『WEAPONS/ウェポンズ』で強烈な存在感を放ったグラディス叔母さん。その役を演じたエイミー・マディガンは、彼女を「悪役」だとは捉えていなかった。
(※この記事は『WEAPONS/ウェポンズ』をネタバレを含みます。)
ホラー映画『WEAPONS/ウェポンズ』で観客に鮮烈な恐怖を刻みつけたグラディス叔母さんは、瞬く間にホラーアイコンとなった。しかし、『ScreenDaily』誌でのインタビューによれば、その異様な存在感の裏で、演じたエイミー・マディガン自身はこのキャラクターを単なる悪役として見てはいなかったという。予想外の反響と評価の渦中で、彼女が語ったグラディス像と俳優としての距離感が、作品の印象を静かに塗り替えていく。
予想外だった変貌と、現場に走ったざわめき
エイミー・マディガンは、グラディス叔母さんとして完全な扮装を施した姿で『WEAPONS/ウェポンズ』のセットに初めて足を踏み入れた日のことを、今も鮮明に覚えているという。厚く塗られたメイクに特殊効果で尖らせた鼻、巨大な眼鏡、そして禿げキャップを覆う真っ赤なウィッグ。75歳の彼女は、子どもをさらいハサミを振り回す“魔女”のような存在へと、ほとんど見分けがつかないほど変貌していた。
マディガンが「そこには数人の男性スタッフだけがいたんだ。撮影監督のラーキン・サイプルと、カメラマンが何人か」「私が部屋に入った時、全員が息を呑むのを感じたよ」と振り返るように、その変貌は現場の空気を一瞬で変えたという。
「みんな予想していなかったんだ。ザックはすごく喜んでた。みんながそれほど驚いたことを気に入っていたね」と、強烈な印象を残すグラディス叔母さんの姿は、完成された映画の中だけでなく、撮影現場の最初の瞬間からすでに“想定外”の存在だったことがうかがえる。
グラディス叔母さんを「悪役」とは思わなかった理由
エイミー・マディガンがグラディス叔母さんというキャラクターに強く惹かれた理由は、その異様な外見や恐怖表現だけにあったわけではない。彼女がまず心を掴まれたのは、ザック・クレッガーの脚本そのものだったといい、「とてもタイトだった。無駄な言葉は一切なくて、すべてのキャラクターがとても明確に描かれていたんだ」と明かしている。
だが、それ以上に彼女の心を動かしたのは、グラディスという人物像そのものだった。
「『この女性はすばらしい。とても独創的だ』って思ったよ」
脚本上は“悪役”に分類される存在であることは理解していたと前置きしながらも、マディガンの中でグラディスは単純な加害者ではなかった。
「実質的には悪役ということになっているのは分かっているけど、私はそういう風には見なかったんだ」「彼女にはすばらしい自信と活力があって、レーザーのように鋭くなれる能力がある」と語るグラディスを全身で演じたことを俳優としての「大きな喜び」だったとマディガンは語っている。
観客にとっては“恐るべき存在”として記憶されるグラディス叔母さんは、演じ手にとっては、善悪の枠を超えた、極めて能動的で魅力的なキャラクターだった。その視点は、作品の印象をより多層的なものへと変えていく。
外見の変貌がもたらした、思いがけない「解放」
グラディス叔母さんという役を引き受けるにあたり、エイミー・マディガンは、その極端で不格好とも言える外見に「全く躊躇はなかった」といい、むしろ、彼女にとってその肉体的変貌のプロセスは、創作の歓びそのものだったという。
特殊メイクや衣装によって形作られていくグラディスの姿は、意図的にクラシックなホラーの系譜を想起させるものだったが、マディガンはそれを過去の模倣としてではなく、現在における自由な表現として受け止めていた。
彼女は「みんなと協力してこのルックを作り上げるのはとても解放的だったよ」「だって、女性がどう見えるべきか、どう着飾るべきかという現代的な枠に自分を押し込める必要がなかったから」と率直に語っている。
年齢や外見、あるべき女性像といった無言の制約から離れ、キャラクターの身体をそのまま肯定できたことは、俳優としての感覚を大きく解き放った。
「グラディスの身体的な部分が大好きだった。彼女の全体が好きだったんだ」
その肯定は外見だけにとどまらない。
「彼女はそれをまとめ上げている。仕事的には、それは私にとって解放そのものだったよ」
恐怖を与えるために作り上げられた姿は、同時に、演じ手にとっては既存の枠組みから自由になるための入口でもあった。グラディス叔母さんという存在は、マディガンにとって、キャリアの中でも特異で、しかし極めて自然な解放の体験だった。
クライマックスを引き受けた、俳優としての矜持
『WEAPONS/ウェポンズ』の終盤で描かれるグラディス叔母さんの最期は、観客の記憶に強く残る場面のひとつだ。物語の中で形勢を逆転された彼女は、17人の小学3年生に追われ、高速の徒歩追跡の末、集団に襲われて引き裂かれる。グラン・ギニョール的とも言えるこのクライマックスは、演じる側にとっても肉体的な負荷が大きい場面だった。
「ザックが『スタンドインを用意できるよ』って言ったんだけど、私は『私がやるよ。楽しみにしているんだ』って答えたんだ」と、撮影にあたり、自ら走り、かわし、追われることを選んだことを明かしたマディガン。その選択は、年齢や負担を考えれば決して当然ではない。それでも彼女は、「速く走って、物をかわさなきゃいけなかった。楽しかったよ」「ちょっときつかったけど、それでも構わない」とその体験を前向きに受け止めている。
グラディス叔母さんというキャラクターを最後まで自分の身体で引き受けること。その姿勢は、役の大小やジャンルに関係なく、常に現場で役を生きてきたマディガンの俳優としての矜持を端的に物語っている。
前日譚の可能性と、期待しすぎない現在地
強烈な最期を迎えたグラディス叔母さんだが、監督のザック・クレッガーはインタビューで、彼女の過去に焦点を当てた前日譚の可能性を示唆している。
マディガン自身も「ザックの頭の中で生きるのが好きなんだ」「彼はユニークだし、きっと良いアイデアを思いつくと思うよ」とそのアイデアに期待をにじませつつ、クレッガーには他にも多くのプロジェクトが控えていることを理解し、「今すぐピッチするつもりはないよ」と語っている。
『WEAPONS/ウェポンズ』の成功を受けて、新たなオファーが殺到しているのかと問われると、「正直言って、オファーが殺到しているわけじゃないよ」と率直に答えるマディガンだが、「でも人々は今、より興味を持ってくれているよ」と確かな変化は感じているという。
グラディス叔母さんという役が、彼女のキャリアにどんな影響をもたらすのか。今後のエイミー・マディガンとグラディスに期待だ。
