映画『プラトーン』(1986)を紹介&解説。
映画『プラトーン』概要
映画『プラトーン』は、ベトナム戦争への従軍経験を持つオリヴァー・ストーン監督が、自身の体験を投影して描いた半自伝的な戦争ドラマ。理想を抱いて戦地へ赴いた若い志願兵の視点から、敵との戦闘だけでなく、米軍内部の対立や兵士のモラルが崩壊していく過程を生々しく映し出す。主演はチャーリー・シーン、共演にトム・ベレンジャー、ウィレム・デフォーら。第59回アカデミー賞では作品賞、監督賞、編集賞、録音賞の4部門に輝いた。
作品情報
| 日本版タイトル | 『プラトーン』 |
|---|---|
| 原題 | Platoon |
| 製作年 | 1986年 |
| 本国公開日 | 1986年12月19日 |
| 日本公開日 | 1987年4月29日 |
| ジャンル | 戦争/ドラマ |
| 製作国 | アメリカ |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 120分 |
| 監督・脚本 | オリヴァー・ストーン |
|---|---|
| 製作 | アーノルド・コペルソン |
| 製作総指揮 | ジョン・デイリー/デレク・ギブソン |
| 撮影 | ロバート・リチャードソン |
| 編集 | クレア・シンプソン |
| 作曲 | ジョルジュ・ドルリュー |
| 出演 | チャーリー・シーン/トム・ベレンジャー/ウィレム・デフォー/フォレスト・ウィテカー/キース・デイヴィッド/ケヴィン・ディロン/ジョン・C・マッギンリー/ジョニー・デップ |
| 製作 | ヘムデール・フィルム・コーポレーション |
| 配給 | オライオン・ピクチャーズ/ワーナー・ブラザース映画(日本) |
あらすじ
1967年、ベトナム戦争の最前線。裕福な家庭で育った大学生クリス・テイラーは、自ら大学を中退して米陸軍へ志願する。しかし、過酷なジャングルでの任務によって理想はたちまち打ち砕かれる。やがて小隊は、冷酷なバーンズ軍曹と人間性を重んじるエリアス軍曹の対立によって二分され、クリスも戦場の狂気にのみ込まれていく。
主な登場人物(キャスト)
クリス・テイラー(チャーリー・シーン):裕福な家庭に生まれながら、社会的な義務を果たしたいという理想から大学を中退し、ベトナム戦争へ志願した若者。戦争の現実を知らない新兵として最前線へ送られ、過酷な体験を通して変貌していく。
ボブ・バーンズ軍曹(トム・ベレンジャー):顔に大きな傷を持つ、歴戦の軍曹。戦場で生き残ることを最優先とし、恐怖と暴力によって部下たちを支配する。人間性を重んじるエリアスとは激しく対立している。
ゴードン・エリアス軍曹(ウィレム・デフォー):過酷な戦場にいながら良心と人間性を失っていない軍曹。部下たちから慕われ、クリスにとって精神的な導き手となる一方、非情なバーンズの考え方には真っ向から反発する。
キング(キース・デイヴィッド):エリアスと行動を共にする経験豊富な兵士。新兵のクリスに戦場で生き延びるための知恵を教え、過酷な環境の中でも比較的冷静な態度を保っている。
ビッグ・ハロルド(フォレスト・ウィテカー):エリアス側の兵士のひとり。クリスと比較的早く打ち解け、緊張が続く戦地において仲間思いの一面を見せる。
バニー(ケヴィン・ディロン):バーンズを支持する若い兵士。戦場の暴力に順応し、次第に残虐性をあらわにしていく存在で、兵士の倫理が崩壊していく恐ろしさを体現する。
作品の魅力解説
従軍経験から生まれた地上目線のベトナム戦争
本作最大の特徴は、ベトナム戦争に歩兵として従軍したオリバー・ストーン監督が、自らの記憶と感情を物語へ投影していることだ。戦況を俯瞰する司令官や政治家ではなく、状況を十分に把握できない一兵士の目線に徹し、湿気や疲労、虫、暗闇、いつ攻撃されるか分からない恐怖までを体感的に描いている。
撮影前には、軍事アドバイザーでベトナム帰還兵でもあるデイル・ダイの指導により、出演者たちが軍隊式の訓練を経験。フィリピンのジャングルで行われた撮影と相まって、俳優の立ち方や武器の扱い、疲れ切った表情に現実味をもたらした。
敵だけでなく、自分たちとも戦う兵士たち
『プラトーン』が描く戦争は、米軍とベトナム側の単純な対決ではない。小隊内部では、良心を守ろうとするエリアスと、生存のためなら残虐な行為も辞さないバーンズが対立し、兵士たちは二つの陣営へ分かれていく。
クリスにとって両軍曹は、人間が戦場で選び得る二つの道を示す存在でもある。戦争が人間を狂わせるだけでなく、もともと内側に潜んでいた暴力や偏見を解放してしまう過程を通じて、本当の敵はどこにいるのかを観客へ問いかける。
兵士の心理を刻み込む映像、演技、音楽
チャーリー・シーンは、理想に燃える青年から戦場の論理に染まっていくクリスの変化を抑制された演技で表現。トム・ベレンジャーはバーンズを単なる悪役ではなく、戦争そのものに人格を侵食された男として演じ、ウィレム・デフォーはエリアスに包容力と悲壮感を与えている。
ロバート・リチャードソンの撮影は、ジャングルの闇、煙、雨、照明弾の光を生かし、戦場を混乱と悪夢が入り交じる空間として映し出す。さらに、サミュエル・バーバーの「弦楽のためのアダージョ」が戦闘場面の悲劇性を際立たせ、兵士たちが失っていく命と無垢を深く印象づける。
ベトナム戦争映画の流れを変えた反戦映画
本作は、第59回アカデミー賞で8部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、編集賞、録音賞を受賞した。英雄的な勝利や作戦の成功ではなく、戦争に参加した兵士が精神的に破壊されていく姿を正面から描き、ベトナム戦争映画を代表する一本として高く評価されている。
2019年には、文化的、歴史的、芸術的に重要な作品として、アメリカ議会図書館の国立フィルム登録簿に選出された。個人的な従軍体験から出発しながら、戦争が人間の良心をどう変質させるのかという普遍的な問題へ到達した点に、本作が今なお語り継がれる理由がある。
