伝説のホラー映画『ポゼッション』(1981)とはどんな映画?あらすじ・キャスト・ネタバレ・魅力・トリビアまとめ

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『ポゼッション』(1981)より

映画『ポゼッション』(1981)を紹介&解説。


映画『ポゼッション』概要

映画『ポゼッション』(1981)は、ポーランド出身のアンジェイ・ズラウスキー監督が、夫婦の崩壊を悪夢的な映像と身体的恐怖で描いたサイコロジカルホラー。任務から戻った男が、妻の異変と失踪の理由を追うなか、愛と狂気が交錯する想像を超えた真実に近づいていく。出演はカンヌ国際映画祭女優賞を受賞したイザベル・アジャーニサム・ニールハインツ・ベネントなど。

作品情報

日本版タイトル:『ポゼッション』
原題:Possession
製作年:1981年
日本公開日:1988年9月17日
ジャンル:サイコロジカルホラー/ドラマ
製作国:フランス/西ドイツ
原作:無
上映時間:124分
リメイク版:『Possession』(公開年未定)

監督:アンジェイ・ズラウスキー
脚本:アンジェイ・ズラウスキー/フレデリック・チューテン
製作:マリー=ロール・レール
撮影:ブリュノ・ニュイッテン
編集:マリー=ソフィ・デュビュス/シュザンヌ・ラング=ウィラー
作曲:アンジェイ・コジンスキ
出演:イザベル・アジャーニ/サム・ニール/ハインツ・ベネント/マルギット・カルステンセン/ヨハンナ・ホーファー
製作:ゴーモン/オリアン・プロダクションズ/マリアンヌ・プロダクションズ/ゾマ・フィルム・プロダクション
配給:ゴーモン・ディストリビューション

あらすじ

西ベルリン。任務から戻った諜報員マークは、妻アンナから突然離婚を告げられ、幼い息子を残した家庭の崩壊に直面する。アンナの不可解な行動と失踪を追ううち、マークは彼女に別の生活があると疑い始める。やがて夫婦の亀裂は、現実と悪夢の境界を揺るがす異様な事態へ広がる。

主な登場人物(キャスト)

マーク(サム・ニール):任務から西ベルリンへ戻った諜報員。妻アンナから突然離婚を告げられ、彼女の不可解な行動を追ううちに、夫婦関係の崩壊と異様な真実に巻き込まれていく。

アンナ/ヘレン(イザベル・アジャーニ):マークの妻アンナと、息子ボブの教師ヘレンを演じる。アンナは離婚を求めた後、激しい感情の揺らぎと不可解な行動を見せ、物語の中心となる存在。

ハインリヒ(ハインツ・ベネント):アンナと関係を持つ男。マークがアンナの行動を追うなかで接触する人物で、夫婦の対立と疑念をさらに深める存在となる。

マルギット・グルックマイスター(マルギット・カルステンセン):アンナの周辺にいる女性。アンナの行動や失踪をめぐる展開に関わる、物語上の重要な周辺人物。

ハインリヒの母(ヨハンナ・ホーファー):ハインリヒの母親。物語後半でマークが接触する人物で、ハインリヒをめぐる不穏な展開に関わる。

ボブ(マイケル・ホグベン):マークとアンナの幼い息子。夫婦の崩壊に巻き込まれ、家庭の不安定さを象徴する存在として描かれる。

主な受賞&ノミネート歴

カンヌ国際映画祭

第34回カンヌ国際映画祭(1981年)コンペティション部門に出品。イザベル・アジャーニが『ポゼッション』および『カルテット』で女優賞を受賞。パルムドールの候補作品。

内容(ネタバレ)

西ベルリンへ戻ったマークは、妻アンナから離婚を告げられる

物語の舞台は、冷戦下の空気が漂う西ベルリン。諜報員のマークは任務を終えて帰宅するが、妻アンナの態度は以前とは大きく変わっている。アンナは結婚生活を続ける意思を失っており、マークに離婚を求める。

夫婦の崩壊は、息子ボブを巻き込んで激化していく

マークとアンナには幼い息子ボブがいるが、夫婦の関係悪化は家庭そのものを不安定にしていく。マークは一時、家を離れるものの、やがてボブが放置に近い状態に置かれていることを知り、父親として彼を守ろうとする。だがアンナの行動は説明のつかないものになり、マークの怒りや混乱も増していく。

アンナの“相手”として、ハインリヒの存在が浮上する

マークはアンナに別の男がいるのではないかと疑い、やがてハインリヒという男にたどり着く。ハインリヒはどこか浮世離れした人物で、アンナとの関係を認めつつも、彼女のすべてを知っているわけではない。マークはハインリヒと対峙するが、そこで明らかになるのは単純な不倫関係ではなく、アンナの行動の不可解さをさらに深める要素である。

マークはアンナを追うため、私立探偵を雇う

アンナの行動を把握できないマークは、私立探偵を雇って彼女を尾行させる。マークは妻の不倫を疑って探偵を送り込むが、彼が想像する以上の恐怖が待っている。

アンナは荒廃した部屋で、異様な存在を隠している

探偵はアンナを追って、彼女が通う荒れたアパートへ向かう。そこで彼が目にするのは、人間の恋人ではない、説明のつかない異形の存在である。ここで本作は、夫婦の心理劇から、身体的恐怖と超現実的なホラーへと大きく傾いていく。

アンナの精神的・身体的な崩壊が、現実と悪夢の境界を壊していく

アンナの行動はさらに激しく、暴力的で、制御不能なものになっていく。彼女はマークへの憎しみや執着、ハインリヒとの関係、そして隠された存在への異様な献身のあいだで引き裂かれているように見える。マークもまた、嫉妬と怒り、愛情と支配欲のなかで精神的に追い詰められていく。

ヘレンの登場により、アンナの存在はさらに二重化していく

マークは息子ボブの教師ヘレンと出会う。ヘレンはアンナに酷似しているが、髪や雰囲気は異なり、アンナとは対照的に穏やかな人物として描かれる。彼女の存在によって、物語は単なる夫婦の破綻劇ではなく、“理想化された相手”や“もうひとりの自分”をめぐる不穏な方向へ進んでいく。ここから本作は、嫉妬、不倫、家庭崩壊の物語でありながら、アイデンティティや分身のイメージを含む悪夢的な展開へ踏み込んでいく。

探偵の死によって、アンナの秘密はさらに深まる

アンナを尾行した私立探偵は、彼女が出入りする荒廃したアパートにたどり着き、そこで人間ではない異形の存在を目撃する。アンナはその秘密を守るため、探偵を殺害する。これにより、マークが疑っていた単なる不倫の構図は崩れ、物語は夫婦の心理劇から、身体的恐怖を伴う悪夢的な領域へ入っていく。

アンナの“信仰”として、怪物の存在が示される

中盤以降、アンナは自分がアパートで世話をしているものを、単なる怪物ではなく、自身の“信仰”のようなものとして語る。彼女はマークとの不在期間中に地下鉄で激しい発作のような状態に陥り、そこで何かを“産み落とした”ことが示唆される。この地下鉄の場面は、本作でもっとも有名な場面のひとつである。

ハインリヒもまた、アンナの秘密に触れる

アンナの恋人と見なされていたハインリヒも、彼女のすべてを知っていたわけではない。マークからアンナのアパートを知らされたハインリヒは、そこへ向かい、怪物と死体を目撃する。アンナは彼を刺し、ハインリヒは負傷したまま逃げ出す。ここで、ハインリヒは夫婦関係を壊した“単純な第三者”ではなく、アンナのより深い秘密からは排除されていた人物であることが明確になる。

マークはハインリヒを殺し、アンナの部屋を燃やす

負傷したハインリヒはマークに助けを求めるが、マークは彼を救うのではなく、バーのトイレで殺害する。さらにマークはアンナのアパートへ戻り、死体の痕跡を見つけたあと、部屋に火を放つ。ここからマークは、アンナを追う被害者的な夫ではなく、彼自身も暴力と隠蔽に加担する存在へ変わっていく。

アンナと怪物の関係は、より露骨なものになる

怪物は、アンナにとって恐怖の対象であるだけでなく、彼女が守り、育て、欲望を向ける存在として描かれる。マークはついに、アンナがその異形の存在と肉体的な関係を持つ場面を目撃する。

ヘレンの存在が、分身のモチーフを強めていく

一方で、マークはアンナに酷似した教師ヘレンと接近する。ヘレンは外見こそアンナに似ているが、穏やかで献身的な人物として描かれ、アンナとは対照的な存在に見える。この“似ているが異なる存在”は、終盤で明らかになるもうひとつの分身のモチーフと呼応している。

怪物は、マークの分身へと近づいていく

物語が終盤へ進むにつれ、アンナが守ってきた怪物は、次第にマークに似た姿へ変化していく。これは、アンナが現実のマークではなく、彼女にとっての理想化された、あるいは歪んだ“もうひとりのマーク”を生み出していたようにも見える。

マークとアンナは、警察に追い詰められる

終盤、マークはかつての仕事仲間や警察の動きに巻き込まれながら、アンナと怪物を逃がそうとする。しかし逃走の過程で銃撃が起こり、マークは重傷を負う。彼は建物の階段を上っていき、そこでアンナと、ほぼ完全にマークの姿を得た怪物と対面する。ここで物語は、夫婦の崩壊、怪物の誕生、分身の出現がひとつに重なるクライマックスへ到達する。

アンナとマークは死に、分身だけが残る

警察の銃撃により、マークとアンナは致命傷を負う。ふたりは最後に口づけを交わすが、アンナはマークの銃で自ら命を絶ち、マークも階段から身を投げる。一方で、マークに似た分身はその場から逃げ延びる。夫婦の肉体は滅びるが、ふたりの関係の歪みから生まれたような存在だけが、世界に残される形となる。

ラストで、ヘレンとボブの前に“もうひとりのマーク”が現れる

ラストでは、ヘレンがマークとアンナの息子ボブを見守っている。そこへ誰かが訪ねてくる。ボブはヘレンに扉を開けないよう訴えるが、ヘレンはその声を聞き入れようとしない。外ではサイレンや爆発音のような不穏な音が響き、扉の向こうにはマークの姿をした分身が立っている。ボブは浴室へ走り、自ら水の中へ沈んでいく。物語は、家庭の崩壊が個人の悲劇にとどまらず、世界そのものの破滅的な気配へ広がっていくような余韻を残して終わる。

結末の意味は、ひとつに限定されない

本作のラストは、怪物や分身を明確なひとつの意味へ還元しない。アンナが生み出した存在は、夫婦関係の憎悪と欲望の具現化にも、理想化された伴侶の悪夢的な誕生にも、分断されたベルリンと冷戦下の不安を映す寓話にも見える。宗教的解釈、心理的解釈、歴史・政治的解釈のいずれも可能な作品である。

作品解説|魅力&テーマ

作品トリビア

イザベル・アジャーニは、同じ年にカンヌ女優賞を“2作品”で受賞した

イザベル・アジャーニは、第34回カンヌ国際映画祭で『ポゼッション』とジェームズ・アイヴォリー監督作『カルテット』の2作品により女優賞を受賞した。カンヌ公式は、同一年・同部門で2度名前を呼ばれた特別な例として紹介している。

本作はアンジェイ・ズラウスキー唯一の英語長編映画だった

『ポゼッション』はフランス・西ドイツ合作で、アンジェイ・ズラウスキーにとって初にして唯一の英語長編映画とされる。本作は西ベルリン、ベルリンの壁の近くで撮影されたことも記されている。

企画の背景には、ズラウスキー自身の離婚体験があった

本作の主な衝動は政治的なものではなく、1970年代後半にズラウスキーが妻で俳優のマウゴジャータ・ブラウネクとの別離で深く傷ついた体験に結びついていると解説されている。つまり本作の“夫婦崩壊”は、単なるホラー設定ではなく、監督自身の私的な痛みを出発点にしている。

舞台が西ベルリンなのは、分断都市としての象徴性があったため

ズラウスキーはインタビューで、ベルリンを選んだ理由について、政治的声明を掲げるためではなく、政治的境界線が道徳や人間の在り方と結びつく場所だったからだと語っている。西側の安全そうな世界がソ連圏の近くにあることを想起させるため、西ベルリンの設定に象徴的機能があったと説明されている。

当初はデトロイトを舞台にする案もあった

制作背景によると、ズラウスキーは当初『ポゼッション』を、ポーランド系移民も多いデトロイトを舞台にした作品として売り込んでいた。しかし企画は変遷し、最終的にフランス・西ドイツの資金で西ベルリン撮影へ向かった。

怪物の造形には『E.T.』『エイリアン』のカルロ・ランバルディが関わった

本作の異形の存在には、カルロ・ランバルディが関わっている。彼は『E.T.』のクリーチャーを手がけたオスカー受賞者であり、『エイリアン』にも関わった特殊効果の専門家として、本作の怪物が当時としては大胆に画面へ映された。

怪物は“見たことのないもの”を目指して作られた

ズラウスキーは制作時のインタビューで、怪物について「何か既知のものに見えてはいけない」とスタッフに説明するのが難しかったと語っている。ランバルディは4段階に変化する存在として造形を進めたが、撮影現場ではピンク色のラテックス製のパーツをどう見せるかが大きな課題になり、ズラウスキー自身もメイクアップや塗装のような作業に関わったという。

怪物シーンの苦労で、撮影は予定より遅れた

ズラウスキーは、怪物の扱い方を理解するまでに時間がかかり、結果的に撮影が3日遅れたと語っている。予算が厳しく、その3日を取り戻せなかったため、最終的に撮れなかった場面が2つあったとも明かしている。

アメリカでは大幅に短縮・改変された版が公開された

本作が北米で公開されたのはカンヌ上映から約2年半後で、しかもカンヌ版ではなく、新録音声や別の音楽、光学効果を加えた大幅な改変版だった。アメリカでは81分の短縮版で公開されたと記されている。

公開当時は評価が割れたが、のちにカルト作として再評価された

本作は公開当初は熱狂的に受け入れられたわけではなく、検閲や短縮公開も経験した一方で、時間の経過とともに批評家や観客からの関心が高まり、カルト作として位置づけられるようになったと説明されている。現在では、ズラウスキーの国外作品のなかでも特に評価の高い作品とされている。

BFIの「史上最高の映画」投票にも入っている

BFIのSight and Sound「The Greatest Films of All Time」2022年版批評家投票で、『ポゼッション』は243位にランクインしている。公開時の賛否や検閲を経た作品が、後年の映画史的評価で存在感を増した例といえる。

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