バチカンの最も神聖な儀式に光をあてる『教皇選挙』が、ついに3月20日(金)に日本公開。エドワード・ベルガー監督が『西部戦線異状なし』で示した卓越した映像センスと、レイフ・ファインズを筆頭とする名優たちの演技が融合し、普段は決して目にすることのできない教皇選出の舞台裏を描き出す。宗教的権威と人間的葛藤が絶妙に交錯するこの物語は、信仰を持つ者も持たない者も等しく魅了する普遍的なドラマとなっている。
『教皇選挙』あらすじ

©2024 Conclave Distribution, LLC.
全世界に14億人以上の信徒を有するキリスト教最大の教派・カトリック教会。その最高指導者にして、バチカン市国の元首であるローマ教皇が、死去した。悲しみに暮れる暇もなく、ローレンス枢機卿(レイフ・ファインズ)は新教皇を決める教皇選挙<コンクラーベ>を執り仕切ることに。世界各国から100人を超える強力な候補者たちが集まり、システィーナ礼拝堂の扉の向こうで極秘の投票が始まった。票が割れるなか、舞台裏で蠢く陰謀、差別、スキャンダルの数々にローレンスの苦悩は深まっていく。そして新教皇誕生を目前に、厳戒態勢下のバチカンを揺るがす大事件が勃発するのだった――。
圧倒的な映像美と音楽が紡ぐ秘められた世界
荘厳な衣装とセットの隅々まで行き届いた細部、耳に残る重厚な音楽、そして左右対称を意識した圧迫感ある撮影構図——『教皇選挙』はそのすべての要素を駆使し、我々が普段目にすることのない秘められた儀式の世界へと観客を引き込む。この非日常的空間が放つ神秘的な魅力に、映画が始まった瞬間から心を奪われる。

©2024 Conclave Distribution, LLC.
音楽面では、Netflixリメイク版『西部戦線異状なし』(2022年)でエドワード・ベルガー監督とタッグを組み、見事にアカデミー作曲賞を手にしたフォルカー・ベルテルマンが再び才能を発揮。中低音の弦楽器が織りなす荘厳なサウンドスケープが、バチカンという閉じられた世界の厳粛さと内に潜む緊張感を見事に表現している。その音の一つ一つが、この特異な世界観を強く印象づける重要な役割を果たしている。
信仰と人間性の相克—多彩な個性が交錯する権力の舞台
『教皇選挙』が終始描き出すのは、神に仕える聖なる存在でありながら、同時に一人の人間としての葛藤を抱える聖職者たちの内面だ。特に選挙を取り仕切る重責を担うローレンス枢機卿を演じるレイフ・ファインズの存在感は圧倒的である。表面上は模範的な聖職者として毅然とした態度を貫きながらも、彼が時折見せる弱々しい表情や迷いの瞬間には、権威の仮面の下に隠された人間らしい脆さが滲み出ている。

©2024 Conclave Distribution, LLC.
ファインズは、人徳が溢れ出る威厳あるオーラと、内なる苦悩に引き裂かれる繊細な感情の機微を絶妙なバランスで表現し、観る者を物語の奥深くへと引き込む。『イングリッシュ・ペイシェント』から『シンドラーのリスト』、『ハリー・ポッター』シリーズに至るまで、多彩な役柄を演じてきた彼ならではの、人間の複雑さを体現する演技に圧倒される。その一挙手一投足に宿る確かな説得力は、この物語の核心である「信仰と人間性の相克」を鮮やかに浮かび上がらせている。
物語の厚みを支えるのは、豪華な脇役陣の存在感だ。スタンリー・トゥッチ(ベリーニ枢機卿役)、ジョン・リスゴー(トランブレ枢機卿役)、ルシアン・ンサマティ(アデイエミ枢機卿役)、セルジオ・カステリット(テデスコ枢機卿)、そしてカルロス・ディエス(ベニテス枢機卿役)——彼らはそれぞれが異なる理念や野心、背景を背負った人物として、堂々たる演技で画面に生命を吹き込んでいる。

©2024 Conclave Distribution, LLC.
真紅の枢機卿の衣装を纏った彼らは、まさにその役柄にふさわしい威厳と品格を漂わせ、システィーナ礼拝堂という限られた空間の中で繰り広げられる権力闘争に説得力を与えている。特に重要な場面での彼らの発言は、それぞれの立場や思想を鮮明に打ち出し、緊張感に満ちた会議室の空気を震わせる。一語一句が重みを持ち、教皇位という究極の地位をめぐる駆け引きの複雑さを浮き彫りにする瞬間は、政治ドラマとしての魅力も兼ね備えている。
周縁から見つめる真実——カトリックにおける女性の存在
また、今作が鋭く描く“女性像”にも注目したい。システィーナ礼拝堂という白く神聖な空間を支配する真紅の衣装の枢機卿たち——男性たちの存在感と対照的に、暗い青の装いに身を包むシスターたちは意図的に周縁に追いやられている。この視覚的対比によって、カトリック教会における家父長制の根深さが静かに、しかし強烈に観る者の胸に迫ってくる。

©2024 Conclave Distribution, LLC.
そんな「見えない存在」として自らを位置づけながらも、確かな目と耳で捉えた真実を毅然と主張するシスター・アグネス。彼女を演じるイザベラ・ロッセリーニの存在感は、控えめながらも揺るぎない強さを放っている。『ブルーベルベット』や『イノセント』などの名作で知られるロッセリーニは、その表情と所作で、男性社会の裏側で静かに真実を見つめ続けてきた女性の尊厳を体現している。映画内において彼女が醸し出す芯の強さは、教会という伝統的なヒエラルキーの中にあっても、真実の声が決して消し去られることのない希望を示唆している。
予測不能な結末と心に残る余韻
そして、物語を締めくくる最後の一捻り。予測不能なサプライズとも言えるこの結末は、それまで積み上げてきた緊張感を一気に別次元へと昇華させる。衝撃と、しかし同時に不思議な説得力を持つこの幕切れに、観客はそれぞれの視点で思索を巡らせることになるだろう。
監督は巧みに、最終的な解釈を観客一人ひとりに委ねている。そこには信仰と現実、伝統と改革、あるいは個人と組織という普遍的なテーマに対する、多様な読み解きの可能性が開かれている。劇場を後にする頃には、重厚な余韻と共に「すばらしい作品を体験した」という充実感が心を満たしているはずだ。エドワード・ベルガーは、神学的テーマを扱いながらも、純粋な映画体験として心を揺さぶる傑作を作り上げた。その映像美と物語の深みは、長く記憶に残り続けるに違いない。
単なる宗教ドラマの枠を超え、権力、信仰、人間性という永遠のテーマに正面から向き合う傑作『教皇選挙』は3月20日(金)日本公開。

©2024 Conclave Distribution, LLC.
作品情報
タイトル:教皇選挙
原題:CONCLAVE
監督:エドワード・ベルガー
脚本:ピーター・ストローハン
出演:レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニ
日本公開:2025年3月20日
2024年|アメリカ・イギリス|英語・ラテン語・イタリア語|カラー|スコープサイズ|120分|字幕翻訳:渡邉貴子|G
©2024 Conclave Distribution, LLC.
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://cclv-movie.jp
X:https://x.com/CCLV_movie
