映画『チェリー』(2021)を紹介&解説。
映画『チェリー』概要
映画『チェリー』は、アンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ監督(『アベンジャーズ/エンドゲーム』)が、ニコ・ウォーカーの同名小説を映画化したクライムドラマ。大学を中退して米陸軍の衛生兵となった青年チェリーが、イラクから帰還後にPTSDと薬物依存に苦しみ、やがて銀行強盗へ手を染めていく姿を描く。主演はトム・ホランド。共演にシアラ・ブラヴォ、ジャック・レイナー、マイケル・リスポリ、ジェフ・ウォールバーグら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『チェリー』 |
|---|---|
| 原題 | Cherry |
| 製作年 | 2021年 |
| 本国公開日 | 2021年2月26日(米国限定劇場公開) |
| 日本公開日 | 2021年3月12日(Apple TV+配信開始) |
| ジャンル | ドラマ/クライム/戦争 |
| 製作国 | アメリカ |
| 原作 | ニコ・ウォーカー『Cherry』(小説) |
| 上映時間 | 141分 |
| 監督 | アンソニー・ルッソ/ジョー・ルッソ |
|---|---|
| 脚本 | アンジェラ・ルッソ=オトストット/ジェシカ・ゴールドバーグ |
| 製作 | アンソニー・ルッソ/ジョー・ルッソ/マイク・ラロッカ/ジョナサン・グレイ/マシュー・ローズ/ジェイク・オースト/クリス・カスタルディ |
| 製作総指揮 | クリスティ・グリシャム/ジャド・ペイン/ワン・ジョンジュン/ワン・ジョンレイ/エドワード・チェン/パトリック・ニューオール/アンジェラ・ルッソ=オトストット/トッド・マクラース/ダン・カプロウ/ニコ・ウォーカー/マシュー・ジョンソン |
| 撮影 | ニュートン・トーマス・サイジェル |
| 編集 | ジェフ・グロス |
| 作曲 | ヘンリー・ジャックマン |
| 出演 | トム・ホランド/シアラ・ブラヴォ/ジャック・レイナー/マイケル・リスポリ/ジェフ・ウォールバーグ/フォレスト・グッドラック/マイケル・ガンドルフィーニほか |
| 製作 | AGBO/ザ・ハイダウェイ・エンターテインメント |
| 配給 | Apple TV+(米国・日本) |
あらすじ
オハイオ州で暮らす青年チェリーは、大学で出会ったエミリーと恋に落ちる。しかし彼女との関係に揺れた末、衝動的に米陸軍へ入隊。衛生兵としてイラクへ派遣され、過酷な戦場を経験する。
帰国したチェリーを待っていたのは、戦争によって刻み込まれた深い心の傷だった。PTSDに苦しむ彼は薬物へ依存するようになり、エミリーとの生活も次第に崩壊。さらに薬物を手に入れるための金にも困窮し、ついには銀行強盗へ手を染め始める。恋愛、戦争、トラウマ、依存症、犯罪が連鎖し、ひとりの青年の人生を大きく変えていく。
主な登場人物(キャスト)
チェリー(トム・ホランド):オハイオ州で暮らす青年。エミリーとの恋愛を経て米陸軍へ入隊し、衛生兵としてイラクへ派遣される。帰還後はPTSDに苦しみ、薬物依存と犯罪へ転落していく。
エミリー(シアラ・ブラヴォ):チェリーが大学時代に出会い、強く惹かれていく女性。チェリーの人生を支える存在である一方、帰還後の彼が抱える苦しみに巻き込まれ、ふたりの関係も次第に深刻な状況へ陥る。
ピルズ&コーク(ジャック・レイナー):チェリーとエミリーが薬物依存を深めていく過程で関わる人物。薬物をめぐる危険な生活を象徴する存在のひとり。
ヒメネス(ジェフ・ウォールバーグ):チェリーが軍務の中で出会う兵士。チェリーにとって過酷な戦場体験と結びつく重要な人物。
作品の魅力解説・レビュー
青春、戦争、依存症、犯罪を一本へ詰め込んだ異色の転落劇
『チェリー』が扱うのは単純な犯罪者の物語ではない。恋愛に揺れる若者だった主人公が軍へ入り、戦争を経験し、PTSDを抱えて帰国し、薬物へ依存し、やがて銀行強盗へ至るまでを長い時間軸で追っていく。
青春映画、戦争映画、依存症ドラマ、クライム映画という異なるジャンルを一本へまとめた野心的な構成であり、ルッソ兄弟は主人公の人生そのものを大きな転落の連鎖として描こうとしている。
一方で、多数のテーマを141分へ盛り込んだことで、それぞれの題材が十分な深さまで掘り下げられていない印象も残る。PTSDやアイデンティティ・クライシス、薬物依存を扱ったクライムドラマとしては既視感もあり、題材の重さに対して物語そのもののパンチは必ずしも強くない。
作品を支えるトム・ホランドの圧倒的な演技
それでも本作を観る大きな理由になるのが、主演トム・ホランドの演技だ。
恋愛に悩む若者から軍人となり、戦場のトラウマを抱え、薬物によって心身を崩壊させ、犯罪へ追い込まれていく。ひとりの人間が別人のように変貌していく長い過程を、ホランドは身体的にも精神的にも大きく振幅する演技でつないでいる。
『スパイダーマン』シリーズのピーター・パーカーとはまったく異なる役柄であり、スター俳優としてのイメージを利用するのではなく、俳優として不安定な青年の内面へ踏み込んでいる。作品全体に弱さを感じる部分があっても、その演技だけで一見の価値を作り出している。
チェリーとエミリー、ふたりで沈んでいく関係
チェリーの物語を支えるもうひとりの中心人物が、シアラ・ブラヴォ演じるエミリーだ。
当初は主人公にとって人生の支えとなる恋人として登場するが、帰還後のチェリーが壊れていくにつれ、彼女自身もその苦しみから無関係ではいられなくなる。愛する相手を救う物語ではなく、ふたりが互いを必要としながら同時に深みへ沈んでいく関係が描かれるため、ロマンスにも強い痛々しさがある。
ブラヴォはホランドの激しい演技に埋もれず、独特の存在感を残しており、本作で特に印象に残るキャストのひとりとなっている。
映像的な野心に対して、物語が追いつかない部分も
MCUの大作を手がけてきたルッソ兄弟だけに、単調な社会派ドラマとして撮るのではなく、主人公の心理状態や人生の段階に合わせて映像表現そのものを変化させていく。
その大胆さは本作ならではの個性となっている一方、演出の存在感が強すぎることで、PTSDや依存症という題材より「どう撮るか」が前面に出ている場面もある。
Rotten Tomatoesの批評家スコアは37%、MetacriticのMetascoreも44と批評家からの評価は低く、完成度の高いクライムドラマとは言い難い。ただし、トム・ホランドがこれまでの代表的イメージから大きく離れ、壊れていく青年を演じ切った作品としては注目に値する一作だ。
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ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
