映画『トゥラン』(1957)を紹介&解説。
映画『トゥラン』概要
映画『トゥラン』は、インドネシアのバクティアル・シアギアン監督が、オランダの植民地支配からの独立を目指す人々の闘争を背景に、村人たちの暮らしと恋愛を描いた戦争ドラマ。インドネシア独立戦争下、オランダ軍との戦闘で負傷した兵士ルスリは、北スマトラ州の村で村長の娘ティピに介抱される。ふたりの間には恋が芽生えるが、オランダ軍の脅威は村にも迫っていた。出演はニズマ・ザグルルシャー、オマル・バッハ、ズビエル・レロら。1958年の第1回アジア・アフリカ映画祭に出品された作品で、1960年にはインドネシアの映画賞で作品賞や監督賞を受賞。その後、長らくフィルムが所在不明となっていたが、2023年にロシアの映画アーカイブで再発見された。2026年の第39回東京国際映画祭では「CROSSCUT ASIA+」部門で上映される。
作品情報
| 日本版タイトル | 『トゥラン』 |
|---|---|
| 原題 | Turang |
| 製作年 | 1957年(資料によっては1958年) |
| 本国公開日 | 1958年5月29日(IMDb記載) |
| 日本公開日 | 一般劇場公開未定(2026年10月26日、第39回東京国際映画祭で日本初上映) |
| ジャンル | 戦争/ドラマ/恋愛 |
| 製作国 | インドネシア |
| 上映時間 | 91分(東京国際映画祭上映版) |
| 監督・脚本 | バクティアル・シアギアン |
|---|---|
| 製作 | アブバカル・アブディ |
| 撮影 | K・K・チャン |
| 作曲 | ジャガ・デパリ |
| 出演 | ニズマ・ザグルルシャー/オマル・バッハ/ズビエル・レロ/アフマディ・ハミド/ハディジャム・タハックス/トゥアフタ・ペランギンアン |
| 製作会社 | ジャジャサン・グドゥン・プムダ・メダン/レンチョン・フィルム |
| 配給 | 日本配給未定(26年10月時点) |
あらすじ
インドネシア独立戦争のさなか、北スマトラ州カロ地方の村セベラヤ。オランダ軍との戦闘で負傷した独立運動の兵士ルスリは、仲間の助けによって村にかくまわれることになる。
村長とその娘ティピは、オランダ軍に見つかる危険を冒しながらルスリの世話を引き受ける。傷を癒やすため村で過ごすうちに、ルスリとティピの間には次第に恋愛感情が芽生えていく。
しかし、オランダ軍の追跡は続いていた。密告者の存在によってルスリたちの居場所が明らかになり、独立を目指す兵士たちは再び戦闘と移動を余儀なくされる。
恋するふたりの未来と、故郷の自由を守ろうとする村人たち。戦争の脅威が迫るなか、人々は自らの土地と暮らしを守るために抵抗を続けていく。
主な登場人物(キャスト)
ティピ(ニズマ・ザグルルシャー):北スマトラ州カロ地方の村に暮らす、村長の娘。負傷した独立運動の兵士ルスリをかくまい、献身的に介抱するうちに恋愛感情を抱くようになる。
ルスリ(オマル・バッハ):オランダの植民地支配に抵抗する独立運動の兵士。戦闘で負傷したため村に身を隠し、ティピたちの看護を受ける。回復するなかでティピとの恋が芽生えるが、独立闘争に再び身を投じようとする。
トゥア(トゥアフタ・ペランギンアン):ティピの兄で、ルスリとともに独立運動に参加する兵士。
デンダム(ハディジャム・タハックス):オランダ軍に情報を提供する密告者。
作品の魅力解説
英雄ではなく、村人たちの視点から描く独立戦争
インドネシアがオランダの植民地支配から独立を目指した歴史を題材にしながら、本作が中心に据えるのは著名な政治指導者や軍事的英雄ではなく、地方の村で暮らす普通の人々だ。
村人たちは、負傷した兵士をかくまい、自らの生活を危険にさらしながら独立運動を支えていく。戦争は兵士たちだけの出来事ではなく、そこで暮らす人々の日常そのものに関わる問題として描かれる。
監督のバクティアル・シアギアン自身も、この地域で独立闘争に参加した経験を持っていた。
そうした背景を持つ映画作家が、村人たちの経験を通して独立の歴史を語っている点は、本作を特徴づける重要な要素となっている。
戦争と恋愛、そして土地の風景を結びつけるネオレアリズモ
『トゥラン』は、イタリア映画のネオレアリズモにも通じる現実主義的な表現を特徴とする作品だ。
独立戦争を描きながらも、戦闘場面だけに焦点を当てるのではなく、村人たちの生活や歌、自然の風景、若い男女の恋愛が物語の重要な部分を占めている。
負傷した兵士ルスリと、彼を介抱するティピの関係は、国家規模の独立運動と個人の人生を結びつける役割を果たす。
戦争の大きな歴史のなかに、名前を残すことのない人々の生活が存在していたこと。その事実を土地の風景とともに記録している点も、本作の見どころだ。
政治的弾圧で失われ、約60年を経て再発見された映画
映画そのものがたどった歴史も、『トゥラン』を語るうえで欠かせない。
1958年には第1回アジア・アフリカ映画祭で上映され、1960年にはインドネシアの映画賞で作品賞や監督賞などを受賞した。
しかし、1965年以降のインドネシアでは大規模な反共弾圧が発生。左翼系文化団体レクラに関わっていたバクティアル・シアギアン監督も投獄され、多くの作品が失われてしまった。
『トゥラン』も長年にわたって所在不明となっていたが、監督の娘で研究者・キュレーターのブンガ・シアギアンによる調査の結果、2023年にロシアの映画保存機関ゴスフィルモフォンドで再発見された。
2025年にはロッテルダム国際映画祭でも上映され、各国の観客に紹介されるようになった。
独立戦争の記憶を伝える作品であると同時に、その後の政治的な弾圧によって消されかけた映画史の一部でもある。こうした製作と再発見の経緯が、本作に歴史資料としての重要性を与えている。
