映画『突然、君がいなくなって』が6月20日(金)より日本公開となる。突然の別れと、誰にも言えず封じ込めた感情、そして人間関係の変化を描くヒューマンドラマを作り上げたのは、アイスランドの映画監督ルーナ・ルーナソン。今回culaでは、ルーナソン監督へのオンラインインタビューを決行。日本から遠く離れたアイスランドの美学や、本作に込めた監督の思い・こだわりを聞いた。
- 『突然、君がいなくなって』ルーナ・ルーナソン監督インタビュー
- 今作にはアイスランドの街並や海の美しい映像が出てきますね。アイスランドに行ったことがない日本の観客に向けて、アイスランドの文化やお国柄がどのようなものなのか、簡単に教えていただけますか。
- 最も感情が激しく揺れ動く状況で、その素直な感情を周囲に見せられないという複雑なシチュエーションに置かれた主人公ウナの心の機微が非常に伝わってくる演技が印象的でした。キャラクターや演技はどのように作り上げたのでしょうか。
- ウナの様子を見てディッディとの関係に微かな疑念を感じていくようにも見えますが、あえて言葉では何も表さない…そんなクララが印象的でした。クララの描写やカトラ・ニャルスドッティルさんの演技はいかがでしたか。
- ウナとクララの顔が窓越しに重なるようなショットが印象的でした。あの撮影について教えていただけますか。
- 最後に、これから今作を観る日本の観客にメッセージをお願いします。
- 作品情報
『突然、君がいなくなって』ルーナ・ルーナソン監督インタビュー

ルーナ・ルーナソン監督
今作にはアイスランドの街並や海の美しい映像が出てきますね。アイスランドに行ったことがない日本の観客に向けて、アイスランドの文化やお国柄がどのようなものなのか、簡単に教えていただけますか。
ルーナ・ルーナソン監督(以下、ルーナソン):アイスランドは若い国です。私は20年くらい前に日本を訪ね、本島や札幌を旅行したことがありますが、アイスランドも同じく島国です。常に島国特有の気質を持っていますし、多様な自然があり、天然温泉もあります。入浴が冬の文化としてとても重要な意味を持っているので、至る所に公共プールがあります。
ルーナソン:あなたが言及してくれた都市景観ですが、アイスランドに建っている家々はかなり新しいものです。現存する最古の家屋でも1800年代後期のものなんです。農業と漁業が国の大きな部分を占める国で、自然と共に生きることが生活の大きな部分を示しています。

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ルーナソン:それから、アイスランド人のほとんどはキリスト教徒で、生まれると同時に教会に登録されます。ただそれだけでなく、アイスランド人にはスピリチュアルな側面もあります。多くの人がパラレル・ユニバースや幽霊…霊魂…呼び方はさまざまですが霊的なものを信じています。今となっては若者たちはあまり信じていない傾向もありますが、本来アイスランドには「隠れた人々」と呼ばれるパラレル・ユニバースの信仰があります。彼らは、私たちが模範にすべき、親切で善良で、あらゆる欠点を持たない人々で、岩や山に宿っているのです。だから田舎だけでなく街中でも、車を運転していると、大きな岩がある場所では霊魂を邪魔しないよう、岩を避けて道ができているのがわかります。
ルーナソン:私たちは若く、そして裕福な国でもあります。第二次世界大戦中、アイスランドは爆撃を受けず、戦後に魚の輸出で多くの利益を得たのです。大戦中、アイスランドは最初にイギリスに占領され、戦後はアメリカが基地を置きました。既に独立はしていたもののインフラが整備されておらず貧しかったアイスランドには、戦後復興のためのマーシャルプランにより大量の資金が流入し、アメリカ軍のためのインフラが整備されたことで急速に発展しました。1800年代まで土と石で作った泥の家に住み、給料を現金ではなく食べ物で受け取ったりしていたアイスランド人にとって、20世紀の発展は決定的な変化をもたらしました。

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ルーナソン:今、アイスランド人は高い教育水準を持ち、戦争や大量虐殺に強く反対しています。どの国も他国を攻撃すべきではなく、攻撃されても特に子どもや無実の人々を殺すような反撃はすべきではないと考えています。そのため軍隊を持たず、持ちたくもありません。NATO加盟国ですが、これは植民地時代にNATOの決定で独立を得たための歴史的経緯によるもので、一般市民は加盟を望んでいません。
ルーナソン:裕福な国なので人々はよく旅行し、社会民主主義体制のもと福祉制度を持っています。無料病院や失業手当、住居支援などがありますが、まだ改善の余地はあります。世界的な資本主義化の流れの中で、こうした福祉制度は貪欲な人々によって常に脅かされていますから。しかし結局のところ、アイスランド人も世界中どこの人々とも同じです。愛し、傷つき、良い人間でありたいと願いながらも、時には嫉妬や恥ずべき感情を抱くこともあります。完璧ではありませんが、最高の自分でありたいと努力し続けています。
最も感情が激しく揺れ動く状況で、その素直な感情を周囲に見せられないという複雑なシチュエーションに置かれた主人公ウナの心の機微が非常に伝わってくる演技が印象的でした。キャラクターや演技はどのように作り上げたのでしょうか。

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ルーナソン:適切な俳優を見つける配役から始まり、撮影前に俳優たちと人生について長い対話を重ねてお互いを知り合います。各シーンを入念にリハーサルし、話し合いながら変化・発展させていきます。すべては対話を通して生まれるのです。
ルーナソン:私は最初にビジョンを持ちますが、俳優、撮影監督、プロデューサー、セットデザイナーなど、皆が私よりもその専門分野で優れており、彼らが私のビジョンを拡大してくれます。ここでもすべては対話を通して進みます。お互いを見つめ、話し、理解し合いながら最良の方法を見つけていくのです。人間が行う多くの良いことと同様ですね。
ウナの様子を見てディッディとの関係に微かな疑念を感じていくようにも見えますが、あえて言葉では何も表さない…そんなクララが印象的でした。クララの描写やカトラ・ニャルスドッティルさんの演技はいかがでしたか。

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ルーナソン:カトラはすばらしい俳優で、他の俳優たちも同様ですが、言葉を発することなく感情を伝える能力を持っています。私は「映画ですべてを理解させるべきではない」と考えています。人生でも私たちは周りで起こることを常に理解しているわけではないからです。誰かに告げられるのではなく、自分で理解しようと努めるべきです。人が何かを告げても、それが必ずしも真実とは限らないからです。だからこそ、注意深く理解しようとする姿勢が大切なのです。
ルーナソン:映画でクララを見る時、私たちは彼女が何を知っているのか、すべてを知っているのか、疑っているだけなのか、ただの恐れなのか、いつ確信を持つのか…どれも完全には把握できません。観客一人一人が自分で答えを見つけるべきだと思います。すべてがすぐに理解できてしまったら、興奮も関与もなくなってしまいますから。

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ルーナソン:しかし少なくとも我々は、彼女が恐れを抱いているという感覚は得られます。クララは体験をすぐに柔軟な価値観に昇華する温かさを持ち、考え方を変えることができる開放的で自由な人です。彼女は良い人ですが、ウナ同様辛く苦しい状況にあります。幼馴染のボーイフレンドと離れた場所で暮らしていた彼女は、ずっと何かを感じ取っていたのかもしれませんね。人は物事を感じ取ることができますから。
ルーナソン:クララはディッディとのつながりが薄れていることを恐れ感じていましたが、それが他の女性のせいなのか、それとも単なる人生の自然な流れなのかは分からない状況にありました。器の大きなクララは、困難に立ち向かい、変化し、主人公たちに良い影響を与えます。彼女は心が広く寛容で、主人公たちにとって良い導きの光となる存在なのです。
ウナとクララの顔が窓越しに重なるようなショットが印象的でした。あの撮影について教えていただけますか。
ルーナソン:嬉しい言葉をありがとうございます!あのシーンはもともと、ウナが外にいて小さく見えて、クララがそこに歩み寄って小さな対話を行い、そして一緒に去ることを決めるというシーンでした。秘密を共有し、何らかの交流を持つことになっていました。しかしこのシーンには、前の嵐のような場面の後の静けさを表現し、観客に息をつかせながら、二人の若い女性がお互いを理解し、似た運命を共有していることを認識しつつあるという変化へ移行させる役割がありました。彼女たちは完全にお互いを感じ取っているのです。

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ルーナソン:ここでも他のシーンと同様に、書かれた脚本を実行する際、私たちは視覚と音響で感情を伝え物語を語る方法を模索しました。準備段階の現場で、私たちは音響と映像がどのようにそれを実現できるかを探っていくのです。私の妻は視覚アーティストで、彼女が制作した重なり合う映像作品からインスピレーションを得ました。撮影監督に説明する際、イングマール・ベルイマンの『仮面/ペルソナ』(67年)の二人の女性が融合するシーンも参考にしました。この効果はすべてアナログ手法でカメラ内で撮影しており、コンピューター処理は一切使っていません。適切な角度と動きを見つけるのは技術的に困難でしたが、技術が俳優の感情表現を無駄にしないよう、技術と感情のバランスを取ることを心がけました。
最後に、これから今作を観る日本の観客にメッセージをお願いします。
ルーナソン:私は人間として、困難な状況にあっても、「今この時に世界では恐ろしいことが起こっている」と人々に思い出させることを自分の役目だと思っています。パレスチナで大量虐殺が起こっています。私は人々に声を上げるよう求めます。この世界で起こる醜さに対して、声を上げましょう。なぜなら、私たちは皆同じだからです。
ルーナソン:本作はアイスランド映画で、日本の観客にとっては異国かもしれませんが、これは人間である私たちの誰もが経験し得ることについての映画です。この世界には私たちを分かつ相違点よりも、結びつける共通点のほうが多いのです。私たちは皆同じです。肌の色にも、どんな服を着ているかにも関係なく、私たちは皆生まれ、皆死にます。私たちは皆愛し、皆心に傷をつけられます。私たちは皆夢を持ち、もし親になったら、私たちは子どもたちの幸せな人生を望みます。宗教ごとに違いはあれど、どれも他人に良い接し方をすることを大切にしているのは同じです。私たちは憎悪の感情に屈してはいけないし、立ち上がって声を上げるべきなのです。
(インタビュー以上/取材・文:ヨダセア)

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一つ一つの質問に対して、丁寧に情報量と誠意を込めた回答を行ってくれたルーナ・ルーナソン監督。その人柄と真摯なスタンスが、そっと人の心に寄り添う本作の作風を作り上げるのだろう。『突然、君がいなくなって』は6月20日(金)日本公開。
作品情報
監督・脚本:ルーナ・ルーナソン
音楽:ヨハン・ヨハンソン(『メッセージ』『博士と彼女のセオリー』)※既存楽曲のみ
出演:エリーン・ハットル、ミカエル・コーバー、カトラ・ニャルスドッティル、バルドゥル・エイナルソン、アゥグスト・ウィグム、グンナル・フラプン・クリスチャンソン
2024年|アイスランド、オランダ、クロアチア、フランス|アイスランド語|80分|ビスタ|原題:Ljósbrot|英題:When the Light Breaks|PG12
配給:ビターズ・エンド
後援:アイスランド大使館
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公式サイト:www.bitters.co.jp/totsuzen
X:@BittersEnd_inc

