新作映画『マーズ・エクスプレス』 を紹介&解説するレビュー。
1月30日(金)日本公開の『マーズ・エクスプレス』は、フランスのジェレミー・ペラン監督による、未来都市を疾走するアニメーションSFスリラー/ノワールである。西暦2200年、人間とロボットが共存する社会で、私立探偵とアンドロイドの相棒が、失踪事件や密売、世界を揺るがす陰謀へと迫っていく。声の出演はレア・ドリュッケール、ダニエル・ンジョ・ロベ、マチュー・アマルリックなど。
『マーズ・エクスプレス』あらすじ
舞台は西暦2200年の火星。私立探偵アリーヌは、相棒のアンドロイド、カルロスとともに捜査に当たっている。富豪からの依頼で地球のハッカーを追うが、事態は火星で起きた学生失踪事件と汚職の影へとつながっていく。巨大都市の地下に広がる闇に触れたふたりは、やがてロボットを巡る“秘密”の核心へと近づいていく。

『マーズ・エクスプレス』より ©Everybody on Deck – Je Suis Bien Content – EV.L prod – Plume Finance – France 3 Cinéma – Shine Conseils – Gebeka Films – Amopix
生活感とロマンが息づく未来像
本作の世界観には、『AKIRA』が持っていた有機物と無機物が溶け合う機械の感触と、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』に見られるハードボイルドな視線が同時に息づいている。冷たい金属の内部に、どこか生々しい“身体性”が残り、テクノロジーは決して抽象的な記号としてではなく、触れられる現実として存在している。
一方で、この世界は荒廃や混沌だけに寄りかからない。洗練されたロマンを感じさせる都市の造形と、雑然とした労働や生活の匂いが同居し、サイバーパンク的な日常が、どこまでも地続きに描かれていく。未来都市は、人が歩き、働き、疲弊し、また生き延びる場所として機能している。

『マーズ・エクスプレス』より ©Everybody on Deck – Je Suis Bien Content – EV.L prod – Plume Finance – France 3 Cinéma – Shine Conseils – Gebeka Films – Amopix
そのバランス感覚こそが、本作の世界を単なるジャンル的オマージュに終わらせない要因だ。ロマンと現実、有機と無機、洗練と退廃――相反する要素が拮抗することで、この世界は確かな手触りを獲得し、観る者を“そこに生きる感覚”へと誘っていく。
人間性と倫理の境界線を問う
本作を観ていると、ふと『ザ・クリエイター/創造者』が脳裏をよぎる。人間に限りなく近づいていくプログラミング、電気信号によって構築された感情や人格は、どこまでを「本物」と呼べるのか。そして、いつからそれらを持つ彼らは“権利”が認められる存在になるのか――そんな問いが、作品の底を流れている。

『マーズ・エクスプレス』より ©Everybody on Deck – Je Suis Bien Content – EV.L prod – Plume Finance – France 3 Cinéma – Shine Conseils – Gebeka Films – Amopix
本作が描く世界では、知性と感情を備えたロボットたちは、効率と秩序の名のもとに管理され、使役され、不要になれば切り捨てられていく。一方で、権力を持つ人間たちは、その構造を当然のものとして受け入れ、搾取の輪の外に立ち続ける。果たして、人間性とは”生まれ”によって決まるものなのだろうか。それとも、他者を思いやり、自由を尊重しようとする態度の中にこそ宿るものなのか。人格を与えられながらも抑圧されるロボットたちと、理性を持ちながらも支配と暴力を正当化する人間たち。その対比は、「どちらがより人間的か」「善はどこにあるのか」という問いを、観る者に投げかけてくる。
本作が描くのは、遠い未来のSFでありながら、同時に、現代社会がすでに足を踏み入れつつある倫理の境界線なのだ。
フランス発・注目のSFアニメ『マーズ・エクスプレス』は1月30日(金)より日本公開。

『マーズ・エクスプレス』より ©Everybody on Deck – Je Suis Bien Content – EV.L prod – Plume Finance – France 3 Cinéma – Shine Conseils – Gebeka Films – Amopix
