【映画レビュー『リビング・ラージ』】ストップモーションが映し出す心―鋭い洞察で描く、コンプレックスと自己肯定の物語

『リビング・ラージ!』より © 2024 Barletta,Novinski,Novanima,Česká televize,RTVS,MAGIC LAB REVIEWS
『リビング・ラージ!』より © 2024 Barletta,Novinski,Novanima,Česká televize,RTVS,MAGIC LAB

新作映画『リビング・ラージ』を紹介。


チェコのストップモーション・アニメ映画『リビング・ラージ』10月3日(金)より日本で公開される。あたたかみのあるアニメーションを通じて、コンプレックスと向き合う少年の姿を描いた、心にそっと残る一作だ。

『リビング・ラージ』あらすじ

主人公のベンは、音楽と料理をこよなく愛する、少しシャイな少年だ。気の合う友人たちとバンドを組み、ラップの歌詞を綴り、キッチンで料理を楽しむ——そんな日常を過ごしている。学校では目立たない存在だが、キッチンに立つときと歌っているときだけは、ほんの少しだけ自分を肯定できる瞬間がある。

『リビング・ラージ!』より © 2024 Barletta,Novinski,Novanima,Česká televize,RTVS,MAGIC LAB

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そんなベンが、ある日クラスメイトのクララを意識し始めたことをきっかけに、自分の見た目や内面が気になり出す。ダイエットにも挑戦してみるが、思うようにはいかない。歌詞にすることもできないモヤモヤとした感情が、胸の奥で静かにざわめく。言葉にできない気持ちも、整理のつかない想いも、すべて音楽に託しながら、ベンはまだ見ぬ自分自身と少しずつ出会っていくのだ。

コンプレックスと、自己肯定の難しさ

本作が描くのは、「コンプレックスと自己肯定の難しさ」という、ありがちだが普遍的かつ重要で親しみやすいテーマだ。子供時代は特に、容姿に対する容赦ない悪口が飛び交うものであり、いじめ問題はいつの時代も根絶されることがない。子供というものは——いや、大人だって同じだ——人間は自分が嫌われたり笑われたりするくらいなら、人を馬鹿にする側に回って身を守ろうとしてしまいがちだ。本作の主人公ベンは、そうした弱さや醜さを抱えた他者によって、繰り返し傷つけられる存在として描かれる。

『リビング・ラージ!』より © 2024 Barletta,Novinski,Novanima,Česká televize,RTVS,MAGIC LAB

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さらに追い打ちをかけるように、ベンの家庭環境は複雑だ。両親は離婚しており、母親は自身の固定観念に縛られて子供の話に耳を傾けない頑固さを持ち、若い愛人と親密に過ごす父親はベンに「太っちょを遺伝させた」張本人として、彼にとって複雑な気持ちの対象だ。本来なら子供のアイデンティティを育むべき家庭が、このような状態では適切なメンタルケアなど望むべくもなく、ベンのストレスは募る一方だ。そのストレスは暴食という形でも表れ、ダイエットの試みは簡単には進まない。

だが、ベンは決して弱いだけの少年ではない。いじめっ子や体育教師からのいびりに対しても、鋭い皮肉で応戦する気概を見せる。彼の鋭い一言が相手を黙らせる瞬間には、観る者も思わず胸のすく爽快感を味わうことになるだろう。

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繊細に感情移入させる深い洞察

本作の最も優れた点は、登場人物たちの感情を観客へ自然に伝える表現力にある。ストップモーションの人形とカメラワークを駆使した繊細な演出は、言葉にならない複雑な心境や苦悩を、観る者の胸にすっと入り込ませる力を持っている。

主人公ベンのキャラクター造形は、特に秀逸だ。シャイで自信を持てない瞬間もあれば、どんな状況でも機転を利かせて堂々と立ち向かう自信満々な瞬間も見せる。この振れ幅こそが、ベンというキャラクターを一元的な記号に終わらせない要因となっている。よく考えれば、私たち自身もそうではないか。ある日は自信に満ち溢れて無敵のような気分になれるかと思えば、別の日には些細なことで自信が揺らぎ、弱気になってしまう。本作は「自己肯定感が高い/低いキャラ」という単純な二分法に陥ることなく、緻密な人間設計によってバランスを保っている。そこに、制作陣の鋭い人間観察眼が光っているのだ。

『リビング・ラージ!』より © 2024 Barletta,Novinski,Novanima,Česká televize,RTVS,MAGIC LAB

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子どもたちの友情関係や恋愛感情の機微も丁寧に描かれており、その可愛らしさと残酷さの両面が浮き彫りにされる。一見シンプルな物語に見えながら、実は非常に深い洞察を備えた作品であることが、観ていくうちに明らかになってくる。

クレイアニメにとらわれないユニークな表現

正直なところ、本作の人形たちを「最高に個性的で唯一無二」と評するのは難しい。アンバランスな身体設計や独特な顔立ちによってキャラクターに個性が与えられているのは確かだが、ティム・バートンやアダム・エリオット、アードマンやスタジオライカといったストップモーションの巨匠/名門スタジオたち、あるいはクロード・バラス監督の『ぼくの名前はズッキーニ』(2016年)など、既存の傑作群から受ける既視感を完全に払拭できているとは言い難い。

とはいえ、本作の真価は別のところにある。クレイアニメという枠組みに固執せず、柔軟な発想で表現の幅を広げている点だ。透明感のある美味しそうなスープの質感表現から、突如として挿入される二次元アニメーションまで、形式に縛られない自由な演出が、作品全体にあたたかさと楽しさをもたらしている。さらに、名作映画『ロッキー』へのオマージュや、部屋の壁に貼られたデヴィッド・ボウイらしきポスターなど、さまざまなカルチャーへの敬愛が随所に散りばめられ、作品に独自の味わいを加えている。

『リビング・ラージ!』より © 2024 Barletta,Novinski,Novanima,Česká televize,RTVS,MAGIC LAB

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独特のバランス感覚でコンプレックスに向き合う少年の姿と、子供たちのリアルな日常の苦悩を描いた『リビング・ラージ』は、10月3日(金)より日本公開。この普遍的なメッセージを、ぜひ映画館で受け取ってほしい。

作品情報

タイトル:『リビング・ラージ!』
原題:ŽIVOT K SEŽRÁNÍ
英題:LIVING LARGE
監督:クリスティーナ・ドゥフコヴァ
声の出演:タイラー・ゲイ、フィオン・キンセラ、アレクサンドラ・ハーマンズ
2024年|チェコ・スロバキア・フランス|英語|79分|カラー|シネスコ|5.1ch|字幕翻訳:髙橋彩|PG12
© 2024 Barletta,Novinski,Novanima,Česká televize,RTVS,MAGIC LAB
配給:クロックワークス

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