映画『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(2008)を紹介&解説。
映画『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』概要
映画『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』は、ベン・スティラーが監督・製作・原案・脚本・主演を務め、戦争映画の撮影現場とハリウッドの内幕を過激な笑いで風刺したアクションコメディ。わがままな俳優たちがリアリティーを追求したゲリラ撮影へ送り出され、本物の武装組織との戦いに巻き込まれていく。共演はジャック・ブラック、ロバート・ダウニー・Jr、ニック・ノルティ、マシュー・マコノヒー、トム・クルーズら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』 |
|---|---|
| 原題 | Tropic Thunder |
| 製作年 | 2008年 |
| 本国公開日 | 2008年8月13日 |
| 日本公開日 | 2008年11月22日 |
| ジャンル | アクション/コメディ/戦争 |
| 製作国 | アメリカ |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 107分 |
| 監督 | ベン・スティラー |
|---|---|
| 原案 | ベン・スティラー/ジャスティン・セロー |
| 脚本 | ベン・スティラー/ジャスティン・セロー/イータン・コーエン |
| 製作 | スチュアート・コーンフェルド/ベン・スティラー/エリック・マクレオド |
| 製作総指揮 | ジャスティン・セロー |
| 撮影 | ジョン・トール |
| 編集 | グレッグ・ヘイデン |
| 作曲 | セオドア・シャピロ |
| 出演 | ベン・スティラー/ジャック・ブラック/ロバート・ダウニー・Jr./ジェイ・バルシェル/ブランドン・T・ジャクソン/ニック・ノルティ/マシュー・マコノヒー/トム・クルーズ |
| 製作 | ドリームワークス・ピクチャーズ/レッド・アワー・プロダクションズ |
| 配給 | パラマウント・ピクチャーズ |
あらすじ
東南アジアのジャングルでは、ベトナム戦争を題材とする超大作映画『トロピック・サンダー』の撮影が進められていた。しかし、出演俳優たちの衝突や失敗によって製作は早くも危機に。追い詰められた監督は、俳優たちをジャングルへ放り込み、隠しカメラによるゲリラ撮影を始める。ところが、一行は本物の武装組織の縄張りへ踏み込んでしまう。
主な登場人物(キャスト)
タグ・スピードマン(ベン・スティラー):かつて人気アクションシリーズで一世を風靡したものの、現在は低迷している映画スター。再起を懸けて、戦争映画『トロピック・サンダー』の主人公ジョン・“フォーリーフ”・テイバックを演じる。
ジェフ・ポートノイ(ジャック・ブラック):下品な笑いを売りにしたコメディ映画で知られる人気俳優。薬物依存の問題を抱えており、撮影中も禁断症状に悩まされる。
カーク・ラザラス(ロバート・ダウニー・Jr.):役になり切ることを信条とするオーストラリア出身の演技派俳優。黒人兵リンカーン・オシリスを演じるため、皮膚の色を変える処置まで受け、撮影外でも役柄を崩そうとしない。
アルパ・チーノ(ブランドン・T・ジャクソン):俳優業に進出した人気ラッパー兼実業家。自身が手がける飲料などを積極的に宣伝する一方、カークによる黒人像の演じ方には鋭い疑問を投げかける。
ケヴィン・サンダスキー(ジェイ・バルシェル):主要キャストの中では比較的経験の浅い若手俳優。原作と脚本を読み込み、軍事訓練の内容も覚えているなど、個性的なスターたちの中で最も真面目に撮影へ臨んでいる。
ジョン・“フォーリーフ”・テイバック(ニック・ノルティ):映画の原作とされる回想録を書いたベトナム帰還兵。軍事アドバイザーとして撮影に参加し、制御不能となった俳優たちをジャングルで撮影する方法を監督へ提案する。
デミアン・コックバーン(スティーヴ・クーガン):超大作映画『トロピック・サンダー』を任されたイギリス人監督。スター俳優たちを統率できずに追い詰められ、危険なゲリラ撮影へ踏み切る。
リック・ペック(マシュー・マコノヒー):タグを担当している熱心な芸能エージェント。タグが出演契約で約束された特典を受け取れるよう、スタジオ側と粘り強く交渉する。
レス・グロスマン(トム・クルーズ):映画を製作するスタジオの強権的な経営者。激しい言葉と威圧的な態度で現場を動かし、作品の完成よりも会社の利益を優先する。
作品の魅力解説
戦争映画とハリウッドを同時に風刺するメタ構造
物語は、出演俳優たちの架空の予告編という体裁で幕を開ける。そこから劇中映画の撮影現場、俳優たちが巻き込まれる本物の戦闘、そして撮影が続いていると思い込んだまま繰り広げられる彼らの演技へと、虚構と現実の層が幾重にも折り重なっていく。徹底して入れ子状に構築されたメタ構造のコメディだ。
戦争体験さえも自己宣伝の材料にしようとするスター、賞のためなら手段を選ばない俳優、利益ばかりを優先するスタジオ——本作は映画業界の虚栄と狂騒を、余すところなく笑いの標的へと変えていく。
スターたちが自らのイメージを覆す大胆な演技
落ち目のアクションスターに扮するベン・スティラー、薬物依存に苦しむコメディ俳優を演じるジャック・ブラック、そして極端な役作りへとのめり込んでいく俳優を体現するロバート・ダウニー・Jr.——三者三様の強烈な個性が真っ向からぶつかり合う。なかでもダウニー・Jr.は、その怪演によって本作でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされている。
加えて、特殊メイクで容姿を根本から変貌させたトム・クルーズの怪演も見逃せない見どころだ。これほど豪華な顔ぶれが揃って全力で悪ふざけに興じる光景は、そうそうお目にかかれるものではない。
パロディーの枠を超えた本格的な戦場描写
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『地獄の黙示録』や『プラトーン』を下敷きにした明確なパロディも織り込まれているが、なかには「倫理的にどうなのか」と引っかかってしまい、素直に笑えない場面も正直あった。その意味で、観る者の好みがはっきり分かれるコメディでもあるだろう。
とはいえ、ジャングルを舞台にした銃撃戦や爆破、ヘリコプターを動員した撮影など、アクション映画としての規模は相当に大きい。重厚な映像と音楽で戦争映画さながらの迫力を丁寧に作り込みながら、その直後に俳優たちの勘違いや内輪もめを差し込む——この落差の設計によって、緊迫感と笑いを見事に両立させている。
危うさまで含めた過激な風刺
黒塗りで黒人を演じたり、吃音をネタにしたりと、いくらコメディとはいえ庇いきれない痛烈な描写もある。
差別的な役柄や過剰な役作りを平然と利用するハリウッド側への風刺、という読み方もできるだろう。だが、その風刺がさらなる追い討ちとなり、過剰なコメディが誰かを侮辱する結果に転じてしまっては、本末転倒ではないか——そう思わずにはいられないところはある。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
