映画『魔法の星図』(2026)を紹介&解説。
映画『魔法の星図』概要
映画『魔法の星図』は、中国出身の現代美術家スン・シュン監督が、約10年の歳月をかけて製作した長編ファンタジー・アニメーション。人々の記憶が定期的に消去される架空の帝国ルオチャを舞台に、魔法使いから不思議な星図を託された孤児の少年シャオ・ジーが、時空や次元を超える冒険を繰り広げる。木版画、水墨画、油彩画など、多彩な美術技法を取り入れた手描きアニメーションが特徴。2026年8月の第79回ロカルノ国際映画祭でワールドプレミアを迎え、第39回東京国際映画祭コンペティション部門にも選出された。
作品情報
| 日本版タイトル | 『魔法の星図』 |
|---|---|
| 原題 | 魔法星图 |
| 英題 | Magic Atlas |
| 製作年 | 2026年 |
| 本国公開日 | 一般劇場公開日未確認(2026年8月13日、ロカルノ国際映画祭でワールドプレミア) |
| 日本公開日 | 一般劇場公開未定(2026年10月27日、東京国際映画祭でアジアン・プレミア予定) |
| ジャンル | アニメーション/ファンタジー/アドベンチャー |
| 製作国 | シンガポール |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 85分 |
| 監督・脚本・製作・編集 | スン・シュン |
|---|---|
| 出演 | 声優の正式な配役情報は未確認(26年10月時点) |
| 製作 | π Animation Studio(アニメーション制作) |
| 配給 | 日本配給未定(26年10月時点) |
あらすじ
外界から隔絶された石炭の帝国ルオチャ。そこでは飛行が禁じられ、人々は60年ごとに開催される「迷夢祭」の後、それまでの記憶を失うという奇妙な社会が築かれていた。
ある日、帝国にひとりの魔法使いが現れ、かろうじて保たれていた社会の秩序が揺らぎ始める。やがて魔法使いは捕らえられ、牢獄に収監されることになった。
牢獄で魔法使いが出会ったのは、シャオ・ジーという孤児の少年だった。火刑に処されることになった魔法使いは、その直前、シャオ・ジーに不思議な力を持つ「魔法の星図」を密かに託す。
その後、混乱のなかで時空を超える「予言の湖」に落ちたシャオ・ジーは、聖なる修行の地ジンタ・リンにたどり着く。
そこで少年は、自分と魔法使いが同じ魂を共有する存在であり、炎の力によって再びひとつになれることを知る。こうしてシャオ・ジーは、時間や空間、さらには次元の境界を超え、自分自身の存在と世界の真実を探す旅へと踏み出していく。
主な登場人物(キャスト)
シャオ・ジー:物語の主人公となる孤児の少年。牢獄で出会った魔法使いから不思議な星図を託され、時空を超える冒険に巻き込まれる。旅のなかで、自分と魔法使いが同じ魂を共有していることを知る。
魔法使い:閉ざされた帝国ルオチャに現れ、社会に混乱をもたらす謎の人物。捕らえられて火刑に処される直前、孤児のシャオ・ジーに魔法の星図を託す。シャオ・ジーとは魂のつながりを持つ存在。
作品の魅力解説
製作期間約10年、膨大な手仕事から生まれた異色の長編アニメーション
本作の最大の特徴は、約10年という長期間をかけて生み出された、手作業によるアニメーション表現にある。
スン・シュン監督は、中国の現代美術を代表するアーティストのひとり。2006年に自身のアニメーションスタジオを設立し、映像と美術の境界を横断する作品を発表してきた。
本作では、伝統的な木版画をはじめ、油彩、水墨、素描、書道など、さまざまな技法によって生み出された絵をアニメーションとして動かしている。
特に木版画のアニメーション制作には、企画全体を通じて多数の人々が携わった。監督はインタビューで、約500人が製作に関わったことを明かしている。
デジタル技術による映像制作が一般化するなか、一枚一枚の絵を生み出すことに膨大な時間と労力を注いだ、現代では珍しい製作手法が注目される。
木版画と水墨画、ヨーロッパの銅版画が融合する壮大な映像世界
本作の映像には、中国の伝統美術から西洋の版画表現まで、異なる文化圏の美術様式が取り込まれている。
黒と白の強いコントラストを持つ木版画、繊細な濃淡によって空間を生み出す水墨画、複雑な線描によるヨーロッパの銅版画を思わせる表現など、場面ごとに異なる質感を持つ映像が特徴だ。
なかでも帝国ルオチャの描写には、工業都市や機械文明を思わせる建築物や装置が登場する。監督の故郷である中国東北部の風景や歴史的な建築物からの影響も取り込まれており、独特の産業的・幻想的な世界観が形づくられている。
60年ごとに記憶を失う帝国を舞台に、歴史と自己の存在を問う
物語の舞台となるルオチャでは、60年ごとに開催される祭りの後、人々の記憶が消去されるという奇妙な仕組みが存在する。
過去の出来事を記憶できなければ、人間は歴史から何かを学ぶことができるのだろうか。社会が同じ過ちを繰り返すことと、個人の記憶が失われることは、どのような関係を持つのだろうか。
こうした設定を通じて、本作は冒険ファンタジーでありながら、記憶、歴史、権力、アイデンティティといった哲学的な問題を扱っている。
さらに、主人公シャオ・ジーと魔法使いが同じ魂を共有するという設定からは、輪廻や精神世界をめぐる東洋的な思想も読み取れる。異なる時空や次元を旅する物語を通じて、自分とは何者なのかという問いが浮かび上がる。
現代美術と映画の境界を超える、スン・シュン監督の集大成
スン・シュン監督は、中国美術学院で版画を学び、アニメーション映画と現代美術の両分野で活動してきた。
短編アニメーション作品はヴェネツィア国際映画祭やベルリン国際映画祭でも紹介され、グッゲンハイム美術館など世界各地の美術館でも作品を発表している。
『魔法の星図』の関連作品も映画の完成前から展覧会で公開されており、長編映画であると同時に、長年にわたる美術活動の成果を集約した作品という側面を持つ。
2026年8月にはロカルノ国際映画祭の「現代の映画作家」コンペティション部門でワールドプレミアを迎えた。さらに東京国際映画祭では、アニメーション作品としてコンペティション部門に選出されている。
美術作品としての造形美と、映画としての物語性をどのように両立させているのか。スン・シュン監督が長年追求してきた表現の到達点に注目したい。
