑あおい、染谷将太、広瀬すずら。第39回日本アカデミー賞で最優秀アニメーション作品賞を受賞した。
作品情報
| 日本版タイトル | 『バケモノの子』 |
|---|---|
| 英題 | The Boy and the Beast |
| 製作年 | 2015年 |
| 日本公開日 | 2015年7月11日 |
| ジャンル | アニメーション/ファンタジー/アクション/ファミリー |
| 製作国 | 日本 |
| 上映時間 | 119分 |
| 監督・原作・脚本 | 細田 守 |
|---|---|
| プロデューサー | 齋藤優一郎/伊藤卓哉/千葉 淳/川村元気 |
| 作画監督 | 山下高明/西田達三 |
| 美術監督 | 大森 崇/髙松洋平/西川洋一 |
| 音楽 | 高木正勝 |
| 主題歌 | Mr.Children「Starting Over」 |
| 声の出演 | 役所広司/宮﨑あおい/染谷将太/広瀬すず/山路和弘/宮野真守/リリー・フランキー/大泉 洋 |
| 制作 | スタジオ地図 |
| 製作 | 「バケモノの子」製作委員会 |
| 配給 | 東宝 |
あらすじ
母を亡くし、親族に引き取られることを拒んで渋谷の街をさまよう9歳の少年・蓮。孤独と怒りを抱えた彼は、強さを求めるバケモノ・熊徹に声をかけられ、人間界と並行して存在するバケモノの街“渋天街”へ迷い込む。宗師の後継者候補でありながら弟子を持たない熊徹は、少年を弟子にして“九太”と名づける。
性格も生活も正反対の2人は、口論とけんかを繰り返しながら修行を続ける。互いの動きをまねて学ぶうちに、九太は逞しい青年へ成長し、熊徹もまた他者を導く力を身につけていく。やがて人間界へ戻った九太は高校生の楓と出会い、失われていた学びや実父との関係に向き合う。しかし、人間の心に生じる“闇”が、2つの世界を揺るがす事件を引き起こす。
主な登場人物(キャスト)
熊徹(役所広司):渋天街に暮らす熊のような姿のバケモノ。武術の腕は一流だが、粗暴で身勝手なため弟子がいない。宗師の後継者となるため九太を弟子に迎える。
九太/蓮(少年期:宮﨑あおい/青年期:染谷将太):母を亡くして孤独になり、渋天街で熊徹の弟子となる人間の少年。反発しながらも師の背中を見て成長し、人間界とバケモノ界の間で自分の居場所を探す。
楓(広瀬すず):人間界で九太と出会う高校生。勉強を教え、彼が社会との接点と将来の選択肢を取り戻すきっかけをつくる。
猪王山(山路和弘):熊徹と宗師の座を争う、人格と実力を兼ね備えたバケモノ。多くの弟子と2人の息子を持ち、熊徹とは対照的な存在として描かれる。
一郎彦(宮野真守):猪王山の長男。優秀な剣士として成長する一方、自身の出自と心の内側にある不安を抱えている。
百秋坊(リリー・フランキー)/多々良(大泉 洋):熊徹と九太を見守る友人たち。冷静な百秋坊と皮肉屋の多々良が、衝突の絶えない師弟の間を取り持つ。
作品の魅力解説
渋谷と渋天街を結ぶ親しみやすい異世界
雑踏と路地が入り組む現実の渋谷の裏側に、擬人化された動物たちの暮らす渋天街がある。細田守らしい壮大さと日常感を両立した発想で、観客は九太とともに未知の世界へ足を踏み入れる。熊徹、猪王山、百秋坊、多々良らは、動物の特徴を生かしながら一目で性格が伝わる造形を持ち、群衆に至るまで街の文化と活気を感じさせる。
不器用な師弟が父子になるまで
最大の魅力は、熊徹と九太の関係である。教え方を知らない師と、素直に従えない弟子は、互いの欠点を映す鏡のようにぶつかる。それでも九太が熊徹の動きを観察し、呼吸や足運びを自らつかむ修行場面には、言葉で伝えられない者同士が身体を通して理解し合う説得力がある。血縁ではなく、同じ時間と失敗を重ねることで親子になる過程が、王道の熱さを生む。
荒々しい動きが生むアクションの躍動感
熊徹の戦い方は整然としておらず、重い体を投げ出すような荒々しさを持つ。九太とのけんかや修行、猪王山との対決では、打撃の重さと勢いを誇張したアニメーションが画面を押し広げる。特に序盤から中盤の小さな衝突には、未完成な2人だからこその予測不能な動きがあり、クライマックスの大規模な戦い以上に生々しい躍動感を感じさせる場面も多い。
母と子の物語に続く“父と子”の物語
前作『おおかみこどもの雨と雪』が母と子の時間を描いたのに対し、本作は父親役になることも、息子として誰かを信頼することも知らない2人を中心に置く。熊徹は九太を育てながら他者への責任を学び、九太は反発の中から受け継ぐべきものを見つける。細田作品に繰り返し現れる家族という主題を、血縁のない父子へ広げた点に本作の位置づけがある。
多彩さゆえに残るテーマの弱さ
Rotten Tomatoesでは批評家スコア90%、観客スコア89%を記録し、親しみのある要素を創意ある冒険へまとめた映像表現が評価されている。一方、人間だけが心に“闇”を抱えるという設定は、バケモノとの本質的な違いを十分に示せず、人間界での学び、実父との再会、楓との交流も駆け足に映る。多くの要素を119分へ盛り込んだ結果、それぞれの主題が薄まった面は否めない。それでも、熊徹と九太が欠点ごと相手を引き受ける父子物語には、作品を最後まで支える確かな感情がある。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
