『オデュッセイア』がインフルエンサー試写なしで批評家試写へ向かう。
クリストファー・ノーラン監督の新作映画『オデュッセイア』が、近年のハリウッド大作で定番化しつつあるインフルエンサー向け先行試写を行わない方針だと報じられた。米『ザ・ハリウッド・リポーター』によると、ユニバーサルは7月6日にロンドンで行われるワールドプレミア後、SNSでの口コミ拡散を狙う試写ではなく、まず映画批評家向けの試写へ進むという。
『オッペンハイマー』でアカデミー賞作品賞・監督賞を獲得したノーランが、ホメロスの叙事詩を題材に挑む本作。マット・デイモン、トム・ホランド、アン・ハサウェイ、ロバート・パティンソン、シャーリーズ・セロンら豪華キャストが名を連ねるだけに、今回の判断は単なる宣伝スケジュールの違いにとどまらず、SNS時代の映画宣伝に対する“自信の表明”としても受け止められそうだ。
『オデュッセイア』はインフルエンサー試写を行わず批評家試写へ
ハリウッドでは近年、ブロックバスター映画の公開前にファンサイト運営者やインフルエンサーを招いた試写を行い、SNS上に短い感想を投稿してもらう手法が広く使われてきた。スタジオ側にとっては、新聞・雑誌・ウェブメディアなどの批評家レビューが解禁される前に、熱量の高いポジティブな空気を作れるメリットがある。
一方で『オデュッセイア』の場合、ユニバーサルはこの流れを選ばなかった。ロンドンでのワールドプレミアを経た後に、まず専門の批評家へ向けて作品を見せる方針とされる。大作映画としては異例にも見えるが、ノーラン作品は“公開前のSNS絶賛”に頼らずとも、監督名、題材、キャスト、IMAX上映への期待で十分に話題を作れる。今回の判断には、そうしたブランド力への確かな手応えもにじむ。
SNSの“先行絶賛”に観客も慎重になっている
この判断が注目される背景には、インフルエンサー試写への観客側の見方が変化していることもある。スタジオのマーケティング施策と、SNS上の“自然発生的な盛り上がり”の境界が見えにくくなる中で、映画ファンは宣伝の演出に以前より敏感になっている。
たとえばディズニーは、映画『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』のスター、ペドロ・パスカルがディズニーランドでファンを驚かせる企画を展開したが、その見せ方が“偶然のサプライズ”のように受け取れるものだったとして、一部で指摘を受けた。また、ワーナー・ブラザースの『スーパーガール』をめぐっては、インフルエンサー側から「夏最高のブロックバスター!」といった強い絶賛が出た一方、批評家レビューではRotten Tomatoesで59%前後とされ、SNS上では温度差への疑念も広がった。
ユニバーサル自身も、スティーヴン・スピルバーグ監督作『Disclosure Day(原題)』でインフルエンサー試写を実施している。同作には「スピルバーグにとって20年ぶりの最高傑作」といった反応も出たが、その強い言葉は批判的な観客や一部レビューで引き合いに出されることにもなった。“早く褒められること”が、必ずしも作品にとって安全な追い風になるとは限らない状況が生まれている。
宣伝戦略の変化を促す“ノーラン作品”という例外性
もちろん、今回の一手だけで映画インフルエンサーの影響力が落ちたと断定するのは早い。SNS上の口コミは依然として興行に大きな役割を持ち、特に若年層やジャンル映画では初動の空気作りに欠かせない要素でもある。
ただし『オデュッセイア』のような巨大タイトルがインフルエンサー試写を見送ることで、今後のスタジオ戦略に新たな見え方が生まれる可能性はある。先行試写を行わないことが「作品に自信がある」というメッセージになり、逆にインフルエンサー試写に頼る作品が「批評家レビューの前に空気を作ろうとしている」と見られる場面も増えるかもしれない。
『オデュッセイア』は、トロイア戦争後、故郷イタケーへ帰ろうとする英雄オデュッセウスの長く過酷な旅を描く作品。主演のマット・デイモンがオデュッセウスを演じ、トム・ホランドが息子テレマコス、アン・ハサウェイが妻ペネロペ、シャーリーズ・セロンがニンフのカリュプソ、ロバート・パティンソンが求婚者アンティノオスを演じるとされる。
ノーランが神話的スケールの冒険譚をどう現代の映画体験へ変換するのか。その答えをめぐる期待は、SNSの先行絶賛ではなく、まず映画そのものと批評の場から広がっていくことになりそうだ。
