映画『パラダイス・ヒルズ』(2019)を紹介&解説。
映画『パラダイス・ヒルズ』概要
映画『パラダイス・ヒルズ』は、裕福な家庭の若い女性たちを“完璧な娘”へ矯正する孤島の施設を舞台に、自由を奪われた女性たちの脱出を描く近未来SFスリラー。アリス・ワディントン監督の長編デビュー作で、幻想的な衣装や美術の奥に、家族や社会が女性へ押しつける理想像と階級格差を忍ばせている。主演はエマ・ロバーツ。共演にダニエル・マクドナルド、オークワフィナ、エイザ・ゴンザレス、ミラ・ジョヴォヴィッチら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『パラダイス・ヒルズ』 |
|---|---|
| 原題 | Paradise Hills |
| 製作年 | 2019年 |
| スペイン公開日 | 2019年10月11日 |
| アメリカ公開日 | 2019年10月25日 |
| 日本公開日 | 2022年11月25日 |
| ジャンル | SF/ファンタジー/スリラー |
| 製作国 | スペイン/アメリカ |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 95分 |
| 監督 | アリス・ワディントン |
|---|---|
| 原案 | アリス・ワディントン/ソフィア・クエンカ |
| 脚本 | ブライアン・デレウー/ナチョ・ビガロンド |
| 製作 | アドリアン・ゲラ/ヌリア・バルス |
| 撮影 | ホス・インチャウステギ |
| 美術 | ライア・コレット |
| 衣装 | アルベルト・バルカルセル |
| 編集 | ギジェルモ・デ・ラ・カル |
| 作曲 | ルーカス・ビダル |
| 出演 | エマ・ロバーツ/ダニエル・マクドナルド/オークワフィナ/エイザ・ゴンザレス/ミラ・ジョヴォヴィッチ/ジェレミー・アーヴァイン/アーノード・ヴァロワ |
| 製作会社 | ノストロモ・ピクチャーズ/コリーナ・パライソAIE/ヌブラー・プロダクションズ |
| 配給 | アルファ・ピクチャーズ(スペイン)/サミュエル・ゴールドウィン・フィルムズ(アメリカ)/キノフィルムズ(日本) |
あらすじ
裕福な家庭に生まれた若い女性ユマは、ある朝、周囲を海に囲まれた孤島の施設「パラダイス」で目を覚ます。そこは、上流階級の家族から預けられた娘たちに食事制限や美容処置、礼儀作法、発声、運動などのレッスンを施し、わずか2か月で“完璧な女性”へ変えることを目的とした矯正施設だった。
母親から望まれた結婚を拒んだために送り込まれたユマは、同室のクロエやユー、人気歌手のアマルナと交流を深めていく。やがて彼女は、華やかな庭園と豪華な衣装に覆い隠された施設の異様さに気づき、仲間たちと脱出する方法を探し始める。
主な登場人物(キャスト)
ユマ(エマ・ロバーツ):裕福な家庭に生まれた本作の主人公。母親が勧める望まない結婚を拒んだことで、孤島の矯正施設「パラダイス」へ送り込まれる。反抗心が強く、施設の方針に従うことなく脱出を試みる。
クロエ(ダニエル・マクドナルド):ユマと同じ部屋で生活する入所者。家族が求める理想的な体形へ変えるために施設へ預けられた。朗らかな性格でユマたちの仲間となる。
ユー(オークワフィナ):ユマとクロエのルームメイト。裕福な中国人家庭の出身で、両親が望む従順な娘へ変えるために入所させられている。警戒心が強く、当初は周囲と距離を置いている。
アマルナ(エイザ・ゴンザレス):施設で暮らしている人気ポップスター。自分らしい音楽やイメージを求めたことで所属側と対立し、商品価値を取り戻すための“矯正”を受けている。ユマと親密な関係を築く。
公爵夫人(ミラ・ジョヴォヴィッチ):矯正施設「パラダイス」を管理する謎めいた女性。優雅で穏やかな態度を見せながら、入所者たちにさまざまな処置を施し、家族が望む“完璧な娘”へ変えようとする。
マーカス(ジェレミー・アーヴァイン):ユマが愛する恋人。ユマの家族からは身分が釣り合わないと見なされている。施設へ潜入し、ユマを救い出そうとする。
ソン(アーノード・ヴァロワ):ユマの母親が結婚相手として選んだ裕福な男性。ユマから拒絶されているものの、彼女との結婚を諦めようとしない。
作品の魅力解説
本作で最も強い印象を残すのは、物語の舞台となる矯正施設の美術と衣装である。白を基調としたドレス、花に覆われた庭園、曲線とアーチが連なる建築、幻想的な照明によって、上流階級のための楽園が作り上げられている。しかし、衣装にはコルセットや拘束具を思わせる意匠が組み込まれ、美しさそのものが女性を縛る装置として機能している。
施設のデザインには、未来的なブルータリズム建築と歴史的な装飾、童話、日本のロリータ・ファッションなど、異なる時代や文化の要素が混在する。華麗で浮世離れした空間でありながら、どこか人工的で息苦しい。そのアンバランスな感覚が、「ここから逃げなければならない」という物語の不穏さを支えている。
物語の根底にあるのは、家族や社会が若い女性へ押しつける“理想”への抵抗である。結婚を拒むユマ、体形を変えるよう求められるクロエ、従順さを期待されるユー、商業的なイメージを強制されるアマルナと、入所者たちはそれぞれ異なる理由で個性を否定されている。矯正施設は、外見や振る舞いを規格化しようとする社会の圧力を極端な形で可視化した場所といえる。
一方で、魅力的な題材や空気感を、物語として十分に掘り下げられているとは言い難い。謎めいた施設からの脱出という構図には、『パラドクス』のような閉鎖的な世界を舞台にした傑作へ発展し得る可能性が感じられる。しかし、サスペンス、青春映画、ディストピアSFを広く取り込んだ結果、いずれの要素もやや中途半端になっている。
特に終盤では、それまでの社会派SF的な方向から変則的なファンタジーへ急旋回するため、施設の秘密に納得するよりも、その奇妙さに置いていかれやすい。Rotten Tomatoesの批評家スコアは65%と一定の支持を得ている一方、Metascoreは49にとどまっており、美術やテーマへの評価に対して脚本の完成度が追いついていないという見方も強い。
それでも、華美な衣装をまとったエマ・ロバーツの存在感は大きい。反抗的で気の強いユマという役柄にもよく合っており、幻想的なセットの中で見せる彼女のビジュアルは、本作を最後まで引っ張る最大の見どころとなっている。物語の後味には割り切れなさが残るものの、独特のデザインとエマ・ロバーツを堪能する作品としては、忘れがたい個性を備えている。
