映画『ヘイゼル85』(2026)を紹介&解説。
映画『ヘイゼル85』概要
映画『ヘイゼル85』は、テオドラ・アナ・ミハイ監督(『La Civil』)が、1985年にベルギーのヘイゼル・スタジアムで発生し、39人が死亡したサッカー史上に残る悲劇を題材に描く歴史ドラマ。ヨーロピアン・カップ決勝のリバプール対ユベントス戦で起きた暴動を背景に、市長の娘で広報担当を務める女性と、家族を連れて取材に訪れたイタリア系の記者という2人の視点から、事件の混乱と政治的責任を描き出す。ベルギー、オランダ、ドイツの合作映画で、2026年のベルリン国際映画祭スペシャル・ガラ部門でワールドプレミアを迎え、第39回東京国際映画祭コンペティション部門にも選出された。主演はヴィオレット・ブレックマンとマッテオ・シモーニ、共演にヨセ・デパウ、ファブリツィオ・ロンジョーネ、パオロ・カラブレージら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『ヘイゼル85』 |
|---|---|
| 原題 | Heysel 85 |
| 製作年 | 2026年 |
| 本国公開日 | 2026年11月18日(ベルギー劇場公開予定/2026年2月14日、ベルリン国際映画祭でワールドプレミア) |
| 日本公開日 | 一般劇場公開未定(2026年10月26日、東京国際映画祭で日本初上映予定) |
| ジャンル | ドラマ/歴史/スポーツ |
| 製作国 | ベルギー/オランダ/ドイツ |
| 原作 | 無(1985年のヘイゼルの悲劇に基づく) |
| 上映時間 | 92分 |
| 監督 | テオドラ・アナ・ミハイ |
|---|---|
| 脚本 | ローデ・デスメット/イザベル・ダラス/テオドラ・アナ・ミハイ |
| 製作 | ハンス・エヴェラールト |
| 撮影 | マリウス・パンドゥル |
| 編集 | ベルト・ヤコブス |
| 作曲 | アンナ・カタリーナ・バウアー |
| 出演 | ヴィオレット・ブレックマン/マッテオ・シモーニ/ヨセ・デパウ/ファブリツィオ・ロンジョーネ/パオロ・カラブレージ/ボビー・スコフィールド/ベン・セヘルス |
| 製作 | Menuetto Film/Les Films du Fleuve/Topkapi Films/Leitwolf Filmproduktion |
| 配給 | Kinepolis Film Distribution(ベルギー)/日本配給未定(26年10月時点)/Salaud Morisset(海外セールス) |
あらすじ
1985年5月29日、ベルギーの首都ブリュッセル。ヘイゼル・スタジアムでは、ヨーロッパのクラブサッカー王者を決めるヨーロピアン・カップ決勝、イングランドのリバプール対イタリアのユベントスの試合が開催されようとしていた。
ブリュッセル市長の娘で、父親の広報担当として働くマリーは、両親とともにスタジアムを訪れる。一方、イタリア系のジャーナリストであるルカ・ロッシも、試合を取材するため会場を訪れていた。彼の家族もイタリアから応援に駆けつけている。
しかし、試合開始前、スタジアム内でサポーター同士の暴動が発生。観客がパニックに陥り、群衆が押し寄せたことで多数の死傷者が出る大惨事となってしまう。
ルカは報道の仕事を続けながら、混乱のなかで消息がわからなくなった家族を捜し始める。一方のマリーは、市長である父親が酒に酔い、事態を適切に指揮できなくなっていることに直面し、対応を迫られる。
多数の死者が出たにもかかわらず、試合を中止すればさらなる混乱が起きるのではないかという懸念から、関係者たちは試合の続行を検討する。命を守るべき人々が判断をためらうなか、マリーとルカは仕事上の責任と家族への思い、そして人間としての倫理の間で揺れ動いていく。
主な登場人物(キャスト)
マリー・デュモン(ヴィオレット・ブレックマン):ブリュッセル市長の娘で、父親の広報担当を務める女性。ヨーロピアン・カップ決勝を観戦するためスタジアムを訪れるが、試合開始前の暴動によって大惨事に巻き込まれる。市長である父親が適切な対応を取れないなか、政治的な責任と人命を守ることの間で難しい判断を迫られる。
ルカ・ロッシ(マッテオ・シモーニ):イタリア系のジャーナリスト。ヨーロピアン・カップ決勝を取材するためにヘイゼル・スタジアムを訪れる。暴動が発生すると、報道の仕事を続けながら、会場にいる家族の安否を確かめようとする。
マルク・デュモン(ヨセ・デパウ):ブリュッセル市長で、マリーの父親。事件当日、酒に酔った状態で危機に直面し、適切な指揮を執ることができなくなる。混乱を深める行政側の問題を体現する人物。
作品の魅力解説
39人の命を奪ったサッカー史上の悲劇を、複数の視点から映画化
本作が題材とするのは、1985年5月29日にベルギーのヘイゼル・スタジアムで発生した、いわゆる「ヘイゼルの悲劇」だ。
ヨーロピアン・カップ決勝のリバプール対ユベントス戦を前にサポーターの暴動が発生し、39人が死亡、多数の負傷者が出る大惨事となった。事件は欧州サッカー史に深い傷痕を残し、その後のスタジアムの安全対策やサポーター管理にも大きな影響を与えた。
本作では試合そのものではなく、大惨事に直面した人々の行動と判断に焦点を当てている。市長の広報担当とジャーナリストという異なる立場の2人を中心に据えることで、ひとつの歴史的事件を個人的な悲劇と社会的な問題の両面から描き出している。
試合は中止すべきだったのか? 人命と政治的責任をめぐる葛藤
本作の重要なテーマのひとつが、大惨事が起きたにもかかわらず、試合を続行するという判断に至った経緯だ。
多数の死傷者が出るなか、現場の警察や政治家、サッカー関係者は、どのように事態を収拾するべきなのかという難しい選択を迫られる。試合の中止によってさらに大きな混乱が発生する可能性も懸念され、関係者たちの間では責任をめぐる議論が続いていく。
一方で、マリーは父親である市長の無力さを目の当たりにし、ルカは報道の職務と家族の安全との間で葛藤する。
巨大な災害のなかで、誰が責任を負うのか、何を優先するべきなのかという問題を通じて、権力や組織のあり方を問いかける社会派ドラマとなっている。
『La Civil』のテオドラ・アナ・ミハイ監督が描く、人間の尊厳と社会の矛盾
テオドラ・アナ・ミハイ監督は、ルーマニア出身のベルギーを拠点とする映画監督。メキシコの誘拐事件を題材にした『La Civil』(2021)は、第74回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でオダシティ賞を受賞した。
また、ルーマニアを舞台とする『Traffic』(2024)では、社会の周縁に置かれた人々の経験を描き、ワルシャワ国際映画祭でグランプリを受賞している。
こうした作品に共通するのは、社会制度や権力構造のなかで苦しむ人々の視点を重視していることだ。
本作でも、サッカーの試合で起こった暴動を単なる事件の再現として扱うのではなく、その裏側にある行政の機能不全や個人の倫理的葛藤に目を向けている。
スタジアムの混乱を体感させる映像と、実力派俳優たちの演技
本作では、1985年当時のスタジアムや関係者たちの混乱を再現するため、ブリュッセルなどベルギー国内で撮影が行われた。
撮影監督は『La Civil』でもテオドラ・アナ・ミハイ監督と組んだマリウス・パンドゥル。群衆のパニックや緊迫する現場の状況を映像によって描き、観客を事件のただなかへと引き込むことが目指されている。
主演のヴィオレット・ブレックマンとマッテオ・シモーニに加え、ベルギーを代表する俳優のひとりであるヨセ・デパウが出演。大惨事を前にした行政の混乱と個人的な葛藤を、俳優たちの演技を通じて描き出す。
2026年2月にはベルリン国際映画祭スペシャル・ガラ部門でワールドプレミアを迎え、同年の東京国際映画祭コンペティション部門にも選出された。歴史的な悲劇を、人間の責任と尊厳を問う映画として再構築した作品だ。
