【インタビュー】『炎のゴブレット』はシリーズの転換点だった- 「ハリー・ポッター」シリーズ小道具担当者が、ゴブレット、死喰い人の仮面、金の卵などの制作を振り返る

Warner Bros. Studio Tour London – The Making of Harry Potter. INTERVIEWS
Warner Bros. Studio Tour London – The Making of Harry Potter.

『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』小道具担当ピエール・ボハナ氏インタビュー

世界中で愛される映画『ハリー・ポッター』シリーズの制作舞台裏を体験できるワーナー ブラザース スタジオツアー東京で、映画『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』の公開20周年を記念した特別企画「炎のゴブレット」を2025年4月18日(金)から9月8日(月)までの期間限定で開催される。本企画はスタジオツアー東京開業以来初となる全館規模での特別企画であり、映画の名場面を彩った小道具や衣装、クリーチャーの数々が展示される。その中には初公開となるアイテムも含まれており、ファンにとって見逃せないイベントとなっている。今回culaは、シリーズの小道具担当者であるピエール・ボハナ氏にインタビューを行った。

ピエール・ボハナ氏(過去撮影)Photo by Séa Yoda

ピエール・ボハナ氏(過去撮影)Photo by Séa Yoda

シリーズの転換点となった『炎のゴブレット』

『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』は制作陣にとって大きな自信となった作品だとピエール・ボハナ氏は語る。「この作品から、ストーリー展開がより大規模になっていったことで、制作チーム全体が非常に興奮していました。美術監督のスチュアートを筆頭に、我々はこの作品でフィーリングや美学的な部分を確立できたと思います。小道具やセットピースのデザインにおいても、大きく飛躍できた作品でした」。

象徴的な「炎のゴブレット」制作秘話

タイトルにもなった「炎のゴブレット」の制作は、小道具製作者としての醍醐味を感じられる仕事だったという。「素材となる木材を探すところから全ての工程まで、とても興味深く、ポジティブな経験でした」。

製作期間は約2ヶ月から2ヶ月半ほど。最初の1ヶ月はリサーチと素材選びに費やされたという。当初はメキシコ産のシタンという木材を検討していたが、美術監督のスチュアート・クレイグの提案でイギリスのニレの木(イングリッシュ・エルム)が選ばれた。

このニレの木は見つけるのが難しかったのですが、強風で倒れた木を保管している場所を見つけ、3〜4個の木材を調達しました。長さ約3m、幅約1mほどの大きな木材を持ち帰り、私ともう1人の同僚で手作業でノミを使って彫刻していきました。ゴブレットは1本の幹から彫り出したので、ミスは許されない作業でした。また、木材は日々形が変わるため、シリコンオイルに漬けて形状維持に努めました」。

Warner Bros. Studio Tour London – The Making of Harry Potter.

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“死喰い人(デス・イーター)”のマスク製作

死喰い人(デス・イーター)のマスクもチャレンジングな制作だったという。「『炎のゴブレット』では死喰い人が初登場しますが、最初のデザインは骨とプレートを組み合わせたようなものでした。銀メッキを施しましたが、クリエイターはこのデザインに満足せず、次の『不死鳥の騎士団』では中世の鎧にインスパイアされたデザインに変更されました」。

製作技法としては、エレクトロフォーミングと呼ばれる電鋳法を使用。「銅などの金属を化学的に定着させる技術で、これを何度も繰り返して厚みを増していきました。さらにサンドエッチングを施し、再成形した上で銀メッキを塗布。さまざまな薬品も使い、表面の質感を作り込みました」とボハナ氏は工夫を振り返る。

また、キャラクターごとに特化したマスクを作り、その人物の特徴(富裕さなど)を表現するよう工夫したとのこと。

演技に合わせた実用性への配慮

マスクについては、着用時間をなるべく短くするための工夫もされていた。「ベラトリックスなど、誰が着けるかが早めにわかっているかどうかは重要ですね。また、スタントダブル用にゴム製の着けやすいバージョンも作りました。裏地にはレザーを使い、快適に着用できるよう配慮しています」。

マスク自体も薄く軽量に作られ、顔にフィットするデザインになっている。「金属製のものは熱を伝えやすいため、特に配慮が必要でした」。

金の卵の複数バージョン

三大魔法学校対抗戦の第一課題に登場する金の卵は、様々な用途に応じて複数のバージョンが作られた。「まず最初のバージョンは、アリーナのシーンで使用する金メッキを施したヒーローピースです。二つ目はアクションシーン用で、ラグビーボールのように扱われる場面があるため、ゴム素材を使用した安全性の高いものを作りました。三つ目は実際に開くバージョンで、監督生の浴室シーンでのみ使用されました」。

開くバージョンの中央部分は、「見事な泡のようなエフェクト」が特徴で、特殊な樹脂を使って何度も実験を重ねて完成させたという。

水中シーンの撮影

第二課題の水中シーンは、撮影が最も大変だったシーンの一つ。「おそらくヨーロッパ最大の水槽を使用しました。マーメイド用のトライデント(三叉の槍)や、ハリーのゴーグル型眼鏡など、水中で使用する小道具を用意しました。一日中水中での撮影となるため、特に配慮が必要でした」と、ここでもボハナ氏ら小道具チームは大活躍だったようだ。

原作者J.K.ローリングとの関係

J.K.ローリングとの関係については、「ほとんどの場合、プロデューサーのデヴィッド・ヘイマンを通じてやり取りしていました。セットデコレーターのステファニー・マクミラン氏が定期的に質問を送り、スチュアート経由で確認するというプロセスでした」と振り返るボハナ氏

映画製作の過程では、視覚的な表現のために原作と異なる変更も必要だったという。「例えば『アズカバンの囚人』以降、ハリーの杖のデザインを変更することになりました。小説ではシンプルな描写でも、映像ではより視覚的にパワフルなものが必要だと感じたからです。この点についてもJ.K.ローリングは理解を示してくれました」とシリーズの途中でもチームは臨機応変な対応を行った。

小道具製作の変化

ハリー・ポッター時代と比べた現在の小道具製作の変化について、ボハナ氏は「常に変わり続けているもの」と語る。「当時は品質を最重要課題として取り組むことができましたが、現在では資金的な制約もあり、当時のやり方を踏襲するのが難しくなっています」。

当時から高速プロトタイピングやコンピュータ支援技術を使用していましたが、現在はコンピュータに頼りすぎる傾向があります。リアルな素材やセッティングを活用することで、あまりに完璧すぎる『ビジュアルエフェクト感』を避けることが重要です。最終的には物語とキャラクターを支えるものであるべきです」と、小道具担当者ならではの質感へのこだわりを見せた。

Warner Bros. Studio Tour London – The Making of Harry Potter.

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マッドアイの小道具と蓄音機

ボハナ氏お気に入りだというアラスター・ムーディ(マッドアイ)の小道具についても興味深いエピソードがある。「俳優のブレンダン・グリーソンはアイデアを出してくれる方でした。彼はアイルランド出身ということもあり、ベルファストのタワーに似た杖を作ってほしいと依頼してきました」。最初はアルミニウムでの製作を検討したが、柔らかすぎるため最終的にはステンレス製の杖が作られたといい、「非常に先の尖った危険なもの」だったようだが、“マッドアイが足をさすっているシーン”で使用されたそうだ。

また、マッドアイの箒も「イージー・ライダーのような姿勢でまたがるため、高グレードの素材で強化する必要がありました」と、技術的にチャレンジングだったという。

ピエール・ボハナ氏、最近の活躍

最近手がけた作品『デューン 砂の惑星PART2』では、ブダペストでの撮影に携わり、ブリーザーシステム(呼吸装置)のデザインを担当したボハナ氏。「ピストンやパイプが施されたすばらしいアイテムを作りました。実は私の父がデヴィッド・リンチ監督版の『デューン 砂の惑星』で模型のスーパーバイザーを務めていたこともあり、個人的にもゆかりのある作品でした。私が制作した小道具は好評で、出番が増えたこともありました」と、同作との縁を感慨深く振り返っている。

監督の変化と映画の雰囲気

シリーズを通じて監督が変わったことによる影響について、「各監督がそれぞれ独自のトーンを映画に与えます。(『炎のゴブレット』の)マイク・ニューウェル監督は英国らしさをもたらしたと思います。軽快でちょっとお馬鹿なところもあり、特にマクゴナガル先生のダンスレッスンのシーンは典型的なニューウェル監督らしいシーンでした」と語ったボハナ氏は、「大きな蓄音機を作るのがとても楽しかった」と振り返っている。

ハリー・ポッターシリーズの小道具制作を振り返り、「全ての小道具が集中したデザインプロセスを経ており、どれも甲乙つけがたい」と語るボハナ氏。「小道具作りは常に発見の旅であり、何かを作り、そこから学んだことを次に生かしていくプロセスです」。小道具づくりへの情熱とこだわりを見せるボハナ氏らが制作した小道具の数々は、スタジオツアー東京でじっくり眺めることが可能だ。

期間限定の特別体験で『炎のゴブレット』の世界に没入

本特別企画では展示だけでなく、館内のレストランでは限定フードの提供や関連商品の展開など、「炎のゴブレット」に合わせた様々な企画も存在する。映画の世界観を五感で楽しめる機会となる。

ハリーが挑む三大魔法学校対抗試合の壮絶な試練、仲間たちとの青春と成長、そして魔法界の闇の帝王ヴォルデモートの復活へと繋がる衝撃の結末。「炎のゴブレット」が巻き起こす壮大な物語の裏側がスタジオツアー東京によみがえる。

公開から20年を迎えた今もなお色褪せることのない映画の記憶をたどる期間限定の本特別企画。映画ファンはもちろん、映画制作の舞台裏に興味のある方にとっても、見逃せないイベントとなるはずだ。

『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』特別企画「炎のゴブレット」は2025年4月18日(金)から9月8日(月)まで、ワーナー ブラザース スタジオツアー東京にて開催。詳細は特設サイト(https://www.wbstudiotour.jp/the-goblet-of-fire-2025/)にて確認できる。

Warner Bros. Studio Tour London – The Making of Harry Potter.

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